炭酸水サコ

変な話を書いたり、編んだり、想ったり。Twitterではポエマーです。

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マガジン

  • ロア

    信じようと、信じまいと―

  • 自分では信じてない話

    小学2年の夏休み、兄弟そろって行方不明になった。

最近の記事

生活のリズム

「ふう、気持ちよかった」  久しぶりの入浴を終えて思わず声が出た。新型ウイルスの影響で家から出ていくことが減り、なかなかタイミングがつかめずにいたが、ようやくゆっくりと湯を浴びることができた。  濡れた体を丁寧に拭きあげて、髪を乾かす。おろしたての新しい下着も気分がいい。部屋に一人だから下着のままソファーに身を投げると、大きめのうごめく毛玉が近づいてきた。 「ん? なんだお前、腹でも減ってるのか」  白と薄茶色からなるパンのような見た目のそれは、二つの水晶玉に反射した光

    • この美しき監獄の中で

       約80年間の沈黙を破り、封印されし伝説の魔王が復活してから早2年。世界中に魔物が湧き出し、人間は甚大な被害を被っていた。  世界最大の王国セヨハプールでは、魔王を討たんとするべく勇者の捜索が進められていた。そして、ついにその日、女神の加護を受けた者が祭壇に祀られている聖剣を抜き取り勇者となった。王は、世界一の魔法使いと、旅に必要な装備、路銀を勇者にあてがい、早速、魔王打倒の旅に出させた。  神託を受けた勇者といえど、魔物との戦闘は不慣れだったため、はじめは弱小な魔物の代表

      • 今は亡き、その言の葉

         世界のどこかにあると言われている小さな国では、とある珍しいものが取引されているそうです。それは、我々にとっては当たり前の存在とも言える、言葉です。  我が国には「言うだけならタダ」なんて言葉もありますが、とんでもない。その国では、日々使用する言葉すらも全て売買されており、国民はお互いに購入した言葉しか使うことはできません。また、買い取られた言葉は購入者のみが利用できます。  言いたい言葉、言われたい言葉、便利な言葉、美しい言葉、恐ろしい言葉、優しい言葉、面白い言葉、気持

        • レインボー

          B「だーかーらー、オレはB専じゃないってば。変化球が得意なだけ!」 A「それをB専って言うんだって」 B「違うよ!専門じゃない!ストレートだって打てるから」 A「打ったとこ見たことないぞ」 B「うるさいなぁ。そもそもお前がB専B専いうから、オレ、うかつに女の子にかわいいって言えないんだぞ」 A「お前のかわいいは、イコールぶすってことだもんな」 B「違うってば。お前がそうなるように仕向けたんだろうが」 A「どうだかな」 B「もし仮に、オレがB専だったとしても、そ

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        記事

          炭酸水の水割り、炭酸抜きで

           皆さん初めまして、炭酸水と申します。昨日の更新で、noteを始めてから自分の中で決めていた目標を完走できたので、今日は少し与太話を。あ、今日のは全然不思議とかオチとかはないので。皆さんのたくましい想像力で面白い記事だったなぁ!と補完してください。  とりあえず、最初に言いたいというか、言い訳したいのは、改行の仕方を知らなかったということ。シフト押しながらエンターなんだね。ずっとエンター単品で押してたから、普通の改行でいいところを段落空けになってました。みんなどうやってんだ

          炭酸水の水割り、炭酸抜きで

          不思議の国のキミへ

           事実は小説よりも奇なり。  イギリスの詩人バイロンによって生み出された言葉だ。様々な人間が共感し、時代を超え、国を超え、はるばるこの極東の2020まで生き永らえている言葉の一つだ。  しかし、一度考えてみて欲しい。現実では起こりえないことが、小説の中にはいくらでも起こりうる。つまり、小説の中では、奇なることなど存在しない。何が起きても不思議なことなどないのだ。  人を殺めようが、好きなあの子と結ばれようが、この世に存在するすべての金より多い金を持とうが、空を飛ぼうが、

          不思議の国のキミへ

          楽園の住人

           北ヨーロッパのバルト海沿岸に位置するフィンランドという国は、世界一豊かな水と、広大な美しい森を擁する自然の楽園だ。冬には毎夜、幻想を体現するオーロラが煌めき、夏には沈まぬ太陽が白夜と名を変え、文字通り白んだ光を灯す。  こうした特徴的な四季を巡らせるこの国には、様々な伝承がなされている。世界で唯一正式に認められたサンタクロース。神から授かったともいわれる200以上の活用を持つ言語。森の奥には小人やエルフが住むという。  この国に巡り合えたのは、民俗学演習のフィールドワー

          楽園の住人

          入口、出口

           日本人は、シャイである。これは、世界的に認められる我々の民族性だろう。もちろん、時代が移り変わり、社会性を備えた個体も数多く存在しているが、どうやら私は生粋のジパング生まれらしい。  大層な前置きをしたが、何が言いたいかというと、服を買いに行くのが苦手なのである。髪を切りに行くのもなかなかのハードルだが、これは寝たふりでもしていれば、いつの間にか終わっている。しかし、こと服屋においては、いくら寝たふりをしていたとしても、希望に沿った服は手に入らない。  服なんぞ気楽に見

