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「名君」こそ「暴君」になる

column vol.799

どんな英雄も最後には鼻につく人間となる。

アメリカの哲学者、ラルフ・ワルド・エマーソンが残した名言ですが、なぜこれだけ長い歴史を経ても、この世は暴君を生み出してしまうのでしょうか?

その答えを非常に分かりやすく解説している動画を最近見つけたので、ご紹介いたします。

中田敦彦さんの「YouTube大学」に投稿されていた「貞観政要」についての動画です。

〈中田敦彦のYouTube大学 / 貞観政要①②〉

「貞観政要」は、中国史上屈指の名君と呼ばれた第2代皇帝「太宗 李世民」が生み出した“帝王学の最高傑作”と呼ばれる名著です。

優秀な人ほど、暴君になりやすい。

という暴君に陥るメカニズムが書かれています。

一体どんな仕組みだというのでしょうか?

優秀な人ほど暴君になりやすい

完璧な人はいない。

どんな優秀で誠実な人であっても必ず“未熟”という綻びを持っています。

それが最初は小さくても、その綻びに気づかないと(目を向けていないと)徐々に広がりを見せていき、いつか暴君になり代わってしまう。

「裸の王様」にならないように、人は周りの意見を大切にしようとするのですが、実はこれが想像以上に難しい。

実際、中国の歴史においても部下からの忠告は非常に大切という想いから「諫議大夫」という皇帝を諌めるための専門の役職がありましたが、なかなか機能せず、実際に諫言する人は粛清されることが多かったのです。

なぜ忠告が聞けなくなってしまうのか?

確かに、部下の中にはリーダーの人には良いことしか言わない人もいるでしょう。

しかし、大抵のリーダーは暴君になりたくないと思っていますし、そのためには部下の忠告を受け入れることが大切ということは分かっているでしょう。

だから、積極的にみんなの意見を聞く

ただ、ここで気をつけなければならないのは、その部下の意見が必ずしも的確ではないことです。

リーダーの人は、トップになれるだけの人間なので、それだけ優秀な人です。

場合によっては、他の社員に比べてズバ抜けている可能性もあります。

優秀であれば優秀であるほど、もしかしたら「とるに足らない意見」「自分の考えの方が正しい(優れている)」と思うこともあるでしょう。

もしかしたら、「何でこの程度の甘っちょろい意見で、ワシを批判するんじゃい!」怒りが込み上げてくる場面もあるかもしれません。

ここに暴君への甘い罠が潜んでいます。

「とるに足らない意見」にも感謝する

例えば、リーダーが「自分を幸せにしたかったら、周りの人を幸せにしなさい。周りの人を幸せにすれば、社会全体が豊かになり、社会全体が豊かになれば、その社会にいるあなたにも還ってくる。短期的な利益ではなく長期的な利益を求めていこう」と言ったとします。

その考えに皆が賛同する。

「確かに利他の精神が大切ですね!!」といったように。

そんな時、例えば、一人の部下「そんなの嫌です!私はまずは自分のことを優先にしたいです!自己中と思われても結構です!!」と言ったら、どうでしょう。

そうなると、この部下は何だか悪者になりそうな予感がしませんか?

場合によっては粛清されてしまうかもしれませんね…。

しかし、この真逆の意見にも李世民なら笑顔を浮かべて、感謝を述べるでしょう。

いや、正確に言えば、そのように努めるでしょう。

なぜなら、その部下の言った言葉の裏には、リーダーが知らない厳しい現実が隠されているかもしれないからです。

●格差社会が広がり、人によっては今日明日の生活が厳しい
●異民族の襲来への恐怖から、自分の家族でも守れる環境をつくりたい
●子どもの将来を考え、今の時期だけでも最高の学習を投資したい
 →(今は利己的だと思われても)そのための資金が必要

などなど、長期的な視点に立てない切羽詰まった事情があるかもしれません。

どんな理想的な考えにも穴があり慎重な考察が必要になります。

しかし、リーダーの中には

「そんなの全ての意見を取り入れるなんて不可能じゃないか!!」

と思う方もいらっしゃると思います。

それは仰る通りです。

しかし、不可能ということは、全ての人にとって理想的ではないということ。

つまり、完璧ではない

最低でも「きっと完璧ではないだろうから、進めながら修正しないとな」謙虚に気を引き締めていた方が得策です。

貞観政要はこうした謙虚さを後世の世に伝え唐は300年という太平の世を築きました。

そして、日本でもこの貞観政要をむさぼるように読んだ偉人がいます。

それが、徳川家康です。

おかげで260年の太平の世を築き上げましたね。

この貞観政要には、もともとは孔子「論語」を重んじ、実践した李世民の歴史が描かれています。

中田敦彦さんは「つまり、人徳政治を本気でやってみた、ということ」と表現していますが、この本は、人徳によって世を収める大切さと難しさを教えてくれているのです。

トップの“リアクション”にも御用心

そして、丁重に聞くということと同時に、部下の意見に対するリアクションにも心配りをしておきたいところです。

立教大学経営学部教授の中原淳さんは、著書『話し合いの作法』の中で「上司は『いいね!』などと評価する言葉を気軽に言ってはいけない」と指摘しています。

〈PRESIDENT Online / 2022年9月15日〉※無料会員閲覧可能記事

これは特に複数人で打ち合わせしている時に意識した方が良いのですが、例えばリーダーがAさんの意見を「それは良い意見だ!」と褒めたとします。

すると、他の人たちの中には、「このAさんの意見がリーダーにとっては正解なのだろう」と察してしまい、自分の本音は胸の中にしまい込み、Aさんに近い意見を話そうとする人たちが少なからず現れてしまうことになります。

