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"泥臭く、その時々の最適解を見つけて" カリナリーディレクター 中東篤志

京都チームのメンターシェフメンバーとして2期生のサポートをするのが、カリナリーディレクターであり、カリナリーハブ「そ/s/KAWAHIGASHI」の店主・中東篤志さん。今回のプログラムに対する想いを聞いてみました。

京都市出身。父である「京都 草喰なかひがし」店主・中東久雄のもとで幼少期より料理を学ぶ。ニューヨークの星付き精進料理店で副料理長兼GMを務めた後、日本食文化を国内外で発信するOneRiceOneSoup株式会社を設立。カリナリーディレクターとしてイベント企画や飲食店の運営、監修、食に関する地域プロデュースなどを手がけている。著書に『Percolate-時を食し伝え残す-』がある。

有限の食材をこの先も守っていくために

ー:中東さんは、普段から努めて海や山など生産現場に通われていると聞いています。

そうですね。僕は料理ももちろんするんですが、料理人ではなく「カリナリーディレクター」。料理・料理人・サービスにお店のしつらえなど、飲食にまつわるすべてのことを包括的にディレクションする仕事をしています。

だから現場に行くのも、毎日調理場に立つ料理人とは違い、仕事の一部としてあえて時間を使っていることのひとつなんです。

日本料理店を営む僕の父は、ずっと昔から、毎日生産現場に入り、自分で食材を採取・調達してきた料理人です。そして父もまた、実家の料理旅館でそのあり方を学んできた。僕がカリナリーディレクターという仕事をしているのは、代々続く料理人の一家に生まれて、料理や料理に対する姿勢を幼い頃から学んできたというのも大きいですね。

ー:そんな中東さんだから持っている意識や課題はありますか?

食材って有限の素材。地球環境の変化で食材がとれなくなっているだけじゃなくて、超高齢化社会に突入しようとしている昨今、水産業・畜産業・農業の現場も担い手が不足しています。「THE BLUE CAMP」で課題にしている海も含め、すべての食材をどう守っていくか考えなければいけないんですよね。食材がないと僕らの仕事は成り立たない。

おいしい食事は人を幸せにしますよね。だからこそ飲食に携わる人たちの価値って高いと思っていて、有限である食材、特に水産物は危機的な状態なわけで、そんな食材の今をしっかり理解しておく必要がある。そうして身近で学んだものを軸に、料理人(飲食店)・流通事業者・生産者それぞれの立場をできる限りフラットに見て、カリナリーディレクターとして各々にとってベストなアイデア提案や問いの投げかけをしていける存在でありたいと思っています。

現場を知ればオッケーではない、大切なのはそこから何を持ち帰るのか

ー:参加者のみなさんは料理人とともに実際に海や漁港に行きますが、どんなことが学べると思いますか。

うーん、僕からすると生産地に行くことって当然のことで特別でもなんともないんですけど、じつは僕は、料理人が現場に行かなくてもいい状態が1番いいと思ってるんですよね。

もし現場にいかなくても現場を知れるなら、料理人はもっと自分の料理やお店づくりに専念できるようになる。じゃあ、どうして現場に行く料理人が増えたのかというと、結局現場でしかわからないことが多いからなんですよね。それは正直言って、生産の現場と料理人をつなぐ、流通の人たちから情報が伝わってこないから。海がどんな状況にあるのか料理人に伝えないまま、モノだけを淡々と運んできたことの弊害なんですよね。

料理人が現場に行く行動を通して「流通、もっとちゃんとしてや」っていう警鐘になると僕は思ってます。

また、ここ10年ほどで、生産者のところに料理人が行くことがメジャーになりつつありますが、産地に行くから何か変わるわけじゃないんです。現場に行くことが目的になってはいけないですね。そこで何を知って、知ったことをどう自分の料理やお店に活かしていくか行動に移すことが重要です。

どういうことが学べるのかは心の持ちようかなと思うんで、学ぶ気がないなら何も学べない。見聞きした現場で何を持って帰ってくるかを意識してプログラムに加わってもらえたらなと。

食について考えて行動していく深堀りの伴走者になりたい

ー:「THE BLUE CAMP」では、若い参加者にとってどういう存在でありたいですか。

僕が普段から次世代を担う若い人たちと何かする時に大事にしているのは、「分析と行動の繰り返し」です。

「こういう理由でこういうことをしたいんですよね」っていうのを隣でじっくり話を聞いたうえで、なぜそう思ったのかを僕が深堀りする。そういうキャッチボールを重ねながら、参加者自身のなかに答えを見つけていく……そんな作業の伴走ができたらいいなと思います。

去年の2023年の「THE BLUE CAMP」でも、「cenci」の坂本さんと「MOTOÏ」の前田さんが参加されていたように、それぞれポジションが違うシェフがいるというのはいいと思います。

今年は「日本料理 研野」の研野くんと僕ですよね。カリナリーディレクターとしての経験もあるので、僕はどちらかというとメンター寄りなのかなとは思っています。全体を俯瞰で見るようにして、「食」の捉え方や考え方、食材やお客さんへの向き合い方を自分のなかでどう形成していくのか、それをサービスとしてどう表現するか。そうしたことを、伴走役としてサポートできたらいいなと思っています。

泥臭く、いまの最適解を自分のなかで見つけて

ー:今回テーマが「和食」ということで、面白そうであると同時に難しいかも?と思ったのですが……。

和食って、なんだか難しいイメージがついていますよね。変に高尚な扱いをされるために、かえって和食を志向する料理人が減ってしまったところもあると思っています。でも、難しく考える必要は全くありません。日本人としていま日々食べている料理、家庭でつくられる料理、それは和食です。

業界が作り出しているような小難しいイメージにとらわれず、自由な感覚でまず飛び込んできてもらいたいですね。

ー:参加するみなさんに、メッセージをお願いします。

いろんな問題を解決していくために、いま世の中ではいろんな取り組みが日々おこなわれていますが、たまに「答え探しになってはいけない」と思うんですよね。

「Chefs for the Blue」の勉強会に出ていても、絶対的な答えやゴールがすぐ近くにあるはずだと思ってるんじゃないかな?と感じる発言に出会うこともある。でも海の問題って、答えはひとつじゃないし僕らが生きている時代に解決できないことかもしれない。なんなら、当時はよかれと思っていたことが、未来の時代ではよくない行動になっているなんてことすらある。

僕たちが生きている瞬間なんて、この地球の何十億の歴史のなかではほんの一瞬。いま起こす行動が必ず、今後の地球のためになるかなんて保証はないんです。でも、いまこの時代に生きている人間の責任というか、こういう時代にたまたま生きているからこそ「いまのベストはこれです」っていうのを積み重ねていくしかないんじゃないかなって。

料理人の例でいうと、いまの若い世代は、僕らの時代よりも圧倒的に賢い子が多いです。順序立てて考えられるというか。でもその一方で、わからないなりにぶつかっていく泥臭さがないなとも思う。フライヤーが用意されてたらきれいに揚げ物ができるけど、薪の火とフライパン渡されたら、途端にどうしたらいいのかわからなくなるみたいな。

火をつけるのに手間取ったり、具材を焦がしたりしながらでもいい。世の中にある課題って、そうそう答えってすぐに出るものじゃないので。なんなら「THE BLUE CAMP」の開催期間のあいだにゴールに到達できない場合もあるでしょうけど、泥臭くやってみるを繰り返しながら、その時、その時の自分の最適解を見つけていってほしいと思います。


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