          入口、出口

          それぞれの加護

          チャーリー・J・ケンディ(10) ―――飼い犬のレディが逃げ出し、それを追いかけていた。 トビー・レディック(8) ―――初めてひとりで街に出たが、道に迷ってしまった。 ジェンナ・ハンフリー(12) ―――妹のヘイゼルと喧嘩をして、母に説教をされていた。 ビリー・ホームズ(14) ―――前日の夜遅くまで聖書の勉強をしていたために寝坊した。 ウォルター・B・ライリー(16) ―――弟が高熱を出し、薬を買いに行く母に代わって、しばらく看病をしていた。 チャック・ホールデ

          それぞれの加護

          コレクション

           フランスに住む資産家の男の楽しみは、週に一度、彼の豪邸にやってくる古物商から珍しい品を買うことだった。  その日も、馴染みの古物商がやってきて、広大な庭の青々とした芝生の上に、厚手の絨毯を敷き、一定の間隔で商品がひとつひとつ丁寧に並べられていった。年季の入っていそうなテーブルや、きらきらとした装飾の施された箪笥、玉座のように見える椅子に、何者かの絵画、煌々と光を反射する食器類など、その品ぞろえは多岐に渡っている。  資産家の男は、庭がよく見えるテラスでその様子を眺めなが

          コレクション

          奥底に眠っている

           2019年、9月頃から今年の2月にかけて、オーストラリアで、大規模な森林火災が発生し、多くの被害が出たのは記憶に新しい。中でも印象深いのは、コアラの大量死だ。火事の影響でオーストラリア東部に生息していたコアラは、5分の2にまで、その数が減ったという。  コアラの好物と言えば、ユーカリの葉っぱであるというのは、ご存知の方も多いだろう。のんびりと木にしがみつき、葉をもさもさと食べる姿は、実に愛らしい。しかし、コアラが好んで食べるそのユーカリという葉っぱには、実は毒性があるとい

          奥底に眠っている

          善と、悪と、愛と

          連続殺人鬼に次いで爆弾魔か。いったいどうなってんだ、この街は。名探偵でも住んでるのか?だとしたら、さっさと容疑者を全員集めて、真犯人を指さして欲しいもんだ。 「ぅあっぢぃっっ!!」 …何やってんだ、小林。 「えー、野上さんじゃないスか、コーヒー淹れてくれって言ったのー」 ああ、そうだな。火傷をしろとは言ってない。 「うわっ、ヒドッ。そんなんだから捜査本部から外されるんスよー」 うるせぇ。あと一歩だったんだよ。あと…一歩の、ハズなんだよ…。成果ばっかり見て、現場がわ

          善と、悪と、愛と

          一寸先に杖

           生きている限り、何が起こるかは分かりません。どれだけ注意を払おうが、事件事故に巻き込まれる可能性がゼロになることはありません。未来を予知するなどもってのほかです。この世で最も信頼できる予言と言われる、明日の天気予報ですら、その精度はまちまちです。  そのため、人々はさまざまな保険を利用しています。医療保険は、病気やケガの際に診察代や治療代が一部保障され、火災保険では、盗難や文字通り火災の際に家財などが保障されます。他にも、生命保険に車保険、家具や携帯電話についている保証期

          一寸先に杖

          帰るところ

           毎年、この時期は交通網の悲鳴が聞こえてくる。新幹線や飛行機は、片道切符が普段の往復切符の値段を超えるし、高速道路は軒並み渋滞だ。同情する。私の実家は、自宅から十数駅だし、おばあちゃんの家もそこから車で10分程度。帰省ラッシュには縁がない。  大学に進学するとき、それだけ近ければ実家から通えるじゃないか、という家族の反対を押し切って、今の家を借りた。別に実家が嫌いなわけではないし、家族との仲も悪くない。だけど、憧れのキャンパスライフは、やっぱり一人暮らしがよかったんだ。友達

          帰るところ

          加工食品

           月曜日の昼下がり、街外れの精肉店に一人の老人が訪れた。ボロボロの衣服を身にまとい、かすかに異臭を放っている。やせ細った体に、蒼白な顔面は、今にも倒れそうな病人そのものであった。  入店してから、何を探すでもなくうろつく老人に、店主は呼び掛けた。 「いらっしゃい。今日は何をお探しで?」 「ああ…いや…。そうだ、少し聞きたいことがあるんだが…」 老人はしゃがれた声で答えた。はげかけた頭部とは対照的にこんもりと蓄えた眉とたるんだ皮膚が目元を覆い、どこを見ているのかすら曖昧

          不治の病

           2013年、エジプトにある考古学の研究所では、新しく発見された古文書の解読が行われていた。  その古文書は、保存の状態や様式から紀元前二千年ほどのもので、エジプトでの記録ということまでは分かっていたが、劣化がひどく、また文字もその世代で広く使われていたものとは異なっていたために解読が困難を極めていた。  研究所では、様々な観点からその文書を解析し、ついにそれが当時の医療用カルテであると突き止めた。特殊な文字列の原因は、専門用語が多用されているためだった。  解読を進め