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完全解剖!甚五郎の道具箱

川村監督は当初から「甚五郎はでっかい大工道具箱を抱えていて、その道具箱がガシャンガシャンと変形して開くと、その中には普段使ってる道具類と、秘密の義手が3本くらい収められている」というイメージをチームに共有していた。この道具箱の製作が始まる頃には甚五郎の人形サイズも決まっていたので、道具箱のサイズもすんなり決まった。あとはその道具箱がどう変形して開くのかだが、これを絵で示すのは難しいため、能勢は模型を作ることにした。

初回の模型

初回の模型は既にチームの理想にかなり近いものだった。観音開きになった後にそれぞれ外側にスライドしていくこの構造により、短い尺で道具箱を展開することができるし、思ったよりもたくさんの道具を収納できそうだ。初回の模型をベースに細かな調整を加え、一般的な道具は外側に収納し、中央に縦型のスペースを3つ作り、そこに謎の義手が収納されている(という設定の)道具箱にすることになった。

最終版に近い模型

こだわりの詰まった道具箱

能勢を含むTECARATチームは普段から質感を大事にしながら作品を作っているため、江戸時代のストーリーを描くにあたって、当時の素材を使いたいという強いこだわりがあった。ということで、道具箱に使用している木材は、江戸時代〜明治の初め頃から使われていたという中古の水屋箪笥を解体したもので作られている。新しい木材を使ってエイジングするやり方もあるが、そうするとリアリティが減ってしまい、少し胡散臭く見えてしまうのだという。
ほとんど見えてこないが、背負子の部分も見所のひとつ。リアルサイズの背負子の肩紐をモデルにし、手編みでミニチュアの背負子紐を作っている。こういったディティールもまた、この道具箱がまるで存在した工芸品であるかのような雰囲気を纏わせている要因のひとつだろう。

こうしたこだわりのおかげで、何十年も旅し続けてきたというリアリティのある道具箱を作ることができたと感じている。古材を使ってもまだなお綺麗すぎると感じた能勢は、もう少し汚しが必要だと感じて道具箱の天面に傷を入れた。これは、眠り猫がいつもここで爪を研いでいるという設定なのだという。

甚五郎の道具たち

そんな道具箱の中に収められている道具を選定するにあたって参考にしたのは、中央公論美術出版の「日本建築技術史の研究」という大工道具の歴史図鑑である。この本には1300年代の寺社仏閣を作っている様子なども描かれており、その頃にはもう槍鉋(やりかんな)、木槌、鑿(のみ)、釿(ちょうな)が使われていたことが伺える。それぞれの道具を見ながら、甚五郎が生きた江戸時代に存在しているかどうか、甚五郎の道具箱に入っていそうかという観点で道具がセレクトされた。この本には柄の太さや金具のサイズ、角度などの寸法が詳細に描かれているため、各道具はこの図面に忠実に製作されている。

能勢がミニチュアの大工道具を作る上で意識したのはリアリティだという。特に刃物がわかりやすいのだが、例えばプラスチックで刃を作るとエッジが丸くなってしまい、偽物感が出てしまう。今回は実際の鋸を加工して作られているため、リアルサイズの鋸と同様に刃が鋭く、大工道具としての説得力がある。ミニチュアスケールの刃をカメラを通して見た時のリアリティを考え、細部に至るまで丁寧な作り込みがなされているのだ。

道具箱に並んでいるだけの道具もこの通りの作り込み

またずらりと並んだ様々なサイズの鑿の刃は、直径10mmのアルミの丸棒から旋盤で削り出した後、さらに面を削り、叩き、研いで仕上げられている。

制作途中の様子
通常の鑿や金槌とミニチュアの道具たち

道具達の配置の仕方は、江戸時代の薬売り屋が背負ってた薬箱、行商箪笥、現代の整理されたストレージや棚などを参考にしている。最終的には、大工の道具箱と収納棚の間の子のような、甚五郎の道具箱が完成した。

今回の作品ではフォーカスされていない義手の下の段の引き出しには、きっと眠り猫用のまたたびが入ってるんだよね...なんていう妄想を繰り広げながらこの道具箱を眺めるのが、スタッフはみんな好きなのである。


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