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入口、出口

 日本人は、シャイである。これは、世界的に認められる我々の民族性だろう。もちろん、時代が移り変わり、社会性を備えた個体も数多く存在しているが、どうやら私は生粋のジパング生まれらしい。

 大層な前置きをしたが、何が言いたいかというと、服を買いに行くのが苦手なのである。髪を切りに行くのもなかなかのハードルだが、これは寝たふりでもしていれば、いつの間にか終わっている。しかし、こと服屋においては、いくら寝たふりをしていたとしても、希望に沿った服は手に入らない。

 服なんぞ気楽に見て、気に入ったものを買えばいいじゃないかと、おっしゃる進化系日本人もいるだろう。しかし、あの空間で気楽になるのは、声を出さず真顔でジェットコースターを完走するほど至難の業だ。見られていないと頭では分かっていても、謎の羞恥心が溢れ出してくるのだ。

 こんな服を見ていて、生意気じゃあないだろうか。この値段の物は、私には不相応ではないか。流行りの服が私なぞに似合うだろうか。尽きぬ不安。積極的に話しかけてくる店員。通り過ぎざまに、一瞥をくれる名も知らぬ客。

 極めつけは、試着室だ。以前、私が店頭で、(補充のため仕方なく)もじもじと流行りもののTシャツを眺めていた時、奥の試着室に、男性のマネキンを丸々抱えて入って行く女性が見えた。

 何と大胆な。女性には、メンズの服も似合う人がいると聞いたことがあるが、マネキンに着せられているセットアップを丸々、それもマネキンごと運んで着替えるのか。日本人の進化にはとめどがないようだ。早く私にも特異点がやってきて欲しいものだ。

 驚きでぼんやりそんなことを思っていたところ、その試着室からは、女性のマネキンを抱えた、先ほどのセットアップの男が出てきた。

 私は、それ以来、試着室が怖くてたまらないのだ。

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