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■AUTOMAGICイズム■                                         第七章・DFCでカスタムをもっと自由に その2

序章:オートマジックが開発したDFCは、フレーム補強として有効であるだけでなく、好みのディメンションを作り出し、オリジナリティの高いカスタムマシンを生み出すためにも効果を発揮する。リアの車高を上げてキャスター角を立てる、苦肉の策の手探り時代から視点を変えて安定性と運動性を
両立できるDFCの特徴を、さらに深く追求してみよう

 異種または同機種の2台のフレームを上下で組み合わせて、新たなフレームを生み出すのが「DFC=デュアル・フレーム・コンバインド技法」である。前号では、ニンジャのダイヤモンドフレームを強化するために、ダブルクレードルのGPZ1100用フレームの下半分を利用したことがDFCの起源だったことに触れた。
 これは市販のアルミサブフレームでは得られないフレーム強度を獲得するため、いわばフレーム補強を目的としたDFCであった。ただ、僕がDFCを発想した時、フレーム補強以上に大きな可能性を感じたのが「フレームのディメンションが任意に設定できる」ことだった。
 キャスター角や車体姿勢など、フレーム各部の位置関係であるディメンションがバイクの操縦性や安定性に重要な意味を持つことは、バイクに乗るライダーなら誰もが体感的に知っているはずだ。もちろんカスタム業界でも、スポーティな走りを実現するためのディメンション設定は重要である。カスタムマシンの定番であるGPZ900Rニンジャの純正キャスター角は29
度で、現代の感覚で見ればフロントフォークがかなり「寝た」設定である。
 フロントタイヤが17インチ主流となり、1990年代のカスタムブームの中でスポーティな操縦性を求めるようになると、このキャスターが厄介な問題となった。例えば現代的スーパースポーツモデルのZX10Rのキャスター角が25・5度であるのと比較すれば、ニンジャのキャスター角でヒラヒラした運動性を発揮させるのは無理な注文だった。

純正キャスター角29度のニンジャを25.5度まで立てると、多くのカスタム車に見られるような 前下がりの戦闘的なスタイルになる。だがスイングアームに注目すると、
急激に垂れ下がって いるのが分かる。この無理なケツ上げが、
運動性や操縦性に大きな影響を与えているのだ。
デジタル角度計を使って、 キャスター角を変化させた 時の車体各部の角度変 化を測定してみる。ノーマ ルの垂れ角からさらに4 〜 5 度変わると徐々に無理 が出てくる。この様な安 易なキャスター角変更に よる車体バランスの崩れ は要注意。
フロントフォークを3.5 度立てることで、クランクケースも 3.4 度前下がりになった。前輪の接地面を基準にして 車体が前転方向に回っていることを示している。 センタースタンド下に材木を挟んで前下がりの状態を作 り、フロントフォークの角度を25.5 度まで立てた。この ページのメインカットが、その時の車体全体のスタイリン グだ。フロント17インチの車両なら、多くのニンジャユー ザーがイメージしやすいかもしれないが、16インチ車で も前下がり、ケツ上がりのスタイルが分かるだろう
カスタムショップとして の経験則から、ニンジャ に限らずクランクケース の割り面を地面と平行 にすれば、車体は水平 になる。
フロントフォークとクランクケース(エンジン)の前傾具合 が同じ傾向にあるのに、スイングアームの垂れ角は純正 キャスター時の8.10 度に対して13.65 度に増加して いる。5度の違いはパッと見でも明らかだ。極端に垂れ角をつけてしまうとトラクションにもハンドリングにも大きく影響を起こしイジリ壊してしまう。
垂れ角の為にリアサス を伸び切り状態 にしてもまだ足り ず、リアショック とリンクを切り離 さなくてはならな い。この隙間を 埋めるため、リンクロッドを短くするか、車高調 付きのリアショッ クを装着しなくて はならない。それでもリンクの
位置関係は大きく変化して、作動性は純正設計時 とは異なってしまう。

(残念だが某雑誌はこういったデーター取りを某有名ショップと一緒に車体の水平の基準もとらずパッケージカスタムNinja とノーマルNinjaの前後タイヤ床面接地状態で計測していた。残念だが何の参考にもならん。逆にユーザーを戸惑わせてしまうだろう…)

