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どこまで踏み込む?自殺未遂!?(薬剤師の仕事2)

はじめに


思い出本文は無料です。
神経内科に通うAさんとの思い出です。

統合失調症は薬を完全にやめることは難しいですが、お薬を使って良い状態をキープすることが大事な疾患です。
大事なことはお話を聞くこと。その際には前回と比較して顔色はどうか、表情はどうか、食欲はどうか、感情の変化はどうか等に注意しています。

Aさんってこんな人

4種類の抗うつ薬と2種類の睡眠薬を処方される方でした。
Aさんは長くうちの薬局を使っていただいていたので、お薬をお出しするときにいろんなお話をするようになりました。

リストカットを繰り返したこと
リストカットをする理由
今の家族への想い
必要とされない孤独感
ペットを可愛がっている
等など。

自分の内面をお話していただけるということは、ある程度信頼していただけている証拠でもあるので嬉しくもありました。

Aさんからの1本の電話


そんなお話をした2週間後くらいだったと思います。
薬局に1本の電話。
事務スタッフさんが電話を取りました。
私に電話をかわって欲しいとのこと。
Aさんです。

Aさんは
「便秘で困ったときにどうしたらよいか?薬を飲んで良いですか?」
「風邪引いてしまったんだけど、○○という市販薬を飲んで良いですか?」
「少し調子が悪くてカットしたくなるので話を聞いてくれませんか?」
というように、困ったら電話をしてくれる方なので「どうしたのかな~」っと思いつつ事務さんから電話を代わりました。

まちもり「まちもりです。どうされました?」
Aさん「まちもりさんですか?今死ぬために家にある薬を全部飲みました。今までありがとうございました。」
まちもり「・・・・・・ん??ちょっと待ってくださいね?何をどのくらい飲んじゃったんですか?」
こういう電話は薬剤師として初めて受けましたので困惑しました。
なんとか気持ちを立て直して話を続けます。

Aさん「薬局からもらった薬を30日分全部のんだのでどのくらいでしょうか?」
まちもり「200はかるく越えてますね。今はどんな気分ですか?」
Aさん「特に今のところはなんともないです。」
まちもり「病院の先生には連絡されましたか?」
Aさん「一応連絡しました。病院に来た方がいいと言われましたよ。私が行かないっていったら、症状が特にないなら様子を見てもいいけどって。」
まちもり「そうなんですね・・・・・・今はお一人ですか?」
Aさん「こどもは母のところにいるので一人です。今日はかえってきません。」

Aさんは一人でいるのに、病院はどうやって様子見させる気なのでしょうか?
神経内科中心の病院なので対応マニュアルは作成しているのでしょうが、この状況を放っておくことはできません。
全例対応していたら仕事にならないことは承知していますが、できることは何かあるように思います。


Aさんに病院にいくことを何度も勧めましたが、なかなか納得していただけません。

まちもり「それでは、ご家族に連絡してもいいでしょうか?」
Aさん「いいですけど、あの人たちはこないと思いますよ。」
まちもり「それでは、お子さんに電話して一緒に伺っていいですか?」Aさん「いいですよ。迷惑じゃないですか?」
まちもり「だいじょうぶですよ~。では連絡してみますね。後ほど伺います。」
せっかく頼って電話していただいたので放置することはできず、ご家族とともにAさん宅に伺うことを選択しました。

薬局内での混乱


薬局スタッフにまずは報告して準備です。

正社事務「なんか大変なことになってます?」
まちもり「ちょっと出てくるから後よろしくね~」
パート薬剤師「どうしたんすか?」
まちもり「Aさんが薬を数百錠飲んで死にますって電話きたから、家族に連絡取って一緒にいってくるわ。」
パート薬剤師「・・・・・・後はやっておきます。」
正社事務「話し方が少し変でしたもん。気をつけていってください。」

薬局内のスタッフは4人いまして、2人のスタッフは了承して下さいました。
1人は納得できなそうな顔です。
前社長である長老薬剤師です。

長老薬剤師「そこまでしないといけないの?」
まちもり「じゃあほっとく方がいいですか?」
長老薬剤師「そうはいってないけども・・・」
まちもり「ではどうしますか?」
長老薬剤師「救急車呼んだらどう?」
まちもり「病院が様子見っていってるんすよ?本人は病院に行かないっていってるのに、救急車呼んでどうするんすか?救急車乗らないでしょう?」
長老薬剤師「・・・・・・」
長老は納得いかないようです。

