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書評: あなたの読書観を変えるかもしれない「アトミック・リーディング」を読みました


Amazonのレビューを書こうと思っていたのですが、下書きしてみると思ったより長くなりそうだったので記事にまとめることにしました。

現在は読書に多くの時間を割いているので、この機会に自分なりの本との向き合い方を整理しておきたいと考えています。

アトミック・リーディングについては以下のブログを読んで、ブックカタリスト(著者のgoryugoさんらが本について語るラジオ)で本を語れるようにするためにしていることが書かれているというのに興味を持ち、読んでみることにしました。

こういう読書術が読みたかったんだよ『アトミック・リーディング』 - さおとめらいふ-魚住惇のブログ

感想

読書観がアップデートされた

読書というと、ページを順番にめくって文字に目を通すことをイメージしがちです。しかし本書は、読書をただ文字に目を通すことではなく、読んで書くこと(考えること)までが読書だと考えてみようと提案します。

そうすることで2倍の時間がかかるとしても、4倍のことを学べるのだとしたらその方が効率が良いのです。実際のところ、ただ一度目を通しただけでは、時間が立てばほとんどの内容を忘れてしまいます。また、その本について語ることも困難です。

「結局のところ、時間をかけて本を読むのはそれが楽しいからだ」という考え方も身にしみました。時間をかけるからこそ、一冊の本から多くのことを深く、そして楽しく学ぶことができます。

読書の目的が明確に設定されてあり、かつ実践に裏付けられている

読書法について書かれている本を読むとき、「それはどういう本をどういう目的で読むときの方法なのか?」と気になることがあります。本にはさまざまな種類があり、それを読む目的も時と場合によって変わります。

本書は読書の目的を「本について語れるようになること」と設定し、そのための具体的で実践的な方法を説明します。そしてその方法は、著者が2年以上の間続けているブックカタリストでの実践に裏付けられています。

著者自身がサピエンス全史を読んで「面白かった」としか言えなかったところから始まり、そこから語れるようになるまでに必要だったことが書かれています。

具体的な読書法について

読書法について書かれていることを、若干意訳を含めつつまとめてみました。

  • 読書を「読んで考えて書く」行為だと捉え直して、書くことや考えることにも時間を使うようにする。

  • 1冊を一気に読むのではなく、何冊か並行して日にちをかけて読むようにする。そうすることで睡眠の影響で記憶に残りやすくしたり、読みたい本を気分転換しながら読める。

  • 読書メモは読んだ本のリストを作ることから始める。リストには本のタイトルと読了日を書く。読んだ本のリストがあると、過去に読んだ本を振り返ることができる。

  • 著者の現在の読書メモの作り方は、一度目は普通に通読し、二度目は手書きでiPadにメモを書きながら読み、そのメモをテキストでまとめ直している。2回目にメモを書く理由は、一度読んで全体の構造を把握し、不要な箇所を飛ばしたり、重要な部分に時間をかけるため。

  • メモのタイトルはテーゼ(「〜は〜である」)の形式のものが好ましい。

  • 自分が面白いと感じたところや重要だと感じたところについて、自分の言葉でメモにまとめる。自分の言葉で書くから語れるようになる。本の内容を一度に要約したり語ることは難しいので、まずは小さく理解することから始める。そのメモを使って、語るための原稿を作ったり、要約したりできる。

数学の問題のたとえが秀逸

個人的に最も面白いと思った箇所の一つは、数学の問題を解くことと本を読むことを比べているところです。本を一度読んだ状態と、数学の問題を答えを写して解いた状態は「分かったつもりになっている」という点で同じだということでした。

本書に書かれているこの問題の解決策は自分の言葉でメモを書くこととなっていますが、この対比からは多くのことを学べるのではないかと思っています。

例えば問題が解けない原因が基礎が抜けていることだとしたら、基本的な事項を覚え直さなければなりません。つまり、本を読んでいて分からないことがあったとしたら、同じように基礎から学ぶのがよいということです。

また少し悲観的かもしれませんが、学生時代の数学の記憶が薄れているように、今学んだことの記憶も使わなければ薄れていくということです。当時一生懸命書いたノートはどこに行ってしまったのでしょうか(笑)。知識の寿命の問題は、今ならデジタルツールで解決できる問題かもしれません。

気になっていること

いくつか気になったことがあったので書いてみます。

本について語ることは読書の目的として適切か?

