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学びだらけ!ラグビーW杯のSNSチームが教えてくれた事


大変な盛り上がりを見せた、ラグビーW杯。テレビの視聴率や観客動員数がニュースにもなった。

マスメディア×SNSの可能性

とはいえ、従来のマスメディアだけだったら、ここまで盛り上がりが広がることはなかったと思うし、今回のW杯ほど、デジタル・SNSの力をフル活用した大会は過去に無かったように思う。

試合終了後、互いの健闘を称えあい、代表選手が自らツイートしたり・・・

「ここまで撮影して良いの?」というロッカールームの動画・・・

もちろん、「自撮り」もある・・・

初心者むけの「カワイイ」ラグビールール解説動画もあった・・・

はたして、舞台裏ではどのようなことが繰り広げられていたのか?
担当者を直撃した!


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ラグビーワールドカップ2019 組織委員会でデジタル・SNS部門の責任者だった河原井瑛太(かわらい・えいた)さん(33)。

(取材したのは11月5日 お疲れのところ申し訳ございません!)

河原井さんは早稲田大学を卒業後、スポーツメーカーに就職。デジタルマーケティングやPRなどを担当していたが、2015年8月、数百倍の倍率を乗り越えて組織委員会のPR担当になった。ちなみに、組織委員会は近く解散するため、現在就職活動中だという。

一度もラグビーW杯のコンテンツに触れなかった人のために説明しておくと、ラグビーワールドカップの公式アカウントはFACEBOOKinstagramTwitterYouTubeTikTokSnapchat の6種類。WEBアプリもいれると8種類のテレビ以外の「出し場」があった。

ラグビーワールドカップの日本語版公式ツイッターアカウントは、44日間で2241回もツイート。1日平均50ツイートを続けていたことになる。大会開幕前は9万9769フォロワーだったが、日本代表の活躍もあり、(11月6日現在)27万4358フォロワーに急増した。

さぞや、沢山の人数をかけていたのだろうと思ったら、日本語の公式アカウントの運用担当は4人。英語、スペイン語、フランス語の多言語対応チームを入れても、全部で20人程度で運用していたという。

試合が行われる、フィールドを映すカメラはたくさんあっても、個々の選手を試合後に追いかけることは不可能なはず・・・単刀直入に聞いてみた。

Q:SNSに出している舞台裏の映像や写真は誰が撮影しているんですか?

A:ほとんどが「チームスタッフ」です。絶対に変な使い方、ラグビーを傷つけるような使い方をしないと説明し、素材を提供してもらっていました。

なるほど、、、選手をサポートする一番近い人「スタッフ全員」が自分のスマホなどで撮影した映像を次々にSNS本部に送っていたのだ。

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SNS本部の部屋の名前は「フランカー」

冒頭のロッカールームの動画もチームスタッフが撮影したもの。ずっと選手と一緒にいる仲間だからこそ、ここまで自然な表情が撮れるのだろう。

また、日本においては、野球やサッカー等と比べると決してメジャーではないラグビー。そんなハングリー精神・サービス精神が代表選手にも浸透していたのか、SNS担当の河原井さんが「いつの間にツイートしたの?」と驚くようなスピードで、活躍した日本代表の選手が次々にSNS(主にツイッター)を活用。リツイートするのが大変で「うれしい悲鳴」だったという。


組織委員会任せにしない、PRもSNSも「ONE TEAM」で、全力で取り組む姿勢が、今回のW杯全体を盛り上げたともいえる。


マリッサ・ペースCMOの存在

日本ではあまり報道されていないが、こうした動きは2018年冬にワールドラグビーのCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)に就任した、マリッサ・ペース氏(F1でデジタルマーケティングを成功させたとして評価された人物)の影響も大きいという。

彼女が中心となり、大会関係者の「行動規範」ともいえるガイドラインには、12ページを超えるデジタル・SNS対応の心構えが記されているという。

詳細は残念ながら非公開とのことだが「チームも、チームを支えるスタッフも、選手も、全員がラグビーの楽しさ、素晴らしさを伝えるアンバサダーと自覚せよ」というような事が記されているという。

さらに彼女が掲げたのは「ライト・ファン」の獲得。日本語だと「にわか・ファン」という表現になるのだろうか?

