旅する教師が出会った言葉(なかがわさとゆき)

1981年の福岡生まれ。岡山県で中学校の教師を4年経験したのち、文部科学省に入省。その…

旅する教師が出会った言葉(なかがわさとゆき)

1981年の福岡生まれ。岡山県で中学校の教師を4年経験したのち、文部科学省に入省。その後も島根県の海士町や岩手県への出向を経験。学校現場から文科省、県教委、町役場と、様々な立場から教育に携わってきた道のりはまるで旅のようで、そんな旅の中で出会った言葉をここに綴っています。

最近の記事

志をはたしにいつの日か帰らん【海士町副町長への就任】

冒頭の写真は、地方創生人材派遣制度で文部科学省から島根県海士町への出向し、2年間の任期を終えて旅立つときのものになります。 7年前のことですが、フェリーで離島する瞬間は今でも鮮明に覚えています。 当時の自分は行政経験が乏しく、あまりお役に立てませんでしたが、海士町の住民はあたたかく迎え入れてくれ、たくさんのことを学ばせてもらいました。 それまで、中学校教員や文科省職員と一貫して教育に携わっていながら、人が(特に成人した大人が)学びによって変わることに何処か懐疑的な自分がいまし

    • やったらいい、やらないよりはいい

      今年の1月に、前海士町の山内道雄さんの訃報が届きました。島根県海士町に2年間出向していた頃にとてもお世話になった方で、noteでも紹介しているようにたくさんの言葉を遺してくれました。 人口減少・財政破綻という危機に直面した際に、自らの給与を大幅にカットすることで身を切る改革への覚悟を示すとともに、「自立・挑戦・交流」を町政の指針に掲げ、役場職員や議会、住民と一丸になって様々な改革を行い、隠岐牛や岩牡蠣などのブランド化や島前高校の魅力化に取り組み、人口の2割以上のIターンがや

      • 学力と顎力

        先日、デジタル学習基盤に関するフォーラムで講演する機会があり、「デジタル教科書・教材」がメインテーマだったので、「教科書」を切り口に学びの在り方についてお話しをさせて頂きました。 私は冒頭で「教科書を使った授業と聞いてどんなイメージを持ちますか?」と質問をしました。 教科書の歴史は長く、戦前から使われていますが、その在り方は時代と共に変わっています。令和の日本型教育として「個別最適な学び」や「協働的な学び」の重要性が高まる中、教科書の在り方も変化が求められています。 冒頭の質

        • 自分自身にほんの少しでいいから時間を与えて(人生100時代の教育を考える)

          アメリカの自己啓発・コーチングで著名なトニー・ロビンズ氏の動画を見る機会がありました。 その動画の中で、彼は自己に否定的な学生に対して、次のようなアドバイスをします。 この言葉を聞いた学生は、明らかに表情が変わります。 私も「自分自身にほんの少しでいいから時間を与えて」という言葉を聞いて心が軽くなりましたし、「多くの人は1年でできることを高く見積もり過ぎる。そして、20年から30年でできることを低く見積もってしまう。」のところはその通りだと心の中で叫んでいました。 私は、

        志をはたしにいつの日か帰らん【海士町副町長への就任】

          休み時間になりましたよ【春日井市立小学校の視察】

          本日、愛知県春日井市の小学校を視察(公開の授業研究会に参加)しました。 春日井市の新しい学びへの挑戦は、中央教育審議会で個別最適・協働的な学びの先導事例として紹介されることが多く、リーディングDX校にも指定されています。 そんな春日井市の授業を初めて見学し、教師や児童の生の表情をリアルタイムで見た最初の感想は「しびれる」の一言でした。 社会科の授業でしたが、児童一人一人が自分のペースで教科書やNHKが公開している学校向け動画を見ながら、端末に自分の考えを次々と思考ツール(グ

          休み時間になりましたよ【春日井市立小学校の視察】

          教師は生徒から「ありがとう」と言われることをモチベーションとしてはいけない

          少し前になりますが、学校現場の第一線で活躍され、国の有識者会議のメンバーでもある高校の先生と話をする機会がありました。 探究的な学びの必要性など、これからの教育について意見交換をさせてもらったのですが、雑談の中で教師の在り方に話が及びました。 そこで出たのがタイトルにある「教師は生徒からありがとうと言われることをモチベーションとしてはいけない」という以下の言葉でした。 教師をやっていると生徒から「ありがとう」と言われれば嬉しいし、やる気も出る。 けれど、それが行き過ぎると、

          教師は生徒から「ありがとう」と言われることをモチベーションとしてはいけない

          探究の時間になると職員室から誰もいなくなる

          少し前の話になりますが、岩手県立大槌高等学校が開催する探求発表会・研究協議会にパネリストの一人として呼んで頂きました。 一年生の地域課題についてのフィールドワークから見えてきた問題分析と柔軟な発想からの提案は、一行政官として聞き入ってしまいましたし、二年生の自分自身の興味関心に基づく個性溢れる探究の成果発表も面白かったです。 私は後半の研究協議会の冒頭でプレゼンしました。生成系AIをはじめとする人工知能や情報通信技術の加速度的な進歩など、変化の激しい時代にあっては、単一的

          探究の時間になると職員室から誰もいなくなる

          学校で子ども達に時間をかえす(意思決定の機会をつくる)

