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私の英国物語 Broadhurst Gardens NW6 (17) Christmas Lights

サマー・タイムが終わると急に日暮れも早くなったような気がする。
暗く寒い冬の中で楽しみをもたらせてくれるのが、“Christmas Festive Season”。
11月になるとショッピング街のショーウィンドウも華やかなクリスマス仕様のディスプレイになり、ロンドンの各エリアでクリスマス・ライツの点灯が行われる。

チャリティ・クリスマス・カードを買いに Piccadilly の St. James’s Church へ出かけた。
何年も前に旅行で訪れた時、Piccadilly を歩いていて、ふと赤い帽子のサンタ・クロースの立て看板が目に留まり、チャリティ・クリスマス・カードを購入した。
クリスマス・カードを購入することで、チャリティ活動にも貢献できるのは嬉しい。

地下鉄 Piccadilly Circus を出て Green Park 方向へ歩いて行くと赤い帽子のサンタ・クロースの立て看板が見えてくる。
教会の入り口近くにストールが並び、クリスマス・カードのサンプルも飾ってある。
まずは、ひととおりカードのデザインを見て歩き、それから気に入ったカードを決めていく。 
ユーモラスなものから英国の風景画、宗教画のクラシカルなものまで様々あって、どれにしようかと選択にも悩むところ。

クリスマス・カードを購入し、教会を出た頃には日もすっかり暮れていた。
Piccadilly から Regent Street へと出て、バスで帰ろう。
Regent Street の Christmas Lights が暗闇の中で鮮やかに輝いていた。
11月のこの時期に Christmas Lights を眺めていると思い出すことがある。

まだ日本で銀行勤めをしていた頃の事、有給休暇を利用してのその時のロンドン旅行は、午前は語学学校、午後は観光という旅程にした。
語学学校は留学雑誌の語学学校リストから選び、最寄りの地下鉄の駅から通うのに便利な場所にあるホテルを旅行のガイドブックから選んで、自分で手紙を書いて予約をした。
手間も時間もかかる時代だったが、ロンドンからの手紙を待っているのは楽しいものだった。

さて、その日、St. John's Wood School of English で英語のクラスを受けて、クラスメイトたちとウエストエンドの Soho にある中華街で夕食をとった後、Regent Street の美しい Christmas Lights を楽しんでいた。
しかし、ちょうどその頃、地下鉄 King's Cross St Pancras station ではとんでもない惨事が起こっていたのだ。
King's Cross St Pancras station は、地下鉄 Piccadilly Line の Piccadilly Circus から北へ向かった5つ目の駅である。

1987年11月18日午後7時25分頃、ロンドン地下鉄の主要なインターチェンジである King's Cross St Pancras station で火災が発生した。
King's Cross St Pancras station は、Circle Line、Hammersmith & City Line、Metropolitan Line の表層地下駅と Northern Line、Piccadilly Line、Victoria Line の深層地下駅で構成されており、British Rail の King's Cross Station と St Pancras station に直結している。
火災は、Piccadilly Line の上りエスカレーター・シャフトで起こり、深層地下駅の上部入り口とチケット・ホールが焼き尽くされた。
消防車30台、150人の消防士による消火活動が行われたが、この火災で消防士1人を含む31人が死亡し、60人を越える人々が重度の火傷と煙の吸入による重傷を負うという大惨事となった。

火災が起こったエスカレーターは、第二次世界大戦の直前に建設されたものだった。エスカレーターのステップは木製で、容易に燃えやすい素材であった。
エスカレーターの金属側面の損傷や著しい損傷の痕跡もなかったため、放火や、当時活動していた IRA暫定派の爆弾テロによるものではないとされたが、火災の激しさは解釈しがたく、結果的に法医学検査は、当時の科学界では全く知られない流量現象が発生したことによるものとした。 
後の公式調査で、西へ向かう電車が出発すると同時に駅に到着する東へ向かう電車に起因した通風が駅構内と上に向かうエスカレーターを通って12 mph の風をつくり、火炎噴射機のように火災の延焼速度を速めたこと、the Trench Effect が示された。 
火災はエスカレーターの下部で発生し、瞬く間に上に広がって延焼し、炎と濃い煙がチケット・ホールに充満した。犠牲者は、濃い煙と激しい熱に阻まれ、チケット・ホールから逃げることができなかった。
損傷を受けていないエスカレーターを調べているうちに、上りエスカレーターの下部18箇所で炭化木材が発見された。それは、類似した火災が発生したが、燃え広がることなくそれ自体が燃えついたことを示す。
これらの燃焼は全て右側で起きており、これは、ステップに立っている乗客が煙草に火をつけた可能性が最も高いと考えられた。 
(英国では、エスカレーターは “Stand on the right” が慣習。)

1985年に起こった地下鉄 Oxford Circus station での火災を受けて、同年2月、ロンドン地下鉄の地下区域では喫煙が禁止されたが、これが日常的に無視されていることも指摘された。さらには、エスカレーターが建設された1940年代以来、エスカレーター下部の軌道は清掃されておらず、長年にわたって溜まった紙くずや糸くずが油にまみれて層になっていたことも指摘された。

この地下鉄火災大惨事の結果、ロンドン地下鉄ではエスカレーターを含む全ての地下鉄駅構内での喫煙は全面的に禁止された。
さらに、第二次世界大戦時に建設された木製のエスカレーターのステップは、全ての駅で金属製に取り替えられた。 
犠牲者への追悼礼拝が St. Pancras Church で行われ、記念碑が Diana, Princess of Wales によって除幕された。
もう一つの記念碑は、King's Cross St Pancras station に設置されている。

今年もクリスマス・ライツが、ロンドンの街に美しく輝いている。

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