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仲正昌樹『<<日本の思想>>講義』についてのメモ③―丸山眞男の発言の背景

 仲正昌樹『<<日本の思想>>講義』(作品社、2012年)について、以下の記事で紹介したように、この本のおもしろいところのひとつに丸山眞男『日本の思想』の背景にあるヨーロッパ思想を解説しているところにある。

たとえば、仲正は『日本の思想』の以下の文章を引用している。

(前略)権威と規範、主体的決断と非人格的「伝統」の拘束が未分化に結合し、二者択一を問われないところにまさに「家」・同族団あるいは「郷党社会」(伊藤博文)とリンクした天皇制イデオロギーの「包容性」と「無限定性」の秘密があった。(後略)

この部分は特に解説されていないが、仲正によれば、ここで登場する「権威」と「規範」はドイツの法哲学者・カール・シュミットの発想から来ているという。「権威」は何らかの抗いがたい宗教的あるいは政治的「権威」を持った人格の主体的決断によって法秩序が創出されるという考え方、「規範」は正義、公正、信義などの規範を中心に法秩序が構成されるという考え方である。

 仲正によれば、全体主義には独裁者の主体的な決断の契機があるが、近代日本の国体にはこの契機がなく、「権威」を持っているのは天皇個人でなく皇室の伝統であるという。主体的な決断の契機があるかどうかがヨーロッパと近代日本の大きな違いであるようだ。

 このように『日本の思想』には文章で言及されていないとしても、ヨーロッパの思想家の言説が丸山によって想定されている部分も多い。『日本の思想』は私が考えていた以上にハイコンテクストな文章である。

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