【前下がりの車体姿勢やリアの車高上げでトラクション悪化!?】

そこで行われたのはリアの車高を高くして車体姿勢を前傾させ、相対的にキャスター角を立てるという手法だった。しかし、29度のキャスター角を
25度近くまで立てるには、リアの車高を相当上げなくてはならない。リアを上げるとスイングアームの垂れ角が大きくなるが、リアサスが伸びきってしまえばそれ以上は上げられない。そこでカスタムパーツとして、スイングアームとリアサスリンクをつなぐロッドの長さを短くした、車高調整用ロッドが登場した。このロッドを使えば、純正よりもさらに大きな垂れ角が得られるとして、1990年代のカスタムでは重宝された。当時はそのような思考の範囲で、オートマジックでもそうしたパーツを利用してキャスター角を立てるカスタムマシンを製作していた。 だがリアの車高を上げてキャスター角を減少させることで、さまざまな弊害も発生した。車高調ロッドを使用した場合の顕著な症状としてはリアサスリンクのレバー比が純正の設定から大きく変化して荷重変化に対してリアサスがきちんと動かなくなることがある。また、カウンターシャフトとスイングアームピボット、リアタイヤのアクスルシャフトの位置関係が悪化し、本来の設定とは異なる妙なトラクションが発生する。
 さらにライダーと車体の重心が上がってしまうため、コーナリング前のブレーキング時に前輪への荷重が増えて、路面状況が悪い場合はフロントからスリップダウンする危険性も高まった。フロントタイヤの接地点を中心に車体全体が前転するように回転するため、キャブの油面もクランクケース内の油面も、本来のリアサスマウント位置もすべて前方に向かって傾斜した状態になってしまう。
 要するに、リアを上げるだけでキャスターを立てるのには無理があるのだ。しかし、それを承知でケツ上げをしなくては、スポーティなカスタムニンジャはできないと考えられてきた。
 DFCであれば、フレームの上半分と下半分を任意の位置で接合できる。エンジンとスイングアームピボット、リンクを含むリアサス全体をワンユニットとして活用することで、エンジンの搭載位置を上げることなく、カウンターシャフトからリアアクスルシャフトの位置関係も変更することなく、フレームの上半分を前傾させることでキャスター角を立てることができるのだ。
 フレームディメンションは奥が深く、理想の数字なんて簡単に出せるものではない。だが、少なくともバイクメーカーがテストを重ねて設定したリアサスの動きを損なうことなく、既存のバイクのキャスター角を立てたいという欲求を満たすにはDFCしかないというのが、10年以上DFCに携わってきた僕の結論である。
 オートマジックで製作してきたDFCニンジャは、DFCだからこそ基本的な走行安定性を犠牲にすることなくキャスター角を立ててスポーティな操縦性を手に入れることができた。これはダイヤモンドフレームのニンジャに限らず、ダブルクレードルフレームのカタナとGSFを組み合わせたDFCカタナでも同様の効果が得られる。DFCは「ニコイチ」と揶揄されることもあるが、操縦性を犠牲にするような無理なケツ上げとDFCを比較して、どちらの方が理想的なモディファイかを考えてもらえれば、我々の取り組みの正当性を理解してもらえるのではないだろうか

エンジン、リンクを含むリアサス、スイングアームのディメンション は水冷GPZ 用を踏襲し、プラットホーム的考えで基準としてい る。フレームの上下をバラして、
運動性に影響を与えない上でディ メンションを再設定できるのがDFCのメリットだ。
エンジンを含むダウンチューブの途中からスイングアームピボッ ト、リアサスマウントを水冷GPZ 用から切り取り、その部分はワ ンユニットとして路面に対して純正値を維持。その上に空冷 GPZ 用フレームの上半分を溶接し、
キャスター角は水冷GPZ の260 度まで立ててある。
右側ダウンチューブは水冷GPZと 同様に着脱式としてメンテ性を向上。
空冷エンジン最終モデルのGPZ1100F用フレーム の上半分と、水冷GPZ1100のフレーム下半分を合 体させたDFCの最新作。一見すると正体不明だが、
フレー ムナンバーから機種名は空冷GPZ1100Fとなる。

