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こんな本を読みました【2022.9】

先月に引き続き、読書記録です。
今月は小説率高め。ではでは、どうぞー!


★『人間失格』太宰治

たぶんだけど、小学生の頃に読んだことがあると思うんだよね。でも、ちんぷんかんぷんで、心に留まることもなく、その後読み返すこともなく、数十年が過ぎてしまいました。

この本、10~20代の多感な頃に読みたかったなぁ。そうすれば、私も少しは救われたかもしれない。

恥の多い人生を送って来ました。
自分には、人間の生活というものが、見当つかないのです。

太宰治『人間失格』より


自分の弱さや、周囲の人々に対する恐怖心を根底に、人間の本性・本質を見事に描ききった作品。いやー、もう、圧倒されるね。

太宰の自叙伝的小説と言われているけれど、ここまで「恥」をさらけ出したうえに、文学として昇華させることは、なかなかできないと思う。あまりにも繊細で、想像を絶する苦しみの中にいた人にしか書けない。

まだまだ純粋さをかぶっていた、小学生の私のように、「太宰の言っていることがさっぱりわからない」という人は、ある意味、幸せな人なのかもしれないな。

父親の影響を色濃く受けていた描写が、ところどころに出てきます。なんなら、物語の最後の最後まで、『お父さんが悪いのですよ』という台詞が書かれている。

父親が亡くなって、苦悩の壺がからっぽになったように感じている主人公だけれど、おそらくはずーーーっと、自分が死ぬまで、父親の亡霊に悩まされ続けるんじゃないかな。

親が子に与える影響は、計り知れない。そのことを、親である存在の人は、私も含めて、忘れてはいけないように思います。


★『ヴィヨンの妻』太宰治

もう一冊、太宰作品。これも自叙伝的。弱くて、ずるくて、女にだらしなくて、生きることにも死ぬことにも怯えている、詩人の男が出てくるのだけど。

それと、対比しているかのように、人間と関わることに楽しさを覚え、たくましく生きようとする妻の様子が描かれています。

文字数が少ないぶん、『人間失格』ほどの深みはないけれど、こちらの作品も、人間の本質が描かれていると思います。

小説のいちばん最後の一文で書かれた台詞、『生きていさえすればいいのよ』

これを書いたときには、太宰自身もそう考えていたのかな?と思うと、なんだかせつない気がします。

38歳という若さで、玉川上水に入水。もし、いまの時代に太宰治が生きていたら、どんな作品を残したんだろう?とても残念です。


★『海峡の光』辻仁成

いま、月イチで、辻仁成さんのオンライン小説講座を受講しています。その中で、この本がよく話題に上るので、興味が湧いて、読んでみました。1997年、芥川賞受賞作。

この本を読んで、いちばん感じたことは、情景描写の美しさ。タイトルの通り、まさに光が、世界を照らしているようでした。

物語の主な舞台は、函館少年刑務所。刑務官である斉藤のもとに、小学生の頃、自分をいじめていた花井修が、受刑者としてやってくることで、過去の苦々しい記憶と対峙せざるを得なくなってしまいます。

過去と現在を行き来しつつ、話は進んで行くのだけど、花井の真意がいまひとつ掴みきれない。すべては斉藤の視点で語られるので、花井が起こす行動の理由は、すべて想像に過ぎず、それを読んでいる私たちも想像するしかないのです。

辻さんご本人の話によると、芥川賞受賞の際、選考委員の間で、絶賛する人と「まったくわからない」という人とで、意見が大きく分かれたらしいです。書き手にとっても、読み手にとっても、正解がないのが小説の魅力であり、難しさなのかなと、思ったりしました。