まちもり「戻るまでどのくらい時間がかかるかわかりませんが、私がお金にならないことで出て行く時間が時給換算で○○円無駄になるって考えですかね?」
長老薬剤師「そうはいっていない。」
まちもり「そうはいってなくてもそういうことでしょう?じゃあ私が出て行くことを否定する理由はなんですか?」
お互いヒートアップしています。


まちもり「目先の利益だけ考える薬局でしたかね?うちは。」
まちもり「そんな薬局ならいつでもやめますよ?そんな薬局で適当な仕事をしたくて(この会社に)きたわけじゃない。地域支援体制加算もとれなくなりますね!」
長老は完全実利主義(経営側なんで仕方ないでしょうが)、私は実利も大事だと思っていますが、あくまで理想をかなえるための手段でしかない。
話は合うはずもなく平行線です。

正社事務「まちもり!よかけん!はよいきなさい!」
薬局内に響きます。
まちもり「ああ・・・すみません!ありがとうございます!」
怒り心頭の私を事務さんが我に返してくれました。
事務さんに謝罪と感謝を伝えました。
この事務さんにはいつも助けられており、今の仕事を続けられているといっても過言ではありません。
私の右腕的な人物です。

まちもり「長老、社長には私から後で報告しますが、私の行動に文句があるなら先に報告しといてください。」
薬歴をチェックし、Aさんのキーパーソンに連絡をしました。

(少し横道へ)


私が経営側に文句が言えるのは、
長老薬剤師が薬局の経営理念(うちの薬局にきた人全員をハッピーにしようぜ!的なものです)に沿っていない
からであって、わがままを通している訳ではありません。
経営理念は経営者、雇用者ともに守るべきものですから、そこから外れていればどちら側であろうが責められて然るべきです。
もう一つは現社長に「こんな薬局・薬剤師でありたい」という想いを共有して入社していることもあり、納得がいくまで戦います(笑)。
間違っていたら謝罪しますし、折り合わなければいつでもやめる決心です。
経営者からすれば「やめる=脅し」なのかもしれませんが、経営者はそうならないようにリスクマネジメントしてほしいものです。


ご家族に連絡を


まちもり「○○薬局の薬剤師のまちもりです。」
Aさんの子供「こんにちは~。なんかありました?」
(子供さんもうちのお客さんです)
まちもり「お母さんが薬全部飲んじゃったって電話来たから一緒に行ってくれないかな?」
子供「え~!?まちもりさんはきてくれますか?」
まちもり「いくつもりだよ。」
子供「おばあちゃんも一緒にいいですか?」
まちもり「迎えにいくからまってて。おばあちゃんも一緒によろしく!」
社用車に乗り込み、待ち合わせ場所に向かいました。

おばあちゃん(Aさんの実母)の家で3人合流です。
おばあちゃん「うちの子がまた迷惑かけてすみません。また自殺しようとして。なんであんなことばっかりやるんか・・・。死にたいなら薬局に連絡せんといいのに。

そう。
死にたいだけなら誰にも連絡しないんですよ。
死にたいだけではなく、裏には何かしらの感情があると考えるのが妥当です。
感謝を伝えたいのか、死ぬことを止めて欲しいのか、絶望に至る経緯を話したいのか、本当に死にたいのか、生きたいのか、幸せになりたいのか・・・
様々な感情が入り乱れた結果、
「今から死にます。ありがとうございました。」
という電話なんです。
恐らく本人に聞いても、どういう気持ちで電話しているのか分からない。
病院や薬局に電話した理由も分からない。
私見ではありますが、死にたいは生きたいと同意義。
ご家族だからこそなのか、相手の言葉の真の意味を考えることがおろそかになっているのではと思います。

まちもり「Aさんもいろいろと想うことがあるんでしょう。死にたいも生きたいも同じようなものですよ。それよりも行きましょう。」
ここで話をしても仕方ないので急いでAさんの所に向かいました。

Aさん宅にて

まずは状況確認


まちもり「Aさん、三人できましたよ~」
Aさん「いらっしゃい。いっぱい飲んじゃいました。」
意外と軽い感じでニコニコされており不思議な感じです(笑)

おばあちゃん「あんたはもう!いつも迷惑ばかりかけて!」
Aさん「はいはい。もういいとって。死にたいとって。」
まちもり「子供さんも心配してますよ?」
Aさん「私のことはうざいくらいにしか思ってないよ。」
子供「そんなことはないって・・・」
自暴自棄な感じが見受けられます。

まちもり「取り敢えず薬を確認させてもらえますか?」
神経内科でもらっている薬と、その他の病院でもらっている薬を含めて
200錠以上飲んでいそうです。

まちもり「死にたくなっちゃったんですね?何かありました?」
Aさん「もうどうしようもないっていうか、もう嫌になったというか。裏切られたっていうか・・・・」
まちもり「嫌なことがあったんですね・・・」

ここからはひたすらお話を伺います。
ご家族への気持ち、病院の先生にいわれたこと、入院先の看護師さんに言われたこと。
他にもいろんな悩みを1時間程度吐露されました。

どっち!?