          先日、経済教育を推進する一般社団法人CEE(Council for Economic Education)の方からお話を聞く機会がありました。 たくさんの貴重なお話の中で、私が特に心に刺さったキーワードは「選択と意思決定」です。経済教育とは、単に経済活動を学ぶということではなく、児童生徒が主体的に選択と意思決定できる環境をつくることだと教えてもらいました。 自身が中学校の教員をしていた頃を振り返ると「選択」の機会は比較的用意できていたのではないかと思います。学級活動や授業の

          学校で子ども達に時間をかえす(意思決定の機会をつくる)

          子ども達の学びの選択肢をどれだけ増やせるのかという視点が大切

          昨年から、中央教育審議会の「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会」で、新しい学びの在り方が議論されています。 その部会に設置されている「教科書・教材・ソフトウェアの在り方ワーキング」では、GIGAスクール構想で導入が進んでいるオンラインドリルなどのデジタル教材や、デジタル教科書について議論しています。 デジタル教科書の議論では「紙」と「デジタル」を巡って紙の良さやデジタルのデメリットなど、様々な意見交換がなされました。 そのよう

          子ども達の学びの選択肢をどれだけ増やせるのかという視点が大切

          子ども達がカッコイイ、行きたいと思える名前にしたい【SCHOOL Sの見学】

          先日、大阪で開催された「NEW EDUCATION EXPO 2022」にパネリストの一人として出席しました。 私は、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けて、デジタル教科書の現状と今後の方向性について、文部科学省の立場からお話をさせてもらいました。 フォーラムの最後に、広島県の平川教育長が登壇され、広島県教育委員会が実践している先進的な挑戦事例についてご紹介頂きました。 その中でも、私が特に印象的だったのが、広島県教育委員会が取り組んでいる「SCHOOL S」の

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          開運橋をわたって帰京するときは景色が違って見える【岩手県教委の離任】

          この度、岩手県教育委員会を離任し、文部科学省に戻ることになりました。 2年間という短い間でしたが、お世話になったすべての方々にこの場をお借りして心からお礼を申し上げます。 今から2年前に文部科学省から岩手県教委への出向が決まったとき、かつて岩手県に出向したことのある先輩から話を聞く機会がありました。 その先輩からは「着任のとき、盛岡駅から県庁までの間にある開運橋という橋をわたるのだけれど、行きは雄大な自然と見知らぬ景色に圧倒される。そして、2年が経過し開運橋をわたって帰京す

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          つくる、つながる、とどける【岩手県教育委員会とnoteの連携協定】

          先日、岩手県教育委員会とnote株式会社が高校魅力化の情報発信に関する連携協定を締結しました。 これにより、県教育委員会と県立高校63校がnoteプロを活用して、高校魅力化の取組を発信していくことになります。 これまでのように県教育委員会が各学校の取組を一元的にまとめて発信したり、各学校がホームページでバラバラに発信したりするのではなく、noteのメディア・プラットフォームを使うことで、各学校が自律・分散的に生徒の探究活動や地域との連携の様子を発信しつつ、それらがネットワー

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          学校の魅力は地域をはじめとする社会との関係性の中からしか生まれない

          昨年の10月に、岩手県教育委員会から「いわて高校魅力化グランドデザイン」が公表されました。文部科学省の高校改革の流れを受けて、高校の設置者である都道府県が高校の役割を再定義するもので、スクール・ミッションとも呼ばれています。 このスクールミッションを見てみると、各都道府県の特色が出ています。高校全体の大きな方向性を示しているところもあれば、一つ一つの高校の役割を明示しているところもあります。 岩手県の場合、前者のパターンで、高校の役割として大きな方向性を示しています。ただ

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          一人の人間にできることはこの(マネジメントの5つの要素の)うちの2つが限界

          島根県の海士町に出向していた頃、ある企業の社長経験者から経営についてお話を伺う機会がありました。 その方からは、「マネジメントには、①ビジョンの共有、②ミッションの明確化、③進捗管理、④モチベーションのアップ、⑤人材育成、の5つの要素がある」と教えてもらいました。この話を聞いた時、私は「これは学校経営にも当てはまる」と思いました。 目的と手段が逆転して活動の形骸化が起こりやすい学校文化の中で、教育の最上位の目的を常に掲げ続け、目的達成のためなら慣習に囚われず新しいことに挑戦

          一人の人間にできることはこの(マネジメントの5つの要素の)うちの2つが限界

          先生が3年間で費やした時間は、息子さんより私の方が長かっただろう

          昨年末に配信されていた陸上競技選手の為末大選手のインタビュー記事を拝見しました。その中で、為末さんは2つの観点から、部活動の地域移行の必要性について語っています。 一つは、少子化で学校規模が小さくなっており、これまで通りに学校単位で部活動を維持していくことが難しいという点です。インタビューの中で、「少子化は大きな流れであり、学校単位で部活動を維持するのは無理がある」と明確に発言されています。 これはデータから見ても明らかで、全国の約19%の中学校が生徒数100人未満(1学

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          学級の概念が変わろうとしている

          先日、教育関係者の勉強会で、これからの教育の方向性について話をする機会がありました。その時に話した内容を一部紹介します。 中央教育審議会の答申『「令和の日本型学校教育」の構築を目指して』では、誰一人取り残されない教育を実現するため、多様化する児童生徒とどのように向き合っていくのかが大きな柱になっています。 そのことは答申に明記されている「正解主義や同調圧力への偏りから脱却」という言葉からも強く感じ取ることができます。 イノベーションは辺境から起こると言われますが、教育にお