『敗戦後論』 加藤典洋 " 語り口の問題 "
① ハンナ・アーレント
筆者は、第二次世界大戦中にドイツからアメリカに亡命した哲学者であるハンナ・アーレントの文章を読み、そこに書かれている問題が日本で自分が考えてきたことと地続きであると感じた。
たとえば、筆者はユルゲン・ハーバーマスが主張する市民的公共権について、「公衆の自覚を持った市民」や「公開の討論によって世論を形成し」といった、市民主義に付きものの腰の軽さを感じていた。一方でアーレントは、公共性という考え方を個人原理といった近代的なものからではなく、古代ギリシ