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【みみ #14】先天性両耳難聴の起業家

牧野 友香子さん


 「先天性で、現在は両耳ともスケールアウト」。スケールアウトとは、難聴の程度が重く、使用した音を出す機械(オージーメーター)で出せる一番大きな検査音も聞こえなかった場合を指す。

 牧野さんの親御さんは、1歳ぐらいから“反応がなくておかしい”と気になっておられたそうだが、耳鼻科に行けば先生から“あっち持って行って”とか“おままごとしよっか”と言われると実際にできたために「発見が遅れた。たぶんその頃から少し口を読んでいたのかもしれない(笑)」。お母様が“絶対におかしい”と主張した末に「聴力検査で“聞こえない”とわかったのは2歳で、発見が遅れた」。


 牧野さんの場合は「わたしの場合は聴覚活用がとにかくできなくて。その結果読唇しかなく、逆に研ぎ澄まされたかも」と話された。

 筆者が初めて牧野さんにお会いした際、手話ができない旨を伝えると、「私もできませんから大丈夫ですよ」と笑っておっしゃられたことを今でも覚えている。当時は難聴者=手話と思い込んでおり、驚いた。その後、彼女の読唇のみでのコミュニケーションのスムーズさにさらに驚かされた。


 そうした背景があってか、牧野さんは幼稚園で「後ろから言われても聞こえなかったりと聞こえないことによる問題は多々あれど、大まかな人間関係はうまくいっていた」ため、その友人たちがそのまま通う地元の小学校・中学校に通った。

 しかし、高校で状況は一変する。行き先は、初めて受験した進学校。合格しても学校側からは「難聴には配慮できない。それでもよかったら入学していいですよ」と言われる。「“わかりました”と言うしかなかった」が、進学校故に3年間の勉強を2年で終わらせる「聴者でもついていくのが大変」な上に、“約束通り”「授業の配慮はなく、一方的に喋られる授業についていけず、落ちこぼれた」。


 牧野さんは大学進学後、SONYの人事部で7年間勤務。その後、難聴の子どもはもちろん、その親の悩みにも寄り添うため『デフサポ』を立ち上げる。立ち上げた理由は、必ずしも自身が難聴者だったことだけではない。牧野さんのお子さんが難病を患って生まれてきたからだった。難聴の当事者として、地域の学校に通った身として、企業に就職して働いた身として、そして障害者の親として、すべての“経験”が誰かのためになればとの想いだった。

 デフサポは、乳幼児期から“ことばの力”を育むサポートに力を入れている。これも、牧野さん自身が小さい頃から「語彙や文章だけではなく、思考言語としてのことばの力を身につけることで、社会生活で暮らしやすくなった」“経験”があるからだ。

 こうした取組は、「あえて株式会社としてビジネスでやっている」。ボランティアでは立ち上げ当事者のエネルギーがなくなると終わってしまうし、障害者関連では補助金もあるが、補助金頼みのビジネスモデルよりも、サービスとして継続するためにあえて会社化したとのことだ。

 最初は自身の経験を発信するブログから始まり、実際にターゲットとなる難聴児の親御さんや、企業向けにヒアリングをして、見合った価値を提供しながら、取り組みを広げていった。いま株式会社『デフサポ』は7期目を迎えている。


 牧野さんは現在、拠点を米国に移している。日常言語は当然、英語だ。「自分に向かっては簡単な英語で話してくれても、ネイティブ同士の会話は内容が取れない」。話が込み入ってくると音声文字認識アプリ等を使うが、「本当はもっと顔を見て直接話したい」。牧野さんは、おしゃれで、掛けていて負担のないスマートグラスにこうした機能が実装される日を心待ちにしている。

 また、米国は電話文化だ。「日本みたいにメールで送ったら返してくれるわけじゃないから、結局電話しないといけない」。きこえない人ときこえる人を通訳オペレータが手話または文字と音声を通訳することにより電話で即時双方向につながることができる『電話リレーサービス』の元祖は米国だが、「色々不便な時もあって使っていない」。第3話で当事者の方から出た“携帯電話でスピーカーモードを使うように、置いた携帯電話のディスプレイにそのまま相手の発言が文字起こしされる機能”というアイデアをお話しすると「それもありですね」とニヤッとされた。


 牧野さん曰く「聴覚障害のある当事者が会社を設立した例はあまり聞かない」そうだ。

「一つのロールモデルとして“会社経営者”という姿も見せられたらな」と語る。

 上記のようなアイデアを、牧野さんのように当事者自身が具現化していく、そんな新しい取り組みが増えてほしい。



▷ デフサポ


▷ 電話リレーサービス



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