見出し画像

「短編」さよならの前の神様。⑤

「あやのちゃん、ごめんちょっと待たせたかね?」

「いや、10分前に来たくらいよ」

「それにしても、キナコちゃんは私服も色っぽいんじゃね。これに好かれる白川先輩の羨ましい事よ」

「んな、事ないよ。ブスやもん」

「ブスやったら、胸元に花のシルバーアクセとかつけて来んよ」

「これは、ばっちゃから貰った大切なものやもけ、お守りで付けとるんよ」

「キナコちゃんとこのおばあちゃん本当にキナコちゃんの事ば分かっとるよね。羨ましか。可愛か服作ってくれたり、キナコちゃんにべったりやもんね」

「ばっちゃは本当に好きたい。ウチも大人になったらばっちゃみたいになりたかよ」

「今度、キナコちゃんのおばあちゃんの爪ば持ってきてくれん?家の親に煎じんと呑ませるけ」

「それしたら、あやのちゃんとこのご両親の腹壊れるけダメよ」

「親は腹は強かけ大丈夫たい。それより行こうかね」

そして、学校の正門からあやのちゃんの家の方へ歩いて行き、河川敷に出たくらいの頃から、心臓が鼓動を早め胸が痞える様な変な気分になってきた。

「キナコちゃん顔の強張って来とるよ?ホッペのヒクヒクしよる。緊張してきたんかな?」

「たぶん。これが緊張って言うんやね。歌のテストで皆んなの前で一人で歌う時よりも、やばいかもしれん」

「あれば越えるとかやばいね。でも、白川商店はまだ先やけ緊張ははやかよ。後、10分くらいかね。行ったとしても白川先輩おるかは分からんけどね」

「いっその事おらん方が私は嬉しいかもしれん。そしたら、そのままあやのちゃんとブラブラするとに」

「私はおらんやったら白川商店の前で待つつもりやけどね」

「それは私の心臓が持たんけやめとかん?」

「キナコちゃんは心臓はダイヤモンドより硬いと思ったったけど、意外と豆腐なんじゃね」

そんな事を話していると「そこの角ば曲がったら白川商店や」

「私が先に見てくるけ、キナコちゃんはここで待っとき」

あやのちゃんのその言葉で心臓の奥がトクンっと音を立てた。その音は最初は小さくなっていたが、次第に大きくなり背中を伝い尻尾の先まで響いている様な感じがした。

あやのちゃんが戻って来て「キナコちゃんグッドタイミングや。今、ちょうど一人で店番しとるし、お客さんの誰もおらんからチャンスや。行くよ」

あやのちゃんはそう言うと来た道を歩き出した。私はあやのちゃんの後ろに隠れる様に出来るだけ小さく小さく纏まりながら歩いた。

カチューシャに隠れた耳は緊張でピンっと立っている感覚があり、今にもカチューシャを吹っ飛ばしそうなくらい張り詰めていた。

「ごめん下さい。」

っと、あやのちゃんが入って行くと白川先輩は読んでいた本を店台に置くと「いらっしゃい」っと声を掛けた。

「あの、私達同じ中学に通ってるんですけど」

あやのちゃんがそう言うと「知ってるよ。一年のだろ」っと少しヒンヤリとした声で言った。

「ちなみにですけど、白川先輩はどのお菓子が好きですか?」

あやのちゃんはどんどん攻めていった。よっぽどあやのちゃんのハートはダイヤモンドよりも硬く覆われているのだろう。

「僕あまりお菓子食べないけど、その飴は時々舐めるかな?」

「この飴ですか?どうぶつのドロップ」

「そうだね。時々買って食べてるよ。でも君たちにはそっちのアイスの方がいいんじゃない?暑かっただろうから、僕のおごりで食べて行きなよ」

そう言って白川先輩は椅子から立ち上がると近寄ってきて、業務用のアイスの冷蔵庫に掛けてあった花柄のシートを取って見せてくれた。

白川先輩は細すぎず筋肉質すぎずでも、繊細に作られた白い手で私達にアイスを一つづつ渡してくれた。

「君はキナコちゃんだろ?名前が変わってるから覚えているんだ。だからキナコ味のアイスを奢ってあげるよ」

「ありがとうございます」

私は手汗が白い繊細な手に当たらない様に慎重に受け取ると、今にも自分の体温で溶けそうなアイスを食べた。

「外は暑いだろうから、そこに座って食べなよ」

椅子を二脚用意してくれ、あやのちゃんと2人並んで座った。

白川先輩は店台の椅子に座ると閉じてあった本を読み始めた。

「キナコちゃん。キナコちゃん。せっかく来たんだから、話さなきゃ」

あやのちゃんは小さく私に言いながら、肘をトントンと私にぶつけて来る。

「無理だよ。心臓が口から出そうになってるんやから」

っと必死の抵抗をした。

