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【#10】C:燕三条の地域ブランド

さて、前回は燕三条の産業クラスターのBtoBビジネス・BtoCビジネスの分類と、両者に影響を及ぼす地域の取り組みを紹介いたしました。
今回は燕三条において育まれている地域としてのブランドについて、その成立ちと、ブランドをめぐる地域としての改革の経緯について掘り下げていきたいと思います。

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フレームワークでは、今回は赤枠の部分の話です

燕三条ブランドとは?

燕三条ブランドの立ち上げ前は?

今では一般的にかなり定着した「燕三条」という名称の地域ブランドですが、実は歴史はそんなに古くはなく、平成20年(2008年)から始まったものでした。それまでは燕市、三条市、それぞれが独自に地域ブランドの構築を行ってきました。
例えば燕市でいうと、「Made in Tsubame」というブランドを今でも独自に持っていますし、三条市は「越後三条打刃物(えちごさんじょううちはもの)」という国の伝統的工芸品指定を通じて、それぞれ独自に地域ブランド化を模索してきた歴史があります。
それでは、なぜ近年になって「燕三条」という2市が一体となったブランドを訴求するようになったのでしょうか?それは後ほど述べていきたいと思います。

目的と込められた意味

燕三条ブランドの目的は、
燕三条の知名度を上げ、農商工全ての地域産業の活性化を図るため、燕三条の地域ブランドの確立を目指すもの
と定義されています。

燕三条ブランドマーク
(出所:燕三条地場産業振興センター)

燕三条のブランドマークは、自然と共生するオーガニックな世界観を現代版の花鳥風月の紋様で表現しています。「燕三条」の日本語の代わりに燕を絵で表し、3本の線で信濃川、中ノ口川、五十嵐川を表すと同時に、三条の「三」も意味しています。 

TSUBAMESANJOの文字の下に描かれている、Organic lifestyle creations の言葉には、自然環境と人にやさしい“オーガニックなライフスタイル”を、「工業と農業」「伝統と最先端」のモノづくりが共存する燕三条ならではの価値として発信していこうという想いも込められています。全国的には金属加工技術の集積地として知られていますが、信濃川の豊かな水と肥沃な大地の恵みを受け、農業も盛んであることから、双方を融合させ一つの価値ある地域ブランドとして創り上げていくことを意味しています。

ブランド立ち上げによる地域の変革

私たちは、燕三条ブランドの立ち上げにおいて、当時中心人物として多大な貢献をした、国定勇人(くにさだいさと)前三条市長(現衆議院議員)にインタビューを実施しました。
2006年から4期にわたり新潟県三条市の市長をされていた、国定勇人前三条市長は、就任した当時の様子をこのように語ってくれました。

外から見たら、ほどほど都会・ほどほど田舎で便利も良く、生活するための仕事もたくさんある、そこそこ良い街。
しかし地域住民においては、自己肯定感のない街だった。
また、三条、燕、お互いが一緒になることへの反発心が未だに残っており、「燕三条」という言葉自体がタブーだった。

国定勇人氏よりインタビュー

このような逆境ともいえる状況の中で、国定氏は「燕三条」としてのブランド立ち上げを通じた変革に着手します。
外から評価されることに耳を傾けることで、地域住民の自信と誇りを取り戻す。自分たちの街はこんなにも素晴らしい街なのだというアイデンティティを、地元の人たちから発信してもらう。この変革を実行するために、2008年に燕三条プライドプロジェクトが立ち上がりました。市長就任から2年掛けて辿り着いた一歩でした。

燕三条プライドプロジェクト

燕三条地場産業振興センターを中心に、燕三条プライドプロジェクトは、地域の80人を巻き込んで発足しました。燕市の代表には、玉川堂代表の玉川基行氏。三条市の代表には、株式会社スノーピークの代表取締役社長の山井太氏が選ばれました。