まちもり「取り敢えず病院いきませんか?」
Aさん「また入院させられるから嫌です。明日ペットの病院にいかないといけないから。」
まちもり「でも死んじゃったらペットの病院には行けないじゃないですか?」
Aさん「いいの。死にたいんだから。」
まちもり「でもペットの病院には行きたいんでしょ?」
Aさん「ペットの病院には行かないとだめなんです。」

なかなか収拾がつきません・・・
最悪の事態は一人でいるときに意識を失い亡くなることです。

まちもり「ここにいてもいいですけど、調子悪くなったら救急車呼べますか?」
Aさん「わからないですね~病院いきたくないもん。ペットの病院には行きたいけど。」
まちもり「ご家族が一緒にいるならお任せできますけど、どうでしょう?」
おばあちゃん・子供「もう病院いこう・・・」
ご家族はこれまでの経緯もあるので、疲れ果てています。

Aさんの目がとろんとして、声に力がなくなってきました。
Aさん「なんかぼうっとして、ふらふらして何も考えられなくなってきた・・・」
まちもり「ペットの病院にはいきたいんでしょ?取り敢えず死んだらペットの病院いけないので、今日は生きときませんか?」
Aさん「・・・そうですね。今日の所は救急車呼んでください。」
まちもり「その方がいいですね。死にたくなってもならなくてもまた連絡くださいね~」
Aさん「死ぬ前に連絡しますね~(笑)」
そうやって冗談も交えながら、最終的には救急車を呼びご家族に託すことができました。

社長への報告

謝罪は致しません


まちもり「もどりました」
社長「お疲れ様。話は長老薬剤師に聞いてるよ。」
長老薬剤師は社長の父親です。
ここからは自分の考えを貫きます。

まちもり「今回の件ですが、私は薬局の理念に則って行動したつもりです。何か問題がありましたか?」
社長「問題はないのかもしれない。親父には今回の件、私に任せるようにいってあるよ。」
まちもり「私も初めての経験だったので、これでよかったのかはわかりません。今回の行動は特に謝罪するつもりはありません。長老薬剤師にも。」
間違った行動を取っていると思っていませんので謝罪はできません。
気持ちのこもっていない謝罪をする方が失礼です。

まちもり「ただ、今後同じようなことがあった場合、会社としてどういう対応をすべきなのかどうお考えですか?少なくとも私が電話を受けた場合、恐らく今回と同じ行動をとります。パート薬剤師は私の行動に賛同してくれると思いますが、長老薬剤師は今までの経験上、救急車を呼んでくださいといって電話を切ると思います。どちらがよいとはいいません。会社として、対応する薬剤師によりお客さんへの行動が変わることは問題だと思うんです。」
担当がかわるとサービスがかわるのであれば、せっかくリピートいただいてもお客さんの不信感に繋がります。


社長「そうだね。今後薬剤師がどういう行動をとるのかは君に任せる。薬局内で他のスタッフと話し合って下さい。ただし、きついと思うよ。これから1回や2回ではなく続けないといけないよ、最後まで。休みの日もかかってくるかもしれない。」
まちもり「緊急電話は私が持っているので、他の人には迷惑かけないと思います。日中こんなことがあったら薬局を抜けますが、業務時間内は全員に協力してもらいます。」
社長「分かった。後は任せるので、決まったら報告して下さい。」
そういって社長には納得していただきました。

(またしても横道へ)


薬局で大事なことは、
スタッフの個性はあってよいが、同じサービスを継続して提供できること
です。
経営者であれば自己犠牲で続けることができると思いますが、雇われは自己犠牲では続きません。
中には医療者だからという方がいらっしゃいますが(この点でも経営側と大喧嘩したことがあります)、「医療者=自己犠牲するべき人」の図式は成り立ちません。
犠牲を払う本人が言うのはよいですが、他者からいわれるのは筋違いです。


救急車にのって


後日息子さんとAさんが来られてお話を聞きました。
救急車にのって病院にいったものの、二日間は記憶がなくどんな処置をされたかわからないそうです。
入院を宣告されたそうですが、点滴を自分で抜いて帰宅(笑)
出入り禁止を食らったとのことです。
(真似しないようにお願いします!)

