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『現代思想 2024vol.52-1 特集・ビッグ・クエスチョン』(青土社)

大きな問い。人類の難問。哲学と縛ってよいかどうか分からないが、思想全般において、大きな問題となっていることを網羅する。「大いなる探究の現在地」という日本語が付せられている。一つのテーマを深める営みではないけれども、そもそも「現代思想」誌は、多くの論客の原稿が、10頁ずつくらいの長さで集められたものである。但し1頁あたりの文字数はかなり多いため、ボリュームはなかなかのものだ。連携して思索を展開するというわけではなく、各自ばらばらに考察してゆくものが並べられているのである。だから、それぞれの得意分野の問題意識をぶつけてきた本誌が、魅力を欠くようなことはありえない。むしろ、これだけ多くの問題について、現在の思想界がどうなっているかについて、一度に教えてくれるのであるから、これは実にお買い得である。
 
私の読み方は、基本的に一日に一つの原稿を読む。一日にひとつのことだけを受け止めて、考える。ラインを引きながら、引いたところを少なくとも二度読みすることで、着実にその足跡を辿りながら進むのである。こうすると、全部に目を通すのに凡そ1か月かかる。毎月この誌をも購入しても、なんとか読み続けていられるペースである。尤も、内容に対する関心の点で、毎月買うわけではないし、財政的な余裕もないので、時にこれを買うことによって、1ヶ月間の厚みのある思索読書が楽しめるという具合である。
 
さて、今回扱われる問題は、存在論から道徳論、死と生、愛すること、美しいこと、神の存在、死後の世界、心身論などと、いかにも、というものがまず並ぶ。ユニークなのは、「問いを問うを問う」という、その方面の著書を最近出版した人によるものであるが、私はそのタイトルだけから、何を言っているのかはよく分かる。私もまた、問いを問うを問うことについて関心があるからだ。
 
哲学的な問題から、やがて、生命、動物、自然のコントロール、社会学、宇宙開発、テクノロジー、宇宙論などと並ぶ。そして、「~とは何か?」という統一された規格の下で、歴史・時間・空間・言語・真理と問いかけられ、最後に自由、金で買えないもの、政治体制、戦争と走ってゆく。私たちが気になる根本的な話題が網羅されている本書は、なかなか有意義である。もちろん、医療や福祉、あるいは教育や文学と言語など、今回触れられているとは言えないことも多々あるのではあるが、そうした問題にも「現代思想」誌はしばしば強い関心を以て挑んでいるため、この度はまずこれで、よくしてくれたものだと感謝したい。
 
特集の最後を飾る、「戦争のない世界は可能か?」は、抽象的な理論ではなく、「自衛」を軸に具体的な情勢を扱ったものであったが、そこに、中村哲医師のことが少し扱われている。アメリカが「自衛」を掲げた始めたアフガニスタンへの軍事行動の不条理について、力を尽くした一人である。その攻撃は、緑の大地計画に取り組んでいた中村医師自身にも向けられていた。日本人もまた、その「自衛」に同調している限りは、その不条理を認めていたことになるだろう。「自衛」だとか「テロとの戦い」だとか、正義の名によって肯定される暴力に対する批判が必要である、という主張がそこにあった。
 
いずれも大きな問いである。だが、それらのどれをも、近代人は「他人事」として眺める視点に安住するようになってしまった。「当事者」意識の欠落である。客観に対して、主観が他の時空にいるのである。私たちは、否、私は、これらの大きな問いの当事者なのである。それが問いかけられている。それが、実のところ最大のクエスチョンであるのではないだろうか。

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