挨拶代わりに容姿をいじる奴は地獄へ落ちろ


「前より顔色良くなったね、ご飯食べれるようになった?」
久しぶりに会った上司はそう問いかけ、私は「はい」と小さく頷いて答えた。
実際、前回会った時より気持ちは上向きだったし、ずっと化粧をする気が起きていなかったが、外出するときの身なりを気にできるくらいまでは回復していた。上司に会って、これからの仕事の話をするのは嫌すぎてほとんど目を合わせずに返事だけしていた私に上司は何を話していいか困っているような顔をしていた。微妙な空気が流れた。昼過ぎで満席のざわざわしたカフェでよかった。人の話し声をBGMにしながら、はやく終わらないかなと思った。特に話すことがなくなってしまった上司は、貼り付けたような笑顔でこう言った。
「それはよかった、顔もちょっと丸くなったね」
きっと上司は顔が暗い私に、場を和ませるためにそう言ったのだろう。でも私はその言葉に顔が引きつった。全く面白いと思わなかった。なんてデリカシーのない人なんだろう。今まで積み上がっていた上司への信頼は全て崩れ落ちた音がした。

社会人になって、会社の人から容姿のことを言われることは初めてではなかった。違う部長からは2年目の時に、「天国、なんか太った?」と、挨拶のように言われた。私はストレスで過食に手を出し始めていた頃で、止めたくても止められない食欲と戦っていた。他の女性社員より太っていることは自覚していたし、当時の体重は人生でもMAX、健康体重を10キロ超える肥満だった。だから私は何も言えず苦笑いをするしかなかった。家に帰ってから、一人で泣いた。
それから私は炭水化物を全く食べない低糖質ダイエットを開始した。半年で6キロ減ったが、そこから全く減らなくなった。部長から太っているとは言われなくなったけど、周りの女性より太っているのにこれ以上減らない体重がストレスになり、過食はエスカレートした。最寄駅から家までの間にスーパーやコンビニで食料を調達して家に帰るまでの車内で食べきる。スナック菓子を3袋の日もあれば、おにぎりを4つ食べた時もあった。ダイエットに協力してくれている母にはバレたくなかった。だから、家に帰ってお腹はいっぱいなのに夕食を食べないという選択肢はなかった。ただでさえ炭水化物を食べてないのに、何も食べないと心配させてしまうから。暗い車内でひたすら口に詰め込んで、味も匂いも何もない。ただ咀嚼してお腹に入れて、その時間は何も考えられなかった。

高校生の頃、そこまで仲がいいわけでもないクラスの女子に突然、「なんか怒ってる?」と言われたことがあった。別に何も怒ってなかった私はなぜそんなことを聞かれたのかわからなかった。「なんで?」と聞いたら、「なんか私のこと睨んでたでしょう?」と言った。その子は、本当にそう思ったから私に伝えたんだろうけど、理由もなく人のこと睨むようなことをしたことないのに、そういうことをする人と思われたことがとても悲しかった。このときのことは日常の、本当になんでもない、一瞬の出来事だった。でも私の中では相当深い傷になっていて、三白眼気味の目を隠すためにカラコンは今も手放せないし、その頃から目を優しく見せるためにアイプチをしていたがついに去年二重の埋没整形をした。

言葉は時にナイフになる。

使い古されたようなこの言葉は本当にその通りだなと思う。人の価値観を変えてしまうくらいには。
そもそも、人の容姿のことを本人に伝えるこの慣習はなんなんだ、と常日頃思っていた。人が皆同じ見た目で、同じ性格な訳ないのに、なんであなたの美の価値観に当てはめられなくてはいけないのか。あなたは「痩せていて美しい」と思っていても、本人は痩せていることが嫌だったり。「背が高くてモデルみたい」と思っていても、本人はそれを悩んでいるかもしれない。本人にしか分かり得ない悩みを、なんで他人から指摘されてえぐられなくてはならないのだろう。ただ厄介なのは、言った本人に悪気がないことがあることだ。
「そんなつもりで言っていなかった」「そんなことでそこまで気にしなくても」
そんなことを言う奴に大声で言ってやりたい。
「お前の価値観に私を当てはめるな」

人はみんな違う。好きなものも、嫌いなものも、美しいと思うものも、心の強さも、信じている神様も。それでいいと思う。違うのに無理に他人に押し付けるから、悲しみや争いが生まれる。あなたはその思想なんだね。あなたの信じる神様はそういう考え方なんだね。それでいいじゃないか。

あなたと違うことも、少数派も、どんな自分でも自分のままで居られる、優しい世界であってほしい。


P.S.タイトルは過激ですが、上に書いた上司やクラスの女子に地獄に落ちろとまでは思ってません。ただ、私は密かに心の中でつまらない人だなとは思っています。どうか私以外にこれ以上つまらない話をしないことを祈っています。さようなら。


#エッセイ #日記 #ダイエット #価値観 #摂食障害 #メンタルヘルス



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