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学校の先生が「理論」を学ぶ意味

フリーランスの教師です。

フリーランスの小学校教師をしています。
「フリーランス」と言っても、決して「個人事業主」というわけではなく、正確には「臨時的任用教員」です。
つまり、産休・育休・病休などの先生方の代わりや欠員の補充で、臨時的に1年契約で働くスタイルをあえて選択しました。
東京の某区で正規の教員をやっていましたが、もっと自由な働き方をと考え退職し、このスタイルで働くことにしたのです。

「えっ、退職?大丈夫?もったいない」と多くの方に言われましたが、このフリーランス教師というスタイルは結構メリットも多く、私としては今後もこれを継続していこう、と考えています。
このことについてはまたどこかで書ければと思います。

教師をしながら論文を書く

フリーランスになったことで生まれた時間を、論文を読んだり、自分の実践を論文化することに充てられるようになりました。
私はもともと大学院で教育心理学を勉強してきました。
教員になってからは、目の前のことに必死でなかなか学問の世界と触れることはできませんでした(本業は目の前の子ども達ですから)。
教員としての経験値を少しずつ積む中で、大学院でまなんだ理論的な枠組みと自分の実践がつながってくる感覚がありました。
令和4年には、日本教育技術学会という教育系学会が新設した「向山洋一教育賞」に論文を応募したところ、有難いことに最優秀賞である「教育技術賞」を頂戴いたしました。
以下のリンクから論文と授賞式での発表動画をご覧いただけます。
東北大学大学院の堀田龍也先生にご講評いただきました。

この論文のことについてはまたどこかで書ければと思います。
今は別の学会に、自分の国語の実践について論文にまとめ、投稿しています。
査読者からのコメントは大変厳しいもので、実践しながら論文を書くというのは本当に大変なことだと思いながらも、修正論文作成に取り組んでいるところです。

「理論通りにはいかない」のに、学校の先生が理論を学ぶ意味

このように、学校現場にいながらアカデミックな世界にも足を突っ込んでいる状態です。
論文執筆とまではいかなくても、理論を学び応用することで、実践の質が変わってくると私は思っています。
とはいえ、「子ども達は理論通りにはいかないよね」という声も聞こえてきそうです。
それは、間違いありません。
現実は複雑です。まして相手は人間の子どもです。思ったようにはなりません。

ただ、その「理論通りにはいかない」という言葉は、「理論」の役割の捉え方が違うのではないかと思うのです。
理論というのは「この通りやればこうなる」というハウツーとは、少し違った面があると思うのです。

たとえば、4月のクラス替えで、新しい学級がスタートしたとします。
最初は子供たちも緊張感があり、まだ打ち解けてもおらず、関係がある程度バラバラな状態になっていることは多いと思います。
それが4月、5月と過ごしてくると、仲良しの2~3人組などができてきます。これも多くのクラスでは見られることでしょう。

この先、6月、7月、夏休み…と時が過ぎていくわけですが、
この5月の時点で、仲良し2~3人組が乱立している状態をどのように考えればよいでしょうか。

「まあ、そんなもんだ。そのうちクラスはまとまってくるだろう」と考えるでしょうか。
それとも、「そのままではあまりよくない状態だから、何かしなければ」と思うでしょうか。

前者のように考える先生でも、たまたまうまくいくことはあるでしょう。
しかし、バラバラなまま放置して、学級集団として何かに取り組んだりするのが難しい状態になったり、いじめや大きなトラブルが頻発する学級になったり、というのは現実にあります。
それは、何かしら手を打つべき状態だったにも関わらず
その事態を見逃してしまったり(気づかなかったり)
どうしていいかわからなかったり
見当違いな手を打ってしまったり

ということがあったからかもしれません。

そんな時、理論があると大きな武器になります。

例えば河村(2013)は、日本中のたくさんの学級と教師の指導を調査した結果から、「学級集団は5段階で発達する」という理論を提唱しています。

①混沌・緊張期…学級編成直後で、子供たち同士の関係がまだ薄く、バラバラな状態の時期。
②小集団成立期…しばらくして、気心の知れた仲良しのペアやグループができ始める時期。
③中集団成立期…小集団同士がくっついて、いくつかの中くらいの集団で行動できるようになる時期。
④全体集団成立期…教師の指示があれば、学級全体で協力して行動できる時期。
⑤自治的集団成立期…教師の指示がなくても、自分たちで学級の課題を解決できる時期。

このうち、「学級集団」として機能するのは、③の中集団成立期以降と言われています。②以前は、極端に言うと「烏合の衆」なのです。

②の小集団の状態では、ルールの定着も不十分で、学級がまだ安心した場でないため、子供たちが表面的な仲良しペアやグループを作っていく「不安のペアリング・グルーピング」と言われる現象が生じます。
この「不安のペアリング・グルーピング」は自分の身を守るためのものなので、逆に言うと他のグループを排除したり、小さいぶつかり合いが起きたりといったことが起きてきます。これが様々なトラブルの原因となるわけです。

