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土曜日の夜、世界が「ふしぎ」で溢れていたことを私は知った


『世界ふしぎ発見!』が来年3月に終了するという。その知らせを聞いた時、私はとても大きな喪失感に襲われた。
 
今まで当たり前にそこにあったものが突然なくなってしまう寂しさ。私にとって土曜日の夜といえば「世界ふしぎ発見!」だった。

田舎にいた頃は「世界ふしぎ発見!」が放送されていることで「今日は土曜日なんだ」ということを実感し、なんだかワクワクした。
 
それは、東京で曜日に左右されない仕事をしている大人となった今も変わらない。
 
当時、私の実家は自営業を営んでいて、一年を通してほぼ休みがなかった。まさに貧乏暇なしをで行くような日常。しかも父親が重度の出不精でぶしょう&人見知りだったので、ちゃんとした旅行には一度も行ったことがなかった。
 
ただ、皮肉なことに私はいろんな意味で父親似だったため、旅行に行けないことを不満に感じたことはなかったし、性格的にホテルや他人の家に泊まることが苦手だったので、ずっと家にいることが苦ではなかった。
 
そんな私にとって「世界ふしぎ発見!」は家にいながらにして旅行気分を味わえ、かつ異国の文化や風景に触れることができる、そんな特別な番組だった。
 
世界のさまざまな「ふしぎ」は、私にとって「別世界」への入り口だった。
 
さらに、そこへ「明日は学校が休み」である高揚感が加わるのだからウキウキしないわけがない。
 
もちろん、そこには実際に旅行へ行くことで味わえる、その場の雰囲気や空気感、人との関わりはないけれど、そんなことは当時の私にとってあまり重要ではなかった。
 
人には想像力がある。
それをたずさえ、私は毎週「土曜日の夜の旅」を満喫していた。
 
けれど一度だけ「世界ふしぎ発見!」で初めてエジプトのピラミッドを見た時には、なんだかとても懐かしい思いがした。そして、初めて「ここに行ってみたい」と思った。残念ながら、その望みはまだ叶っていないけれど。
 
 
番組開始から今年で37年。来年春にレギュラー放送を終了し、「世界ふしぎ発見!」はその歴史に幕を下ろす。
 
時代は流れ、今や海外旅行はある程度の健康と、ほどほどのお金さえあれば誰でも行けるようになった。田舎にいたあの頃「世界ふしぎ発見!」を見て知ってときめいたことも、今はネット検索であっという間に知ることができる。
 
連日のようにさまざまな旅番組が放送され、YouTubeを開けば世界のいろんな場所を疑似観光することだってできる。
 
もう、今まで「ふしぎ」だったことが、もはや「ふしぎ」ではなくなったのかもしれない。むしろ、番組がここまで続いたこと自体がちょっとした奇跡なのかもしれない。
 
ただ、私はこんな風に思う。
「世界ふしぎ発見!」は、さまざまな国のふしぎを面白おかしく紹介してきたが、本当に伝えたかったことは、人や国が違うことの意味であり、その国の常識だったり、風習、生活習慣などといった価値観を知ることだったのではないだろうか。
 
国が違えば常識も違い、人が違えばそこにはさまざまな価値観が存在する。
 
そこでもし、常識や価値観が自分とは違うことを「わかりあえない」と切り捨て、その違いをいがみ合えば、そこには憎しみや争いしか生まれない。

しかし、その違いを認め合えれば、そこにはお互いが分かり合え、共有し合える全く新しい価値観が生まれるかもしれない。
 
価値観の違いは「決裂のトリガー」ではなく「結合の架け橋」なのだと私は思う。
 
「世界ふしぎ発見!」はいつだって、世界のいろんな国と地域でさまざまな人や民族が独自の文化を形成していることや、その尊さや儚さを紹介するなかで、そうした人間の無限の可能性をさりげなく私に見せてくれた。そこにはいつだって優しさや思いやり、人間の美しさが映し出されていた。
 
そんな温かな世界が、私にとっての「土曜日の夜」であり「世界ふしぎ発見!」だった。
 
 
インターネットを始めとしたさまざまな技術革新によって、世界は大きく変わりつつある。そして今ほど世界が身近になっている時代はない。
 
だからこそ、世界のさまざまな常識や価値観を互いに尊重しつつもそれに縛られとらわれることなく、技術や知見をもって私たちの住む地球を守っていく方法をみんなで絞り出さなければならない。
 
例えば世界はいま、温暖化による環境変化によってさまざまな国や地域が大きな災害に見舞われている。
 
そんな待ったなしの状況にもかかわらず、自分さえよければ、自国だけが助かれば、そんな価値観で飽くことなきいさかいや戦争をしている人や国は少なくない。
 
戦う相手は「人」ではないはず。
「自然の脅威」であり、かつ「自然との対話」なのに。
 
 「なぜ人はいがみ合うのか?」
「なぜ戦争はなくならないのか?」

 
私にはそれが不思議でならない。
 
土曜日の夜、もう「ふしぎ」の謎を解くことはなくなってしまうけど、その「不思議」な謎がいつかこの世界で解けることを、私は願ってやまない。
 
私もこの世界の一人。
いつかその「不思議」の答えを見つけられたら、と思っている。


*「世界ふしぎ発見!」レギュラー放送は来年3月に終了しますが、TBSによると今後不定期特番で継続するとしています。

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