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適度な「遊び」がイノベーションを生む


とある会社では、勤務時間の15%を「遊び」にあてているという。この時間帯は個人の裁量で何をやってもいいというルールです。「規則」のなかに「遊び」を持たせる余地を戦略的に入れながら偶然のもたらす大きな飛躍を追求しています。コントロールする領域に意図的に遊びを設けて、偶然が入り込む余地を設けているということです。

優秀な働きアリ群と、サボりがちなアリ群を比較した実験では、後者の方が長期的にはより多くのエサを巣に持ち帰ることが示唆されました。エサを拾って、まっすぐ巣に持ち帰る真面目なアリは、その真面目さゆえに「イノベーション」が起きづらい。一方、あっちにフラフラ、こっちにフラフラ、気の赴くままにエサを運んでいると、予期せぬ巨大なエサに遭遇することがあります。

厳密にいうと、後者は失敗も多いはずで、外敵に捕獲される可能性も高い。ですがその「リスク」を顧みずに、多くのアリが蜘蛛の子を散らすように「チャレンジ」すると、大きなイノベーションが起きやすいという成り行きです。すでに「ビジネス」に置き換えて表現していますが、ビジネスにおいてもリスクテイクと失敗の積み重ねがイノベーションをもたらして大きな成果を生み出します。

「何があるか分からないけど、何かある気がする」 大きな方向性は失わず、ですが予定調和で規則正しく行動するのではなく、直観と予感に基づいて仕込みをする。「計画された偶然」理論は、スタンフォード大学のクランボルツ教授が提唱したものですが、人生やキャリアは偶然の積み重ねで形成されていると主張しました。

振り返って皆さんの人生はどうでしたでしょうか?計画をして、計画どおり事が運ぶなんてこと、私に限って言うとほとんどなかったような気がします。期間を1年や半年に区切って考えてみても、予期せぬあれやこれやがたくさん。2021年もすでに5か月が過ぎようとしていますが、予測をコントロールできたためしが一度もありません。

社会はより「不安定」となり「不確実」になっています。過去に蓄積した経験に依存し続けようとする人は早急に人材価値を減損させる一方で、新しい環境から柔軟に学び続ける人が価値を生み出すことになります。経験の無価値化。どこかの時点での環境に高度に最適化してしまえば、それは次の瞬間には時代遅れなものになります。

変化していく環境に対して、どれだけしなやかに適合できるかという「柔軟性の度合い」 予測の価値がどんどん減損していく世の中では、「とりあえず試し、結果を見ながら微修正をくり返す」ことが大切です。そして既述のとおり、大きな方向性は失わないこと。偶然を成功に変えるためには、多くの偶然に対する選択に「一貫性」をもたせることも重要です。

ビジネスだったら、キャリアだったら、人生においても同様。一貫性の拠りどころは「誰に」「どんな貢献をするか」 自分自身の存在価値を創り出すためには、偶然に対して全力で対処する経験の積み重ねで、よりよいキャリアが形成されるわけです。

「遊び」は「談笑」とかでも十分。一見すると無為に思える会話が、イノベーションのタネに変わる可能性は排除すべきではありません。

無意識思考効果とは、自分でも気づかないうちに脳がいろいろと考えごとをしてくれているというもので、難しい数学の問題に何時間も格闘したあと、一晩寝てみるとウソみたいに解けてしまった経験を持つ方は、けっこうな割合でいらっしゃるんじゃないでしょうか。無関係なスマホゲームをすることで無意識的思考効果が働き、意識が考えるよりも精度の高いアイデアが生まれることもあります。あえて考えるのをやめて無意識にゆだねると、普通では出てこないような情報が浮かんできます。既存の情報にあらたな判断材料が加わり、創造的なアイデアにたどり着くというもの。

「遊び」により、いったん問題が無意識に棚上げされ、思いもよらない情報が浮かびやすくなります。ぜひみなさんも、真正面から真面目に勉強したり仕事をしたりするのではなく、積極的に適度な「遊び」を取り入れ、寄り道を楽しみながら成果の芽を探してみませんか?

久保大輔




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