語ることを一つの目的として設定していますが、しばしば回り道になることがあるのではないかと気になっています。

紹介されている読書メモを見た感じでは、面白いことについて書かれているというよりは、本の重要な箇所について多く書かれている印象を受けました(ラジオで語るために深く知る必要があるという側面がありそうです。どちらかといえば、読書メモよりラジオの原稿の方が面白いという視点でまとめられていそうでした)。

本について語るためには本に何が書かれているかを正確に理解する必要があり、そのためには本の文脈の中で考える時間が長くなってしまいます。自分の文脈で考えることや、本に没入するのではなく材料として使うように読むことも重要だと思うので、その視点で考えるとまた違ったメモの作り方になるのではないかと思いました。

本書におけるアトミックなメモは再利用性があるのか?

上で書いたことにも関連するのですが、本書で紹介されているアトミックなメモというのは本当に再利用性があるのかが気になりました。紹介されているメモは、本という文脈の中に埋まっている印象があったためです。

そう考えるもう一つの要因は、タイトルをテーゼとして書いていることです。再利用性を考えるのであれば、タイトルはテーゼにするのではなく「Aについて」あるいは「A」のように名詞にするの方がいいのではないかと思いました。例えばWikipediaのタイトルはほとんどが名詞ですが、これは再利用性と網羅性を考慮した結果だと考えられます。

つまり、タイトルが名詞のメモも用意した方がいいのではないかということです。もちろん、テーゼとして書いたメモは、タイトルを名詞にしたメモにつなげて利用することができそうなので、全く無駄になるということはないと思います。

本書でのアトミックなメモは、本について語ることを目的にして書かれたものです。そのため、知識の再利用性という点ではまた違った考え方が必要になるのではないかと思いました。この辺りはScrapboxを使っている方を参考にすると感覚が掴める気がしています。

私の最近の読書メモ事情

読書メモで使っているツールは紙とMochi(アプリ)です。Mochiはリンクを貼ったり穴埋め問題を作れるアプリで、情報カードの実践として適しているのではないかと思って使い始めました。Scrapbox + Ankiみたいなイメージで使っています。

以下からおそらく僕が書いているカードが見れるはずなのですが、ちょっとバグってて一部動いていない雰囲気があります。

カード - Mochi

紙は手書きするのが好きなので使っています。じっくり考えて書きたいときは、まずはA4用紙にボールペンで文章を書いて、それからPCで清書しています。

アトミック・リーディングについてのMochiの読書メモは次のような感じです。1つ目が読んだ本リストのメモで、読了後に書くものです。2つ目が読んだ本の内容についてのメモです。

このメモは第一部は書かれていることを理解した範囲で実践してみて、第二部はまだ書いていなくて、第三部はテーゼを使わずに書くのを試してみています。第一部と第三部からノートを抜粋します。

第一部のメモ、空欄は「睡眠」「前の内容」
第三部のメモ、空欄は「よりよく」

基本的には穴埋め問題を作って書いているのですが、読書メモに関して言えば穴埋めする箇所が見つからない場合もあります。

全ての情報をMochiに書いている訳ではなく、再利用性の高くない情報はNotionで扱っています。具体的には、タスク、デイリーノート、走り書きメモなどです。この記事の原稿はNotionに走り書きメモとして書いています。

まとめ

今まで読んだ読書法についての本の中で最も好きな本かもしれません。本書の素晴らしいところは読書の目的を本について語ることと設定しつつも、本当の目的は読書を楽しむことだと繰り返し伝えているところです。

そして、読書をより楽しむ方法として一冊の本を時間と労力をかけて読むことを提案しており、本に時間をかけて向き合って学ぶことを後押ししてくれます。メモを書くのが面倒になったら本書に戻ってこようと思います。

著者自身が最初はサピエンス全史について「面白かった」としか言えなかったところから始まるところにも勇気づけられます。実は私も、サピエンス全史についてうまく説明できなかった経験があります。

農業革命についてはブログに書いて記憶に残っていたため少し説明できたものの、もちろん全体像を説明するのは難しく、詳細についても「ホモ・サピエンスってどういう意味?」「食料が増えたらなんで人口が増えたの?」などと疑問をぶつけられてタジタジになってしまいました。

その状態から前に進むためにも、新しい認識のもとで読書を実践していきたいと思っています。この記事自体も、アトミック・リーディングを2度読んで考えながらメモを書いたおかげで生まれたもので、その過程は楽しい体験でした。

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