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【推し、燃ゆ】推しが炎上したことで、自分自身も燃え尽きて骨になる【読書感想文】

数日前、YouTubeのおすすめに、とある本のインタビュー動画が上がってきた。
昨年に芥川龍之介賞を受賞した作品らしいが、なんでも著者は現役女子大生だとか。

私はもう6年ほど小説を読んでいなかったが、この本はどうしても読みたいと思った。
女子大生であるとか、芥川龍之介賞受賞作品ということも印象に残ったけど、何よりそのタイトルに惹かれたからだ。


「推し、燃ゆ」


思わず思考が停止してしまった。


私自身、「推し活」に人生を捧げていた時期があったから「推し」という単語には必然的に反応してしまったが、さらに驚くべきは物語の始まりで


「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。」


あまりに気になりすぎてネットでネタバレを自ら喰らいにいったが、それでも読みたいという欲求が全く止まらなかったので(むしろ加速)、出不精な私が自転車を2時間強も漕いで2店舗周り、購入した。信じられない。


買ったその日に手をつけて、数時間で読み終わった。
6年の活字ブランクがあったのに、それを忘れ去るほど面白い小説だった。

読み終わったあと、暫く「やばい」しか浮かばなくて、次第に喪失感がぐわーーっと拡がってきて、処理したいけどどうすればいいのか分からず、右往左往したのちこうしてnoteに記すことにした。


ヲタクにとって推しは脊髄

主人公の「推し」以外の物事に関する無関心さが、最後まで不気味だった。

突き放した言い方になってしまったけど、恐らく著者の方もわざわざ不気味に感じる言い回しを意識して書かれているのではないかと思う。
主人公の病気も大きく関わってそう見えるのかもしれない。


自分と、自分を取り巻く環境から目を背けて、心身を壊してでも尽くし続けることが推しに対する正しい向き合い方だと信じて、それが無いと生きていけないほどに依存する生き方は二足歩行が出来ないのと同じなんだと腑に落ちた。
だけど主人公はそれに善悪を見出せない。そうやって生かされた経験しか知らないから。

主人公だけじゃない、「推しがいないと生きていけない」は大袈裟ではなくて本当に文字通りで、他のことに興味を向けるようにするとか、矯正するなんてことは出来なくて、その生き方を奪ったら死と同等なんだと、私も身を持って感じたから分かる。


ほんとに、主人公と過去の私が似すぎてて、文章を反芻しながら読んでるうちに気づいたら泣いていた。

世間の価値観を無視して、自分の価値を捨ててまで徹底的にのめり込めちゃうのが推し活の恐ろしいところで、推している時は食事や恋愛や交友関係や他のどんな事にも比べ物にならないほど鮮烈に楽しく、満たされている瞬間というのが確かに存在する。
勿論、そのぶん他のことが疎かになって、推しから意識が離れた瞬間には ままならない日常生活が浮き彫りになっている。


「推し活」=「悪」じゃない

「推し、燃ゆ」を読んでいると、推すこと自体が不健康なことに思えてくる瞬間が多々あるんだけど、それは決してイコールにはならない。
問題なのは行きすぎる行動で孤立してしまい、現実の対処すべき問題に向き合っていないことだと思う。

何かに依存して生かされた経験があると、それ以外で生きている心地を感じにくくなる。その一例が推し活なんだと思った。


読んでいる途中、何度も呆然とした。読み終わったら途方に暮れた。
推し活の光と闇を鮮やかに圧縮して、主人公のしんどさをこの1冊で纏めきれたのが凄い。物凄い。

個人的な偏見で「芥川龍之介賞」を受賞するのは難しい本だと身構えてしまっていたけど、こんなにも若者向けのテーマで読み切れる作品があるんだ…と拍子抜けした作品でもあった。(そもそも私は芥川龍之介賞がなんだか知らない)

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