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対話と僕⑲:『傾聴』のワナ

・はじめに

前回はざっくり今年の目標を書いてみました。
その中の一つに『1on1形式の対話の継続』を挙げていたんだけど、今週早速3人の方と対話をすることができた。
3人とも年齢・仕事・性別・家族構成の何れかが僕と異なるのでとても刺激的な対話ができている。
その中で昨年から継続して対話している方との対話が非常に興味深かったので、今回はその内容について書いていこうと思う。
※本人の同意のもと少々フェイクを挟みながら書いていく

・『聞く』という意識

この方は社内施策で毎週メンバーと1on1を実践しているのだが、僕との対話を始めた当初から『相手を知るための1on1』について一緒に考えてきた。
本人曰く、1on1において良かれと思って色々と提案してしまうことで話が展開せず、相手の本音を聞き出せていないのではないかという悩みを持っていた。
迅速に課題を特定して解決策を導き出すという流れはビジネスにおいて非常に重要ではあるが、本人としては『相手を知る』という観点で見ると機能していないと感じていた。

そこで本人が意識した事が社内研修で学んだ『傾聴』だった。
メンタルヘルスにおけるラインケアの文脈で『傾聴』について改めて学んだので先ずは実践してみようという事になった。
すぐに提案するのではなく『聴く』という意識をもって、相手の話を肯定的に捉えるところから始めようとしたのである。
最初は提案を我慢する事がなかなか難しく、自分の意見を挟んでしまう事があったようだ。
それでも3週目以降は『提案』を抑えて『聴く』事ができたという実感を本人は持っていた。

・『傾聴』してもうまくいかない

すぐに結果が出ない事はわかっていたが、社内の取り組みで毎週実施している1on1を効果的なモノにしたいという本人の強い希望もあり細かな部分まで共有してくれていた。
前述の通り徐々に『聴く』事は出来ていたものの、本人としてはなかなか手応えを感じられずにいた。
自分の意見を挟まずに相手を肯定的に捉えて話を聞いてもなかなか話が展開しない。
関係性が悪くなっているわけでも無いし、終始穏やかに1on1が進んでいくモノのそれ以上の進展が無い。
それであれば以前のように自分から『提案』をして課題解決に結びつけた方が良いのではないかと思う部分もあった。

・『傾聴』のワナ

1on1に取り組み始めた当初は、早々に課題を特定して解決のための『提案』を行う事で話が展開しない事に悩んでいた。
そこで『傾聴』というスタンスを用いて相手の話を『聴く』というモードを選択した。
『傾聴』するために相手の意見を肯定的に捉え、褒めて、驚き、共感し、相手に寄り添った1on1を実践してきた。
それでも本人が抱えている違和感はなんだろうと一緒に考えた。

そこで立てた一つの仮説が当初の目的がズレてきているという事である。
『相手を知る』だった目的が、実践の難しさから『如何に傾聴するか』というものにすり替わってしまっていた。
苦労しながら自分の『提案』を抑えて注意深く『傾聴』を実践する事でそちらに意識が集中してしまった。
つまり『提案』を抑えるために『傾聴』をしていたことになる。
もっと言うと『提案』を抑えるために相手を肯定的に捉え、褒めて、驚き、共感し、寄り添った1on1を実践していたのである。

・本来の目的を果たすために

『傾聴』という言葉は様々な場面で触れるようになったが実践してみるとその難しさを痛感する。
人は思っている以上に相手の話を『聴く』事が苦手なのである。
相手の発言に対して何か意見が思い浮かぶと、話が続いていたとしても頭が思い浮かんだ意見に持っていかれてしまう。
この時点で最早『傾聴』ではなくなっている。

では本来の目的である『相手を知る』ために何をすればよいか。
今まで話が展開して『相手を知る』に繋がった1on1を思い浮かべながら考えてみた結果、出てきた答えは思っていたよりシンプルで『尋ねる』だった。
その場で課題が特定されなくても、その課題が解決されなくてもお互いにとって有意義な時間だったと感じられる1on1では『尋ねる』を実践していた。
相手に興味を持って『尋ねる』ことが『相手を知る』事に繋がっていた。

僕もこの『尋ねる』の重要性は体感していて、以前他の表現でまとめたことがあった。
相手への興味関心は純粋な思いから発露されるべきと思われるようなイメージがあるが、僕の経験上意識的に相手に興味を持つことは可能である。
その為にも『尋ねる』という手段は有効である。

というわけで12月の後半から『尋ねる』事を意識して2度ほどメンバーとの1on1を実施した。
本人も驚いていたが、今まで以上に話が展開して今まで聞いた事の無いような意見が表出してきたとのこと。
更に、自身ももっと知りたいという意欲がわいてきて以前より自然に『尋ねる』事ができているようである。
まだ取り組み始めて間もないので継続していく必要はあるが、確かな変化を本人は感じていた。
前述の通り『尋ねる』という手段が相手への興味を醸成している。
会話の展開に悩むことがある場合は『何を尋ねるか』という視点で挑んでみるといいかもしれない。

・さいごに

以上が『尋ねる』の効果を実感した対話の内容であった。
本日の内容は今まで紹介してきた書籍との関連が大きいので書籍紹介は省かせていただく。
参考までに、関連度の高いいくつかの書籍を添付しておく。

以前も書いたことがあるのだが、ここ数年で『傾聴』等の受け入れ方に言及する書籍が増えてきている。
更にそこから発展して『尋ねる』事について述べられている書籍も増えている。(『尋ねる』より『問いかける』という表現の方が多く見られる)
上記の3冊はまさに今回の事例のような内容が学術的な背景と併せて体系的にまとめられている。
是非読んでみて頂きたい。

今年もこうした興味深い体験をするために対話を実践していきたいと思う。
誰かの新たな発見に遭遇したり、そこから自分の新しい発見に繋がったりと対話の連続性を感じられるように継続していこう。

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