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【至高】ボーはおそれている【歪愛】観てきましたー。(ネタバレなし)

 休日を利用して、『ジョーカー』で有名なホアキン・フェニックスさん主演、『ミッドサマー』のアリ・アスター監督の最新作『ボーはおそれている』観て参りました。
 あまり事前情報を仕入れずに観に行ったのですが、気分的には『マルコビッチの穴』『ツインピークス』『シックスセンス』などを鑑賞するつもりで映画館に足を運びました。

 精神疾患系の映画だろうと予測して視聴したものの、想像以上の怪異疑似体験ができましたので、その衝撃を記録したいと思います…。

個人的な評価

ストーリー  S-
脚本     A+
構成・演出  S+
俳優     S+
思想     S
音楽     B
バランス   A
総合     S

S→人生に深く刻まれる満足
A→大変に感動した
B→よかった
C→個人的にイマイチ

冒頭のあらすじ(ネタバレなし)

 物語は、赤ん坊目線の胎児の出産から始まります。光の感覚は分かるものの目は見えず、音だけで周囲の状況を把握するシーンが続きます。
 産道を通って母親の胎内から出ると、産まれたのに泣かないという理由で医師と助産師が対応を急いでおり、赤ん坊の背中を叩く行為に関して母親が声を荒げて抗議します。

 ところがいきなり、メンタルクリニックと思しき場面に切り替わります。ホアキン・フェニックスさん演じる50歳手前の男性・ボーが、セラピーを受けています。その内容は『母親のことを大切に思っていながら、同時にいなくなってほしいと思っていないか?』というものでした。

 ボーは医師のその問いに関して否定する言葉を返しますが、医師は『何も問題ではない。普通誰でもそういった相反する感情を持ちながら妥協して生きているものだよ』と言葉を続けました。
 そして、新しい薬を処方しようと提案します。ただし、その薬は水と一緒に飲まないと危険な副作用があるので、必ず水と一緒に飲むようにとボーに釘を差しました。

 ボーは自宅アパートに帰ろうとしますが、アパートの付近にはホームレス、売春婦、その他アウトローな人たちがたむろしています。そのため、ボーは絡まれないようアパートの入り口の数十メートル前から猛ダッシュし、駆け込むように家に戻りました。

 家に着いてベットに横になると、隣の部屋の住民から『うるさいから音楽のボリュームを下げろ』という苦情が書かれた紙をドアの下から何度も差し込まれます。
 ボーは音楽など聴いていないので困惑していると、ついには『ふざけやがって!音を上げやがったのか!?』と書かれた紙が押し込むように投げ込まれ、それを境に隣室の住民は対抗するように夜通し爆音を鳴らすようになりました。

 そのせいで、満足に眠れず寝坊したボーは管理人に電話をし、仲裁対応を求めますが相手にされません。その段階で、今日は母親に会いに行く日だったことを思い出し、迫る飛行機の時間に大慌てで準備をします。
 しかし、玄関のドアを開けっぱなしにしてちょっと目を離した隙に、そこにあったはずのスーツケースと鍵が失くなります。どこだどこだと探していると、その場を通り過ぎたアパートの警備員に「お前はもう終わりだ」と、告げられます。

 仕方なく、今日は行けなくなった旨の経緯を踏まえて母親に連絡すると、問答の末に『あなたは来たくないから、そんな嘘を言っているのでしょう?』と言われ電話を切られます。
 信じてもらえなかったことに失望するボーは、医師から処方された薬を服用しますが水道から水が出ません。もう飲み込んでしまったので、焦りながら水を探しますが冷蔵庫にもありません。

 外に出て買いに行くしかありませんが、鍵を失くしているので外に出るとオートロックで自宅に戻れなくなります。それに外には危険な人々がうろうろしています。ボーはアパートの入り口のドアにタウンワーク的な分厚い雑誌を挟むと、猛スピードで最寄りのストアに駆け込みました。
 店内で水を飲んでから飲みかけのペットボトルをレジに持っていき、会計をカードで済まそうとしますが、「そのカードは使えません」と言われ、財布から小銭を出しますがそれも足りません。

 「警察に通報します」と言われ、財布の中の小銭引っかき集めるボーですが、店外に目を向けると、外にいたアウトローたちがアパートの中に続々と入っていくのが見えました。
 ボーはレジ横の募金箱の小銭をぶちまけ、半ば無理やりに会計を済まし、店員の抗議の声も無視して急いでアパートに戻ろうとしますが、間に合わず内側からドアを閉められてしまいました

 自宅に戻れなくなったボーは、外の足場に昇り、自宅の様子を眺めて一夜を過ごしました。部屋の中は外にいた連中にやりたい放題使われ、荒らされました。
 翌日、その大勢の人々がアパートから出てくるタイミングで自宅に戻ると、スマホに着信があるのに気づきました。

 母親からなので折り返し電話すると、母親ではなく見知らぬ男性が出ました。男性曰く、『自分は配達人で、配達先の玄関のドアが半開きになっていたので覗いてみたら、女性が倒れていたんだ』と伝えられます。
 よくよく話を聞いてみると、母親の頭にシャンデリアが直撃し、そして頭部がバラバラの状態で亡くなっている、という状況を知らされ動揺するボーは数時間その場に立ち尽くします。

 どうしてよいか分からないボーは薬をくれた主治医に電話しますが、「私は精神科医ではなく、弁護士だ」と言われ、話が嚙み合いません。「一日でも早く母親を弔ってやるのが息子として当然の、最低限の義務だと思うがね」と言われ、一刻も早く母のもとに向かおうと決意するボーでした。
 しかしその前に、風呂に入って準備をしようと思い、湯船に浸かってリラックスしていると、ふと上を見上げたときに中年男性が天井の壁に忍者のように張っていることに気づきます。

 目が合った瞬間、その男性はボーにダイブするように落ちてきます。湯船の中でくんずほぐれつの格闘になりますが、殺されると思ったボーは全裸のまま外に飛び出し、視界に入った警察官に助けを求めます。
 しかし、警察官は「止まれ!」と言ってボーに拳銃の照準を合わせます。ボーが何か言おうとすると「頼むから撃たせるな!手に持っているものを捨てろ!」と声を荒げて警告します。

 ボーは無意識に手に握っていた、子供の頃母親にもらったミニ聖母マリア像を地面に落とし、像は砕け散りました。言うとおりにしたにもかかわらず、警察官が発砲の気配をみせたので、泣き叫びながら逃走するボーでしたが、車に撥ねられてしまいました。
 
 ここから本編に入りますが、ネタバレ回避のため控えます…。

感想

 内容的に、どこからどこまでが現実で、何が妄想なのか、結局真実は何なのかを考察すると興味深い作品だと思いました。本作は、重い精神障害を抱えた息子に対し、愛情と憎悪の対極の感情の混在を宥め賺して育ててきた母親と、現実と虚構の混濁と自責の念に苦しむ息子、という苦悩の対比の物語な気がしました。
 私が今まで触れて来た作品でいうと、三島由紀夫の『命売ります』や、CRAFTWORKの『さよならを教えて』に近い気がします。

 統合失調症の陽性症状をネタにしてる作品は、その素養がない人が観ると訳の分からない怪作、もしくは笑える悲劇みたいに見えてしまうことがありますが、実写映画でここまで見事に表現した作品はこれまで観たことがなかったので熱中して鑑賞できました。
 主演のホアキン・フェニックスさんの卓越した演技力、そして悪夢の連続を映像化したアリ・アスター監督の手腕にひとえに脱帽です。

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