帰宅後は自殺願望が残っていたんですが、来店された時にお話を聞いたり、電話でお話を聞いたりで、ここ1年程度は落ち着いてきて顔色も良い状態です。

「折り紙を折ったり、庭にお花やハーブを植え育てる趣味も見つけることができました~」
子供さんとお二人で薬局にきてくれました。
処方箋があってもなくても、OTCの販売があってもなくても、気軽に立ち寄れる薬局でありたいです。

お悩みを抱えている貴方へ

「一人で悩まないこと」
これにつきます。
自分で分からないことを他の人に話すことで、気持ちの整理ができることもあります。
考えがまとまってなくて支離滅裂でもいいんです。
主治医や看護師、薬剤師等の医療者に限りません。
相談できるご家族や友達もよいですね。
保健所や市役所等の相談窓口もあります。
限界を迎える前に連絡を取って下さい。
調子が良いうちに探すことができたら理想ですね。
自分の気持ちを吐き出せる場所を見つけましょう。


後日薬局にて


薬局内でミーティングを行い、薬剤師と事務スタッフの協力を取り付けました。
日中にお出かけが必要な事案(患者宅訪問)は私やパート薬剤師が動き、長老薬剤師は調剤メインで動いてもらうことになりました。
必要があれば事務スタッフさんも一緒に患者宅に向かいます。
以下のような簡単な取り決めを行いました。
・経営理念から外れる行為は、経営者であっても例外としないこと
・外れているか否かの判断は店舗のトップが判断すること
・店舗のトップがおかしなことをいったら、全スタッフが止めること(笑)
・判断に迷うのであればすぐ社長に確認をとること


その後ここまでの緊急案件はありませんが、アドヒアランスが悪い方には訪問することがスムーズに行えるようになり、かかりつけ薬剤師の獲得や服薬情報等提供料等の報酬増加により経営にもプラスとなりました。

自分を通すなら、経営のことも考えないとダメですよね。
経営のことを考えないで文句だけ言う薬剤師は、ただの「モンスターファーマシスト」です。

考察

今回のケースはどうすればよいのか


こういう場合にどういう対応をすることが正解なのか。
正解はないのかもしれない。
1家族と一緒に自宅にいく
2救急車を呼ぶ
3病院に連絡する
4家族に連絡を取り自宅に行ってもらう
今回は1を選びましたが、4が良いのでしょうかね。
長老薬剤師とも喧嘩せずにすみそうです(笑)
ご家族に連絡がつかなかったらどうでしょう。
私なら単独でご自宅へ行ってしまいそうです。
単独でいくと、患者さん宅で何かあった場合のリスクが怖いですね。
事務スタッフさんも一緒にお願いした方がよさそうです。

神経内科の門前ではないので、このようなケースはどうしているのか経験のある医療関係者がいたら教えていただきたいです。


薬局のあり方


「こんなことやってたら仕事が終わらない」
「よっぽど暇な薬局なんだね」
「うちは一人薬剤師だから無理です」
「自己犠牲じゃ続かない」
「個人経営の店舗だからできるんでしょ」
いろんな声が聞こえてきそうです。

私はこれをやりなさいというつもりはありません。
あくまで、ある個人経営の薬局(私は雇われ管理ですが)の一例です。
薬局は薬を出すだけでなく、いろんな仕事があり忙しいことは重々承知しています。
私も同じ調剤薬局の薬剤師です。
ただ、顧客に薬を出すだけと思われる薬局であれば「淘汰されるいらない薬局」になります。

「こんなに頑張っている」
それは顧客には関係のないことです。
何かしらの付加価値をつけなければ、今後電子処方箋やオンライン診療が一般化した際に大手に潰されるのが目に見えています。
薬局だけでなく、付加価値のある薬剤師でないと「淘汰される薬剤師」です。
薬局も薬剤師も地方に行かないと余っている状況です。
私は今後、薬剤師は全員個人事業主になり、薬局や調剤専門工場と事業契約を結ぶような未来になるんじゃないかと思っています(考えすぎかもしれませんが)。

仕事が終わらないのであれば、終わるためにどうすれば良いか考えるといい。
暇がないのであればつくればいい。お金のいらない効率化はいくらでもできる。
一人薬剤師だから無理なら、一人薬剤師を雇うお金を点数とってつくればいい。数字を見せれば経営者は納得する。
私だって極力自己犠牲したくない。効率化、協力してもらう努力をしましょう。
個人経営だからできることを探しましょう。大手がまねできることをしても勝ち目はありません。

「あそこはよく話をきいてくれる」
これだけでも付加価値です。
専門薬剤師、認定薬剤師をとる必要はありません。
薬に詳しいだけが薬剤師でもありません。
薬局として、薬剤師として、今後どうあるべきか考えてみてはどうでしょうか。






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