「古くからのラグビーファン」だけでなく、「これまでラグビーに興味のなかったファン」を幅広く獲得することがW杯成功の鍵になると、早い段階で組織が意思統一されていたことも好結果につながった。

正直、個人的には???な、ゆるすぎるコンテンツも多数あったが、こうした遊び心あふれる動画も「にわか・ファン」を獲得するためには有効だったのだろう。

ちなみに・・・南アフリカのキーマン、日本戦でMVPを獲得したファフ・デクラーク選手は「髪型が特徴的な選手」ナンバー1にも選ばれている。

(ドレッドヘアの日本代表、堀江翔太選手は3位)


一番大変だったことは・・・

一番大変だったことは「(統括団体)ワールドラグビーとの事前交渉」だったという。

今となっては信じられないことだが、最初はワールドラグビーから日本語の公式アカウントもワールドラグビー側でやるので日本独自の編集長はいらない・・・といわれたという。

日本時間の午後5時になると「向こう=ワールドラグビーの本部はアイルランド」は朝を迎える。毎週のように午後5時の電話会議で、粘り強く交渉した結果、日本語のアカウントは日本の組織委員会(河原井さんら)が担当することになった。

河原井さんは早稲田大学の学生だった頃、非常に悔しい経験をしている。(当時の監督は清宮克幸氏:現日本ラグビーフットボール協会副会長)
ラグビー部の選手をサポートする「トレーナー」になりたかったのだが、希望者が多く、その夢を叶える事ができなかったのだ。「今回は絶対にあきらめない」そんな執念・熱量がワールドラグビー側に通じたのでは・・・と感じた。


最も話題になったツイートは・・・

ラグビーワールドカップの公式ツイッターの投稿で、最も話題になったのは10月13日の投稿だった。

台風19号の影響で試合が中止になったカナダ代表が、そのまま釜石の町に残ってボランティア活動をしたという内容で、この投稿だけで1900万を超えるインプレッション(表示回数)を記録した。

また、河原井さんが個人的に印象に残ったツイートを聞くと・・・

大きな被害が出た台風19号の通過後に日本代表の試合を予定通り開催することを伝えたツイートを挙げた。

実際は10:30に試合開催が決定したそうだが、ツイートしたのは少し時間が経ってから・・・この時間差が当時、いかに組織委員会全体が大変な状況だったかを物語っている。


「ファンゾーン」と地元ボランティアに感謝

河原井さんはデジタル・SNSの責任者だが、デジタル・SNSの担当者だからこそ、リアルな場=「ファンゾーン」の価値を今回再認識したという。

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ラグビーW杯の「ファンゾーン」とは、試合開催地の地元自治体に設置が義務付けられている「パブリック・ビューイング」兼「飲食・物販店」兼「イベントスペース」のこと。

全国16か所に設けられた会場の総入場者数はラグビーW杯史上最多となる約113万7000人を記録した。

「各地の賑わいを支えたボランティアスタッフの皆様に、心から感謝したいと思います。」

河原井さんはインタビューで終始笑顔だった。

最後に・・・

『ラグビーで大切なこと、必要なことのすべてが「ノーサイド・ゲーム」に詰まっている』

会う人会う人に、河原井さんはTBSテレビの日曜劇場「ノーサイド・ゲーム」を勧めているという。また、TBSラジオでサンドウィッチマンさんがMCをしている「We Love Rugby」にいつか出演するのが夢だとか・・・

テレビ局を超え、SNSとリアルとテレビを行き来しながら、とことん盛り上がったラグビーワールドカップ2019。デジタル・SNS部門を陰で支えた河原井さんの未来に幸あれ!



まとめ(SNS担当としての学び)

・選手の自然な表情を撮影するのはカメラマンとは限らない
(UGC活用の大切さ)

・選手自身の「ハングリー精神」「サービス精神」がSNSの熱量を高めた
(ジブンゴト化の大切さ)

・デジタル・SNSでの「行動規範」を選手・チームスタッフ全員が理解していた
(方向性の統一・事前の人間関係構築の大切さ)

・日本ならではのSNS文化を尊重した
(グローバルとローカルの最適なかけ合わせ)

・ファンゾーンの有効活用
(リアルな場の力 地元コミュニティの力 絆の大切さ)

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組織委員会にあった、予選リーグの勝敗表
意外とここはアナログだった・・・