燕三条プライドプロジェクトのMission Statementには、燕三条地域に住む人たちが、自身の地域への誇りと愛情を持つことこそが、燕三条ブランドを確立させる原動力であり、エネルギーの源泉であると書かれています。
地域の中に居ては感じ得ることのできない外からの評価を通して、燕三条地域への誇りと愛情を感じることで誇りを拡大再生産させています。「誇り」や「愛情」は、いわゆるサステナブル経営の「6つの資本」では分類されない概念ですが、この言葉を敢えて言語化し、Mission Statementとして示すことで、人々の感情面に働きかけ、存在意義が語られています。想いの大切さを地域の人たちに根付かせ、燕三条で生きていく人たちの心の拠り所として
います。

燕三条プライドプロジェクトのMission Statement
燕三条への誇りと愛情を感じ、さらに誇り高くこの地で生きていこう。という感情に訴える内容が、目標として書かれいる

また、燕三条プライドプロジェクトのConceptは、「そこそこ都会でそこそこ田舎」である燕三条地域の強みを活かしたライフスタイルを、地域の人たちに提案する内容になっています。その中には、オーガニック・グッドデザイン・ライフスタイルと言う外来語も多く登場しますが、燕三条ブランドとして国内マーケットだけでなく海外マーケットに向けても発信していこうと言う決意が込められているように取れます。

燕三条プライドプロジェクトのConcept
オーガニックという言葉を あえて使い、海外市場を意識したブランド展開を志向している

燕三条ブランドと6つの資本との関係性

燕三条ブランドは、産地型産業クラスターにおけるサステナブル経営の「6つの資本」すべての要素をインプットして構築されているといえます。さらには、6つの資本には分類されない「誇り」「地域への愛情」といった概念が、6つの資本を支える重要な要素として存在しています。
これによって、燕三条地域としての地域ブランド力を高めると同時に、地域の金属加工産業のみならず様々なステークホルダーをブランドに巻き込み、地域の一体感醸成に貢献しているといえます。
そして、日本国内のみならず、世界で戦える地域ブランドを目指し、地元の人々に燕三条への誇りや愛情が必須であるとし、ブランドステートメントとして、初期の段階から発信している点も非常に画期的であると考えられます。

燕三条ブランドにおける6つの資本とそれを支える要素の内容は以下の通りです。

■財務資本
● 燕三条ブランドを確立することによって発生する売上

■知的資本
● 燕三条プライドプロジェクトや燕三条地場産業振興センターの存在
人的資本
● 金属加工のモノづくりと農業、レストラン、観光を掛け合わせ、双方に融合化して一つの価値にし、国内のみならず海外へも発信している

■製造資本 
● オーガニックな工業、永く愛せるモノづくり、永久保証や安全生産プロセス、時代時代の中で最先端の製造技術をつくったモノづくりが強みである

■社会関係資本
● 燕三条ブランドは、プロダクト、レストラン、ツーリズム、プロモーショングループと燕三条にある様々な業種を掛け合わせ関係を築くプロジェクトである

■自然資本
● 3万5千年の文明と恵まれた自然の恵みがベースにあり、肥沃な大地で獲れる美味しい米と野菜でオーガニックな農業を実現する
● そこそこ都会、そこそこ田舎の燕三条で、人間らしい生活ができる地方都市であることを最大限に活用する

■6つの資本では説明できない要素
● 「誇り」と「愛情」こそが、燕三条地域に必要な資本であり、燕三条ブランド確立のための原動力、エネルギーである
● ストレスの多い生活を余儀なくされている現代人が人間らしいライフスタイルを実現・復活することができる温故知新方向で新しい未来志向

燕三条ブランドと6つの資本との関係性について

このように、地域産業クラスターとしてのサステナブル経営の6つの資本+αを網羅的にカバーし、燕三条のブランドを定義・構築することで、地域全体の魅力として外部・内部に訴求できている状態と言えます。

さて、いかがだったでしょうか?今回は燕三条の地域ブランドの成立ちと、込められた思い、サステナブル経営の6つの資本との関係性について述べてきました。

次の#11では、産業クラスターのフレームワークの最後かつコアのパーツである「職人」についてフォーカスを当てていきたいと思います。

Team想 髙橋 佳希

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