★『珈琲店タレーランの事件簿1 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を』岡崎琢磨

お初の作家さん。珈琲好きなので、タイトルにつられて。純文学、芥川賞と続いたので、ライトで、気楽に読めたのがよかった。

この本はシリーズ化されていて、いま8巻まで出てるのかな?それだけ、人気が高いということなんだと思います。

私がこの本を一言であらわすとしたら、『半径5kmのミステリー』かな?京都を舞台に、主人公・アオヤマの「身近」で起こった事件を、常連店のバリスタ・切間美星の聡明な頭脳によって、解決していくストーリー。

刑事も探偵も出てきません。前半は、本当に身近で起こった、些細なできごとの謎解き。「なぜ傘が取り違えられたのか」とか「少年が牛乳をほしがる理由」とか。後半は、美星の過去が絡んできて、少し物語が動きます。

正直、前半部分で脱落しかけたんですが、結果的に最後まで読んでよかったです。読み切ったあとのほうが、私の中での評価が上がったので。最後にね、ちょっとしたどんでん返しがあるんですよ。ま、それは読んでからのお楽しみ。

この小説は、アオヤマと美星の掛け合い、関係性が大きな魅力でもあるので、2巻3巻と話が進むほどに、おもしろくなっていくのかもしれません。でないと、8巻まで続かないよね。

機会があれば、続きを読んでみようと思います。



★『「自分メディア」はこう作る!』ちきりん

社会派ブロガーのちきりんさん。Twitterやvoicyでの発信を、たまに見たり聞いたりしているけれど、著書は読んだことなかったなーって。

この本は、ことばと広告さん記事の中で紹介されていたので、読んでみました。

ちきりんさんが、自身のブログをどのように成長させ、一つのメディアとして確立できたのか、その過程が書かれています。

はてなブックマークで注目を集め、Twitterの登場で一気に拡散されて、ちきりんさんのブログは大きなブレイクを果たしました。背景がまったく違うので、いまの時代に真似をしても、おそらく同じように成功しないとは思います。

とはいえ。何がきっかけで、どう転がるかなんて、誰にもわからない。周りに振り回されることなく、自分の書きたいことを書き続ける。結局のところ、コツコツと積み重ねていくしかないんだよなぁと、あらためて気づかされたのでした。

なるほどなーと思ったのは、分析と思考は違いますよ!という話。

たとえば、ある商品の売上が、前年比2割増になったとします。数値からはじき出された、前年比2割増という結果が「分析」。誰が見ても、誰が計算しても、同じです。しかし。

①商品売上が前年比2割増で、急激な伸びとなった
②商品売上が前年比2割増で、予想よりも伸びなかった

太字の部分は、人によって変わります。こんなに売れるなんて思っていなかったという人は、①になるだろうし、逆の場合は②になります。これが「思考」で、ちきりんさんが大事だとおっしゃっている部分です。

誰もが同じ結果となる分析に対して、思考は個々で異なる。読者は「あなただけの思考・考え・意見」が読みたいのであって、分析だけを書いた記事はつまらない。というわけです。確かに。そこが個性の出しどころなんだろうしね。

自分の意見をメディアで綴るということは、なかなかに勇気がいること。けれど、そこをぶち破らないと、本当の個性は出ないんやろなぁ。

そのために、私は良い読者でありたいとも考えています。自分と異なる意見だからといって、頭ごなしに否定をしたくない。ましてや、攻撃的なこともしたくない。

以前のnoteで、ロザンのyoutubeが好きだという話を書いたことがあるんですが、好きな理由の一つに、お互いが相手を否定しないから、というのがあります。

相手の話をいったん引き受けてから、自分の意見を伝えているんです。「なるほどなー。でも、僕はこう思う」って。

だから、すごく建設的なやり取りだし、見ているこちらもさまざまな意見が聞けて、楽しい。そういう関係が、書き手と読み手の間にも築けたらいいな。



今月の読書感想、ちょっと長くなってしまいました。最後まで読んでくださった方、貴重なお時間をありがとうございます!

来月はどんな本と出会えるかな?とっても楽しみです!
ではでは、またー!

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