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コテン現代

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古典文学のお気に入りの部分を、現代を舞台に小説にしてみました。
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【コテン現代】③徒然草 第60段「芋頭を食らう僧侶」

【コテン現代】③徒然草 第60段「芋頭を食らう僧侶」

今回は、吉田兼好の『徒然草』第60段に出てくるある僧侶を巡る太郎と吉男の会話をお楽しみください。

吉男「仁和寺の真乗院に盛親僧都という変わった坊さんがいたそうだ。この坊さん、常に芋頭という里芋の親芋ばかり食っていた。仏典の講義の間も鉢に山盛りにした芋頭を膝の前に置いて本を読みながら食ったり、病気のときは1週間2週間部屋に閉じこもり、少し良い芋頭を選んでことさら多く食べ、あらゆる病気を治した。大変

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【コテン現代】②土佐日記「楫取の歌」

【コテン現代】②土佐日記「楫取の歌」

土佐物語を、現代を舞台に小説にしてみました。エッセイ付きです。

「乗りますかい?」

 地方での駐在を終え、一家そろって東京へ帰ろうと、タクシーで空港に着いた途端、濃霧が視界から一切を奪い、歩いても歩いても何も見つからず、携帯電話の電波も届かぬ状況で、ふいに目の前に現れた海に浮かぶ手漕ぎの帆船の楫取の男の申し出を、貫行一行が断る理由はなかった。

「ああ……みんないいか?」

 歩きくたびれて判

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【コテン現代】①伊勢物語「行く蛍」

【コテン現代】①伊勢物語「行く蛍」

伊勢物語のお気に入りの部分を現代を舞台に小説にしてみました。

「母さん、ちょっと来てくれ。蛍が話があるらしい」

「あ、はい、今行きます」

 蛍の好きなりんごジュースを用意していた母の渚は、夫の良一に呼ばれて慌ただしくコップの蓋を閉め、ストローをさした。娘の蛍の部屋に入ると、ベッドに仰向けに寝ている蛍の両目が力なく母を追っている。渚は蛍の口元へ耳を近づけた。

「……い……たい」

「え?」

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