【オリジナリティを重視してカスタムの核心を追求したい】

 オートマジックはカスタムの「核=コア」の部分を担っていきたいというのが僕の持論だ。バイクの操縦性にとって核となるべき部分とは、主に①キャスター角、②スイングアームピボットから各アクスルシャフトの位置関係、③ピボットとヘッドパイプの位置関係であると僕は考えてい
る。DFCのメリットは「ディメンションの任意設定ができる」ことなので、古いバイクをカスタムする場合にはもっと新しいマシンのディメンションを参考にしながら、より性能を発揮できるディメンションを作るようにしている。
 DFCによってフレームディメンションを自在に設定することに比べれば、フロントフォークやブレーキシステム、スイングアームやホイールなどのスペシャルパーツは、僕に言わせれば付録であり補足要素のようなものである。補足と言うと語弊があるかも知れないが、バイクの骨格であるフレームやディメンションをいじらず(加工技術や作業環境的にいじれないのかもしれないが)、周辺を飾り立てるのは、建築物にたとえれば基礎や骨組みな
どの躯体(くたい)の強度や構造を疎かにしたまま高級ドアや外壁、大理石の床などにこだわっているようなものだと思う。本当にこだわるべきことは何なのかを考えれば、重視すべき点も見えてくるはずだ。

 残念なことに、現在のカスタムシーンでは補足要素の豪華さでカスタムの優劣が決まるような風潮があり、そうしたショップが生み出す似たようなカスタムをもてはやすユーザーも多い気がする。これではネットやランキング本の情報に踊らされて、巷で人気の食べ物屋の行列に好んで並ぶ人と何ら変わらないと思う。人とは違う個性を求めながら、結局人と同じ価値観で行動するのは、いかにも日本人的な一様のMONOカルチャーだと感じてしまう。せっかく好きでバイクに乗っているなら、誰かの意見に流されるので
はなく、自分の頭で考えて物事を決められるようになって欲しいし、ショップにもそれに応えるスキルが必要だと思う。

【絶版車カスタムやレストアにも有効なDFC】

異なる機種のフレームを合体するだけでなく、クロモリパイプで新造した部材 を用いてフレームをモディファイするユニットDFCも、オートマジックならでは の手法である。ダウンチューブからスイングアームピボットを経て、シートレー ルに至る部分をオートマジック生産のユニットフレームとして新作することで、 パイプ内部の腐食による強度不足や、ワイドスイングアームを装着する際に も、チェーン軌道を確保するために無理なザグリをする必要はない。

 フレームディメンション=核、カスタムパーツ=補足という論法でいえば、絶版旧車用フレームに施されるユニットDFCも、オートマジックが目指す核に関する技術である。以前のコラムでも触れたが、カワサキZ1のダウンチューブが経年劣化でサビているのは珍しいことではない。腐食して肉厚が薄くなったフレームパイプの強度低下を無視した状態では、補強用のパッチをどれだけ張っても、ロッキードキャリパーやオーリンズの倒立フォークに交換しても意味がないのは、誰が考えても理解できるはずだ。
 我々のユニットDFCは、腐食したフレームをクロモリパイプで置き換えることで軽量化と強度アップを同時に果たしているのが特徴だ。カスタム車だから補強を入れたいというユーザー心理は理解できるが、ユニットDFCでフレームをモディファイすることで、多くの場合は補強無しで必要十分なフレーム強度に達していることも知っておいて欲しい。
 ノウハウと経験、技術を融合させてユーザーや他のショップに「俺たちにはこんなことはできない」と言わせるような仕事を続けなくてはならない。誰でもできるようなボルトオンスペシャルパーツの満載や、昔から続いてきた手法を繰り返すだけでは、カスタム業界全体の進歩も発展もあり得ない。ユーザーに「その手があったか!」と驚きや魅力を与えられてこそ、真のカスタムショップである。
 本誌読者を初めとするカスタムに興味のあるユーザーには、広い視野でそうした仕事を行うショップを見極めて欲しい。我々もカスタムショップと言う以上、常に遊び心や個性、独創性や新領域の開拓に心を砕いていかなくてはならないと感じている


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