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11月5日~11月11日 お腹の日+連休明け

連休が終わった。

彼女と日光に温泉旅行に行ったり、ずっと忙しくて行けなかった展覧会を楽しんだり、とても充実した至福の数日間であった。しかし、それは昨日までの話、また積み重なる仕事のプレッシャーとヤツとの闘いの再開だ。

その名は、ゲリリアン。といっても勝手に私がそう名付けただけであるが。朝に起こる電車内でのただの腹痛だ。私の人生はいつもこいつに悩まされてきた。学生時代、大事なテストの日など絶対遅れてはいけないときには電車を使わずチャリで学校に通った。入試の日は両親に会場まで車で送ってもらった。しかし、もう社会人。そんなことは言っていられない。

こいつのせいでオレは会社の遅刻魔である。かなりの確率で目的の数駅前で腹痛を我慢できなくなり、途中下車してしまうからである。早い時間の電車に乗っても、腹痛が長引き、結局、定刻の始業時間に間に合う電車に乗れないことが多い。今年はコロナ禍で在宅勤務が多かったので完全に油断しており、気もお腹も緩みっぱなしで負け越している。今まで遅刻を飲み会の場を盛り上げることによりカバーしてきたが、コロナ後は会社での飲み会もめっきり減り、挽回の機会も得られずじまいである。それゆえ、そろそろ減給のピンチであり、エスカレートすれば解雇もあり得る。早急にこの闘いとの終止符を打つ必要が出てきた。

今日はとっておきの秘策を考えている。今まで、いやらしいことを考えたり、かわいい動物のことを思い浮かべたりしながら気をそらそうとしてきたが、どれもさほどの効果を得ることができなかった。そこで反省した改良点は、さらなるマインドフルネス、没頭であった。それをヒントに、広辞苑を“あ”から読み続けるという策を思いついたのである。これなら、仕事のコピーライティングにもいかせるので一石二鳥だ。すでに電子版をスマホに早速ダウンロードし準備万端だ。新シーズン突入である。

「プシュー」

電車に乗り込む私。勝負開始だ。

“あ、あ【足】、あ【畔・畦】、あ【網】”

当たり前だが最初は“あ”の連続だ。

“ギュル”

向こうの攻撃も開始された。

“ああ【唖唖】”

やっと“あ”ゾーンを抜けた。良い感じだ。冒頭はヤツの声を感じはしたが、今のところ意識しないほど没頭できている。

しかし、ゴールの二駅前、集中力が切れかけてきたそのとき、ヤツの攻勢が始まる。

“ギュルギュルギュールルー、ギュールールールールールルー”

やばい、もっと没頭しないと

“あじきり【鯵切】、あしくせ【足癖】、あしくび【足首】”

“ギュル―ルルールルー、ルルール―ルールールルー”

“あしくぼちゃ【足久保茶・蘆窪茶】、あしくらべ【足競べ】、あしげ【足蹴】”

“ルル―ル、ギュールールールルー、ルルール、ギュールール―ルルー”

“あしげ【葦毛】、あしげい【足芸】、あじけない【味気ない】”

“ギュル―ル、ギュル―ル―ル―、ルルール―”

もしかして、これ長渕の「乾杯」のリズムを奏でてないか?疑問が生じ、意識が広辞苑からとぎれたとき、ヤツのサビの猛攻撃が始まる。

“ギュルルールールルールルル―、ギュルルールル―、ギュルギュルル―ルルー、ルルギュールール――”

“あしこ【彼処】あしごい【葦五位】あしこし【足腰】あしごしらえ【足拵え】あじさい【紫陽花】”

必死に抵抗するオレ。

“ギュルギュルギュールルーギュルル、ギュル、ルールルールルルー、ギュールル―、ギュルールルーー”

“あしさぐり【足探り】あじざけ【味酒】あじさし【味刺】あしさばき【足捌き】あしざま【悪し様】あしざわり【足触り】あしざわり【足障り】”

”よし!ラッシュが決まった。ヤツの動きが止まったぞ。”

手前の一駅にさしかかったそのとき

“ギュー―――――――――――ル―――ル―――――――”

まさかのライブバージョン!耐えきれなくなったオレは一駅手前で下車し、トイレの中で敗北の臭いを嗅ぎしめる。

「寝る時みたいに羊ではなく正露丸を頭の中で数えたらいいのでは!?」

そのような次の策を考えながら扉を開けた私は、即猛ダッシュをかまし、汗だくになりながら会社に向かうのであった。

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