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「短編」さよならの前の神様。②

「ばっちゃ。ばっちゃ。今日からキナコは大人じゃね。」

鏡の前に立ち色んなポーズをとりながらばっちゃんにそう言っていた。

「キナコももう大きくなって、もうばっちゃはキナコをおんぶする事もできんくなったよ」

「じゃろ。ウチは毎日ばっちゃのご飯を食べよるけ、大きくなるとも走るとも早かとよ」

キナコはランドセルを背負ったまま円卓に着くとご飯を食べ始めた。

「ばっちゃ。今日のキュウリの漬物もうまかね。よう塩の浸かっとるよ」

キナコはご飯をぺろりと2杯食べ終わると、また鏡の前に立ち色んな角度から自分の姿を見ていた。

無事入学式を終え、キナコは小学生になった。
そんなある日キナコが学校から帰って来ると、はーっとため息をついて落ち込んでいる様だった。

「キナコどうしたんじゃ?お芋さんの冷えて固まってしまうぞ?」

「なー。ばっちゃ、スカートはキナコは履いたら駄目なのか?」

「キナコがスカートを履いたら尻尾の見えてしまうじゃろ?そのズボンは嫌かね?」

「ばっちゃの買ってくれたけ、お気に入りじゃけど、他の女の子はスカート履いとってヒラヒラして可愛いとよ。だけ、ウチもあんなヒラヒラしたとば履きたかよ」

キナコはそう言って、はーっとため息を吐くと冷めたサツマイモをホロホロと食べ始めた。

次の日キナコが家に帰るとばっちゃんは居間の方から手招きをしキナコを呼んだ。

ばっちゃんの前に正座に座るとばっちゃんは箪笥の中から黄色いヒラヒラのスカートを取り出した。

「キナコ用にばっちゃが作ってみたんよ。来てみらんね」

キナコは余りにも嬉しくズボンだけ脱げば良いのに全裸になりスカートを履いてみた。

「ばっちゃ、これスカートじゃけどズボンみたいになっとるけん尻尾の隠せるね。見た目はスカートたい」

キナコは鏡の前に立ちばっちゃんの作ってくれた黄色いお手製のスカートを履いて色んなポーズをとった。

「ばっちゃはやっぱり天才じゃ」

キナコはばっちゃんの胸に飛び込むと顔を押し当ててそう言った。

次の日ヒラヒラのばっちゃんお手製のスカートを履いて帰ってきたキナコはばっちゃんを見つけると

「今日なこのスカート見たお友達が褒めてくれたん。キナコちゃんそのスカート可愛かね。女優さんのごたるよ。」

キナコはそう言って部屋着に着替えると「シワになるけ」っと大事にスカートを畳んでいた。

「んでな、ばっちゃが作ってくれたん。って言ったら、凄かねってばっちゃを褒めよったよ。それが一番嬉しかったとよ」

キナコは自慢げにお尻から出た尻尾をフリフリしながら言っていた。

「ウチはばっちゃの事が大好きやから、ばっちゃが褒められるのが、一番嬉しいん。ずっと一緒に居ないといけんね」

そう言ってランドセルから教科書とノートを取り出して漢字の宿題を始めた。

キナコは真っ直ぐで、曲がった事が大嫌いだからクラスの男の子に揶揄われても、立ち向かって行く少しばかりお転婆に育った。

小学校に通い始めて4回目の春が訪れて、寒さは和らぎ、所々ピンクの化粧を始めた山を横目にばっちゃんとキナコは散歩をしていた。

「なあ。ばっちゃ。最近な頭の横に何か小さいイボみたいなのができて気持ち悪いんよ」

「何処かね?こっち来て見せてみ?」

キナコが頭をばっちゃんに見せると、ばっちゃんは髪をかき分けながら見てみた。するとそこには黄色い大豆くらいの大きさの物が頭から2箇所生えていた。

「これと、これかね?」

ばっちゃんがそれを触るとキナコは「何か頭の中のソワソワする」っとくすぐったい様な素振りを見せた。

「痛くないんか?」っと聞くと痛くないけど、ソワソワするから気持ち悪いっと言っていた。

その日からキナコは時あるごとに頭がソワソワするっと良い、時々頭が痛いと寝込んでしまう時があった。

日に日にその頭の何かは大きくなり始め、ある日見てみると、黒い髪の隙間から黄色い毛と先が白い毛に覆われた三角の物が2本生えてきていた。

触るとキナコはくすぐったそうにモジモジしていた。

「キナコ。こりゃ耳が生えてきてるんじゃないかい?」

ある日ばっちゃんがそう言うと、「ウチもそう思ってたん。でも、尻尾と耳が生えてきたらもうウチは学校に行けん様になる。ばっちゃんどうしたらいいんやろか?」

今にも髪の隙間から出てきそうな耳を押さえながらキナコは悲しそうにばっちゃんに言った。

ばっちゃんはそんなキナコを見てうーっと考え込んだ後、居間のタンスを開けだし、何かを作り始めた。

疲れ果てて、眠りについたキナコがばっちゃんに起こされるともう、朝日が登り始めておりキナコは眠い目を擦りながら、「ばっちゃ、どうしたの?朝早いよ」っと言うと、ばっちゃんはキナコの頭に何かを取り付けた。

「キナコ。これで耳は見えなくなったから、学校にいける様になったたい。」

キナコは頭を軽く締め付けられる感覚に違和感を感じていると、ばっちゃんが手鏡を渡してくれたので、見ると頭に大きな黄色いカチューシャがつけられていた。

「横の締め付けはどうかね?キツかったらもう少し調整できるよ?」

「ばっちゃ、これずっとウチのために作ってたんか?」

「作り始めたらはまってしまってしね、気づいたから朝になっとった」

キナコは嬉しくなってばっちゃんの胸に飛び込むと、その勢いでばっちゃんは押し倒された。

「キナコも大きくなったな。もうばっちゃんを押し倒すまでになってしもた」

そして、そのままばっちゃんは眠りについてしまった。

そして、いかんと目を覚ますとキナコがご飯を準備していた。

まん丸のおにぎりに、お皿に乗せられた一本丸々のきゅうりの漬物。

「ばっちゃみたいに綺麗な三角はできんやった」

キナコは手の平にご飯粒をつけて、茶舞台の前に座っていた。

「ばっちゃ、キナコが朝ごはん作ったけ、一緒にたべようかね」

ばっちゃんはキナコの作ってくれたまん丸のおにぎりを一口食べた。

「キナコのおにぎりは甘くておいしかね。ほっぺたの落ちる様だ」

「キナコは甘いのが好きだから、ばっちゃにも甘いのを食べさせてあげたくて。でも、米には砂糖は合わんみたいやけど、ばっちゃはこれが美味しいのか?」

「美味しかよ。こんな美味しいおにぎりは食べたことなか。キュウリとよう合う」

「ばっちゃ、キナコはやっぱり塩辛いおにぎりが、好きみたいやけ、このおにぎりも食べてよかよ」

キナコがばっちゃんに甘いおにぎりを渡すとばっちゃんは喜んでおにぎりを食べた。

「んぢゃ、ばっちゃウチ学校やから行って来るね」

キナコはキュウリをポリポリと齧りながら靴を履くと頭に光る黄色のカチューシャを見てニヤリとすると、駆け足で学校に向かった。

〜つづく〜

-tano-

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