まずここまでで、先ほどの「5月の時点で、仲良し2~3人組が乱立している状態をどのように考えればよいか」という問題に対する答えが1つ考えられます。
まだ学級のルール(ここでは「人を傷つけない」などといった行動規範も含みます)がまだ定着しておらず、子供同士の人間関係も薄いので、子供たちは不安な状態であると解釈できます。
このまま放置した場合、なんとなくうまく関係ができてくることもありえますが、そうではない場合もあるので、何らかの手立てを打った方がよいのではないかと考えられます。

このように「教室で起きていること(現象)を解釈できる」のが、理論を学ぶ意味の1つです。

つまり、理論はあくまで「現実を説明する枠組み」です。
今目の前で起きている現象をどのように捉え、説明するのか。
その思考を助けてくれるのが理論です。
その枠組みがなければ「なんとなく」「勘で」「経験上」といった判断しかできなくなります(それが絶対にダメと言うのではありませんが、それだけでは現実にすべて対応できないというのも間違いありません)。

ですから、「優れた理論」というのは、「いかに現実を上手に説明できるか」という点で優れているのだとも言えます。

さて、続きです。
先ほどの学級集団発達5段階の理論から、何らかの手立てを打った方が良いということは分かりました。

では、どうすればよいのか。
河村(2013)によると、学級集団を成長させるには、「ルール(学級の規範)」と「リレーション(人間関係)」の2つの確立が必要だとのことです。

「ルール」というのは、単純な「校則」や「○○小学校スタンダード」といった「規則」的なものや、授業や学級活動での「規律」も含みますが、「人の体や心を傷つける言動はしてはならない」「失敗を恐れないで挑戦することが成長につながる」などといった「規範」的な価値観も含みます。
まずはこれを確立していくことが必要です(具体的な内容は論文にありますのでご覧ください)。

もう1つの「リレーション」は児童同士の人間関係です。
少しずつ自分のことを開示できるようになったり、温かいかかわり方ができるようになったりする必要があります。
そのために楽しく関わる場面の設定や関わり方の支援などを行っていきます。

学級の「ルール」と「リレーション」が確立されれば、まずは集団としての「安定」が手に入ります。ですからまずは、この2つの確立を目指して手を打っていきます。だんだん確立されてきたら、それはおよそ③中集団成立期から④自治的集団成立期に向かっているところとなります。
あとは児童が自分たちのことを自分たちで乗り越えていける学級を目指していく、という流れが想定できます。

このように、理論があると「今後の方向性、見通しが持てる」という良さがあります。

ここで大切なのでは、「理論が提供するのはあくまで方向性」ということです。
具体的な手法は、やはり実践的なノウハウになります。その引き出しも様々あったほうがよいでしょう。
ですが、それらのノウハウをただ闇雲に使うのは、「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」状態です。
理論があることで、ある程度「方向性を定めて」「見通しをもって」ノウハウを実践できる。
これが理論を学ぶ良さだと思います。

さて、そういったノウハウは現場ではたくさん流通していますね。
書店にもさまざまな実践関連の本がありますし、SNS場にもたくさんの実践情報があふれています。

しかし、学級経営のスキル1つとっても、それがバラバラに存在しているだけだと、さきほどの「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」と同じではないでしょうか。それではもったいないです。

「このスキルは、小集団成立期のルールの確立に効果的だ」
「中集団以降のリレーションをさらに高めるスキルだ」
といったように、1つ1つのノウハウを裏付け、説明することができれば、現場で生まれた様々な知恵も、より整理された形で広まっていくのではないでしょうか。

さらに、自分が良いと思う実践ノウハウについて、「これはいいんだ!」「これは効果的だったんだ!」「○○先生が言っていたんだ!」と言うだけでは説得力に欠けます。
しかし、理論的な裏づけがあれば、より説得力をもって他の先生方に共有することができます。

このように、学校現場で実践している先生が理論を学ぶことには、とても意味があると考えます。

しかし、本格的に理論を学ぶとなると、学術論文や専門書を読むしかありません。大学院に通うことも必須です。

ただ、日々実践しながらいきなりそこまでの学びができるかというと、難しいと感じる先生もいるかと思います。

そこで私は、現場で実践しつつ役に立ったと思う理論を、現場目線でご紹介できればと考えています。
インスタグラムでは主に理論を図解して解説しますが、こちらのnoteでは、そこで解説しきれなかったことを文章化していこうと思っています。

あくまで現場の「実践」が主役です。
理論がそれを支え、裏付け、整理する。
そんなスタンスで発信していきますので、よければご覧ください!

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