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『市子』(邦画)

視聴環境:Amazon prime video

※ネタバレします。


【内容】
義則は、同居している彼女である市子にプロポーズしたのだが、翌る日に市子は義則のもとを去る。困惑した義則は、市子の過去を探り始める…


【感想】
映画冒頭は、こんな始まり方でした…

アパートの一室。
ボストンバックに乱暴に衣服を詰む化粧っ気のない市子(杉咲花)。
部屋のテレビから、土砂崩れで身元不明の人間の白骨化した死体が発見されたニュースが報じられている。
扉の外からの近付いてくる義則の足音を聴いて、焦って窓から2階のベランダを飛び降り、必死で駆け出す市子。
義則が扉を開けて、部屋に入るが異変に気づいてベランダに出る。ベランダの手すりの横には、急ぎすぎて市子が持っていけなかったボストンバックが置かれている。
えっ…といった顔で、ベランダの先を眺める義則。

改めて、書き出してみると本当によく出来てるなあと感じます。
ただならぬ始まり方で、一気に観客を映画世界へと引き込むファーストシーンでした。


凄い資金を掛けなくても、役者の演技と演出で、ここまで目を惹きつけることが出来るんだなあと…
もう目を奪われる、というか目を離せない…
冒頭の市子がプロポーズされているシーンは、なんだかドキュメンタリーを観ているような気になるくらい自然で…
ラストに同じ場面が繰り返えされるのですが、はじめとは全く違った意味で観れるのも、唸らされました。

市子という異形で魅力的な存在を、俳優さんが演じることで強烈な説得力を出していると感じました。
杉咲花って、こんなに凄い俳優さんだったんだなあって…

子供自体のエピソードパートも、滅茶苦茶不穏でモヤモヤする…
観ちゃいけないものを観ている感が半端ない…
キツい、キツい、キツい、キツい…
観ていて、嫌な感じでドキドキしてくる。
その他のエピソードも、エグい…

カメラが常に揺れているのも、不安定な現実と、ドキュメンタリーな感じを醸し出していました。
普通の人間と話しているようでいて、この自分の常識とか全く違う、全く別の世界に生きているという…
コミュニケーション取れているようでいて、実は全く心が通じ合っていないあの感じ…

この映画を観ていたら、個人的な色んな記憶の扉が開いてきました。
学生時代、バイト先で知り合った人からよくベビーなその人のプライベートな話をされることがよくあったのですが…
母国の中国では大学院卒業してロケット開発をしていたけれど、夫婦で日本に来たら仕事が全然なく、掃除のアルバイトをしているという中国人の女性は、中国人ということで日本でまともな仕事に付けないようでした…彼女は「日本人嫌いです」と言っていて、なんともいえない気持ちになった時のこととか…
旦那さんと別れた後、拒食症になってしまい未だに精神科のお医者さんの所に通っているというガリガリに痩せた女性。手首には横に伸びる幾つもの瘡蓋…
自分の今まで会って来た人たちの中で、僅かに言葉を交わしたり、ちょっとした仕事をした人々の中に、市子みたいな人がいたんじゃないのか?

映画って、その作品自体を楽しむということもありますが、良い映画っていのは観ている人間の人生をも投影するような効果もあるものなのではないかといったことも、この映画を観て感じました。


ただ、気持ち的に落ち込んだりした時には、観ない方が良い映画のような気がします。
私は映画の途中、何度かいたたまれず、観るのを中断してしまいました。
こうした映画は、そう言った意味でも映画館で観るべき映画なのだと思いました。

https://happinet-phantom.com/ichiko-movie/index.html

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