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某サッカー少年の話

これは中学のサッカー部で指導していた時の話。
この出会いをきっかけにサッカーという場所の大事さに気づけた。


「コーチ、ボール蹴ろうよ!」「遅いよ!」
15時半。部活動の開始する少し前に到着すると、もうボールを蹴っている中学生がいる。K君だ。タイトルの某サッカー少年。


僕が指導していたサッカー部は、2学年で15人ほど、公式戦はほどんど勝ったことがないような状態だった。(3年生は諸事情で初めからいなかった。)

その地域の特性なのか、比較的裕福な家庭も多い印象だった。就任した当初は長期休み後だったので、選手からは、「ハワイいってきたー」「沖縄楽しかった!」「あいつはまだ海外旅行から帰ってきてないよ」などあったので、お金のない大学生からしたらシンプルに羨ましいなと思ってた。

一方で、そうではない家庭も多いんだよと教えてくれたのが、サッカー部の顧問の先生だった。(自分自身もサッカー部の活動に参加しながら、指導は一任していただいた。そして保護者への説明や引率など責任のかかる場所はすべて対応いただき、恵まれた指導環境であったことと、ほんとに素敵な先生であったことは伝えたい。)


話は戻りますが、K君は人懐っこいって言葉がお似合いの生徒で、僕や先生のところに来てはずっとおしゃべりしていた気がする。
ただ、チームメートと話しているイメージがなかったので、そこだけは少し気になっていた。


当時、中学生を指導していて、難しいと感じたことの一つがサッカーへの熱量だった。サッカーは好きなんだけど、それだけじゃない。高校受験に向けて勉強もしないといけないし、ほかの習い事をしていたり、部活後に実施するフォートナイトとその作戦会議。とにかくやることが多かった。


その中でもK君はサッカーが大好きでずっとボールを蹴っていた。部活中しかわからないけど、少なくともその時間は一番最初に来て、休憩時間もずっとボールを触っている印象だった。

一方で、ボール回しなど、コンビネーションの練習になるととても苦戦していた。
そんな時、パス出すときは味方見るんだぞ。とか、味方と喋んないとお互い何したいかわからないぞ。とか伝えてたと思う。
それでも、ドリブルはできるし、キックも飛ぶ方で、体は大きくなかったけどすばしっこい選手だった。


そんな中、一つの出来事があった。
中間テストだったと思う。
選手みんなの点数を聞いていたら(というより言ってくる。)、K君がなかなかの点数を取ったのだという。他の選手から聞かされた。
学業も大事だよと言っているが、あくまでサッカーの指導で来ていたので、
勉強のことや学校生活のことでどうこう言うことはなかった。
テストの点数もみんなお世辞にもできるタイプではなかったので、それなりの点数でも驚かないのだが、それでもK君の点数はなかなかであったのだ。

何となくK君の学校生活が気になって、顧問の先生に聞いてみると、
あまり学校には馴染めていないとのことだった。授業を受けていたかどうかは自分自身覚えていないのだが、学校生活やそこでの人間関係でうまくはいっていない。その背景には複雑な家庭環境があったことは鮮明に覚えている。

だからと言って、僕のK君への対応やイメージが何か変わるわけでもなく、
テストをきっかけに部活に来なくなるわけでもないので、変わらない日常が続いた。ただ学校生活の話や家での話は年の近い弟がいるということしか聞いてない。

そしてさらに半年指導は続いていたが、その時間も突然終わった。
感染症が流行り、部活動も停止、そのまま自分も社会人になり指導に行けなくなってしまったのだ。
その後、K君がどうなったかは分からない。


それからさらに約1年後。
顧問の先生に改めてお会いしに行った。
やっと外部の人が学校に入れるようになったというタイミングと記憶している。
当時の思い出話をしながら、その先生がおっしゃってた言葉を思い出した。(こんな言葉だったはず。)

「うちの中学校には、部活動が唯一の居場所になっている生徒もいる。学校にもなじめず、家に帰っても親がいない。他人への警戒心が強い。そんな生徒でも部活の時間、サッカーをしているときは、嫌なことを忘れられる。夢中になれる。部活の時間だけ学校に来る生徒もいたよ。」

先生は明るく話していましたが、自分にはとても印象に残る言葉だった。
部活の時間だけ学校に来ることが良いとは言えないと思うけど、
このサッカー部という空間、サッカーができる場所が、1人の生徒にとってはサッカーをする以上に大事な場所になっていたんだと実感した。

自分は、指導をしたい、メインでサッカーを教えられる環境を探したい、サッカーも教育も大事、サッカーを仕事にしたいとか言ってた視野の狭い自分を殴りたくなった。

こういう環境(部活、クラブ関係なく)をなくさないために、頑張りたい。
誰かにとってはなくてはならない場所になっている。そういう場所を全力で守る、より良くできるような人になる。
そしてサッカーって素敵だ。
そんなことを考えるきっかけになった出来事だった。


長文、読んでいただきありがとうございます。
※実際にいた生徒の話ですが、プライバシーのこともありますので、一部変えています。



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