つまり、誰かの意見が自分の意見に近いからといって、特別な反応を見せてしまうと、周りがその意見に無意識のうちに引きづられてしまうということです。

もちろん、これは1対1の時でも同じです。

部下が言った意見に明らかに不服そうな表情を浮かべてしまえば、その部下は「あっ、やべぇ…、(リーダーを)怒らしちゃったかなぁ…」と思って萎縮してしまう可能性は高いでしょう。

どんな優秀で誠実なリーダーであっても人間ですから、人から批判されるのは辛いでしょうから、周りの意見を聞くと言っても、自分の考えを肯定するためのヒアリングになりがちになってしまいます。

ワシ、こういう考えなのだけど、みんなどう思う?うん、うん、そうだよね!みんな賛成だよね。じゃあ、みんなが賛成なんだったら、これでいこう!

と。

「みんなが賛成」ほど怖いものは無し

しかし、先述の通り、完璧な考えはありませんし、仮にそれが完璧だったとしても、その考え方をリーダーが頭に思い浮かべている絵通り、完璧に部下が理解できていることなんて皆無でしょう。

良策も、受け手が誤って理解してしまえば、失策に変わってしまいます。

例えば「週休3日制」導入をリーダーが考え、その意図が

①ライフ・ワーク・バランスの充実
②休みが増えることでリスキリングへの時間に充てもらう
 →社員は自分の価値を高められる
 →会社はイノベーションに繋げられる→長期的には社員にも得
③生産性向上による利益の増幅を目指し、給与や福利厚生に充てる

であったとします。

リーダーの心は、社員の豊かさ(幸せ)に向いています。

しかし、それを聞いた経営幹部の中に、「(リーダー)は大層なことを言っているけど…、現場からは『どうやって業務時間を短縮するんだ!』と突き上げられるだろうな…(汗)」と思う人もいるでしょう。

人はそう思った瞬間に、リーダーの熱き言葉は耳に入らなくなり、突き上げのシーンをシミュレーションして暗い気持ちになります。

そして、案の定、リーダーの熱き言葉は頭に残らず、事実だけを現場に伝え、炎上する…(涙)

幹部も「いや…、私もそう思うのだけど、とりあえずトップダウンだからさぁ…、まぁ…、今後は…現場のみんなの現状を伝えるよう努力するからさぁ…」と、しどろもどろ場を収めるしかなくなります。

社員のため、会社の未来のために導入したかった週休3日制も、結局は現場で働く社員の多くから「ウチのトップは、本当に現場のこと知らないよな」と思われてしまい、後ろ向きな気持ちが蔓延し、なかなか業務短縮が進行しないという結果に…。

つまり、「みんなが賛成」ほど怖いものはなく、小さな引っかかりも気軽に意見できる環境づくりがいかに大事かということなのだと思います。

「許せない」という気持ちを捨てる

ということを考えると…、暴君にならないことがいかに難しいかということが分かります…。

大抵の人は、「いやいや、そんな1つ1つの意見に気持ちを向けていたら身も心ももたないし、前に進めない」と思うでしょう。

私も3年半、副社長をやってきましたが、…全く理想通りになんかできておりません…(汗)

しかし、その中でも2つ心に留めていることがあります。

1つは、自分の考えには自身が気づいていない綻びがあると常に頭に留めていくこと。

もう1つは、たとえ厳しいことを言われたとしても、その人に対して怒りを残さないこと。

ポイントは「残さない」という言葉を使っていることです。

私は器の小さな人間なので、言われてムッとしてしまうこともあります…

しかし、その日の晩酌タイムでは、「でもまぁ、あの人がいるから、自分は暴君にならないのかもな…」と自身を諭していく。

冷静になったら、その人の意見に対して、自分が何をできるのか考えてみる

もちろん、答えが出る時と出ない時もあるので、出ない時は自分の未熟さをそっと受け入れる

少なくても、「許さない」という気持ちは残さない

私はそこを最低ラインにしています。

もちろん、人それぞれで最低ラインを決めれば良いと思うのですが、暴君へのメカニズムと、ならないことへの難しさを、まずは理解することが肝要なのだと思っています。

…と、今日は筆が進み過ぎて4000字を超えてしまいました…(汗)

私のリーダーシップ哲学もまだまだ道半ばですので、今日はこんなところにしておきたいと思います。

それでは皆さん、良い日曜日の夜をお過ごしくださいませ。


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