「白川先輩キナコちゃんが、聞きたい事あるみたいですよ?」

あやのちゃんはそんな事お構いなしのお節介を発揮した。空気が読めないとはこの事だと私は初めて肌で感じた瞬間だった。

「ん?キナコちゃん何だい?」

白川先輩は本を置き、私に視線を向けた。

尻尾はもう攣りそうなくらい張っており、ピンっと逆立った耳で頬の筋肉は痙攣しだした。私は自分の身体がオーバーヒートしそうで頭が回らなくなり、咄嗟に

「キツネ。キツネは好きですか?」

っと訳の分からない質問をしていた。

白川先輩はちょっと考え、ぶはっと笑いながら「キツネは好きだね。だって当たりだからね」

っと答えた。

「ありがとうございます」

私はそう言うとこの空気感に潰されそうな感覚となり居ても立っても居られず外に出た。

来た道を早足で歩いていると、遠くから「ありがとうございました」っとあやのちゃんの声が聞こえ走って私を追いかけてきた。

「キナコちゃん待ってよ。急に無茶振りしてごめんね」

あやのちゃんは私の横に並ぶと歩を合わせながら言った。

「あやのちゃん。めちゃめちゃ緊張してもう、あの空間にはおれんって思ったて気づいたら出てしまっとったよ」

「キナコちゃんが急に出るけ、私の無茶振りで怒ったんかな?って思ったわ」

「怒るとか怒らんとか考えたれんくらい緊張しとったんよ。それより急に出たけ、白川先輩びっくりしとらんやろか?嫌われとらんやろか?」

「最初びっくりしたったけど、また二人でおいでって言いよったから大丈夫じゃろ」

「なら、良かった。アイスの味覚えとらんよ。それよりも喉のカラカラや。」

「なら、そこでジュースでも買って飲もうかね」

自動販売機でお茶を買うと一気に飲み干した。
「キナコちゃんはいい飲みっぷりじゃね。将来大人になってから居酒屋行くとの楽しみよ。てか。」

あやのちゃんはジュースのタブを勢いよくあけると「キツネ。キツネ好きですか?って何ね?緊張しとるにも程のあるじゃろ」

そう言って、その時の私の真似を始めた。

「あやのちゃんやめてくれんね。本当に緊張したんやけ」

「ありゃ、傑作やったね。キツネ。キツネは好きですか?って」

「それ以上言うたら怒るよ。」

「もう言わん。もう言わん。ごめんって」

私達はそんな話をしながら学校の方へと歩いた。河川敷に座り夕方の涼しい風を浴び、さっきまでの熱量も冷め今日の出来事をしんみりと2人で話した。

「白川先輩何かキナコちゃんと合いそうな感じやね。また、行こうね」

「あやのちゃんがもう少し落ち着いてサポートしてくれるなら行こうかね」

「次は任せんね。今日で勉強したけ」

そして、そのまま日が暮れる前にあやのちゃんと別れ私は家に帰った。

「キツネは好きやね。当たり屋から。っか。嬉しかね」

緊張していた私の尻尾はフニャっとなり、筋肉痛の様な痛みが走っていて、緊張し過ぎた耳に突っ張られた後頭部が少し頭痛みたいに痛かったが、私は畦道をスキップしながら帰った。

「今日はいい疲れ方じゃったね。帰ってばっちゃのご飯食べようかね」

家につきドアをあけると「キナコお帰り。早う着替えて手を洗っといで、ご飯できとるよ」っとばっちゃが迎えてくれた。

「ばっちゃ。今日少し疲れたけ、ご飯は濃いのが希望やけど、何かね?」

「今日はハンバーグやけど、良かったけ?」

「もちろんたい。やっぱりばっちゃはウチの事何でもお見通しじゃね」

「あー。せやね」っとばっちゃは嬉しそうに言った。

温かいご飯を食べながら私は今日の事を思い出していた。

「あんな、ばっちゃ。今日ウチなすっごい頑張ったんよ。聞いてくれんね?」

「何を頑張ったとね?」

「えとな。。。」

私は今日の事をばっちゃに話し始めた。

〜つづく〜

「mono」アプリ😄
文章創作アプリ。質問形式で物語を構築しているサービスの宣伝をさせて頂いております。

・質問形式なので構想が簡単にできる📝
・完成されたあなたの作品がデザインされた背景で彩られます📝
・完全無料でお使いでき、Twitterへの投稿も可能です📝

是非、「mono」アプリお使いになってみて下さい😄

↓↓↓↓

「mono」カキアプリはこちらから💁‍♀️

この記事が参加している募集

スキしてみて

眠れない夜に

読んで頂きありがとうございます🙇サポート頂いた金額に関しましては、お菓子おじさんの活動に使います!お菓子おじさんとは?と思われた方はnoteに説明ありますので、合わせて読んで頂けたらと思います🙇