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君とバスケと恋と vol.19「卒業」完結

卒業式まであと一週間。

残念ながら、明広の受験は失敗した。

実技の方がやはり弱かったようだ。

バレンタインから約一月経つ。

あれから明広には会えていない。

だから、卒業式はかなり楽しみだった。

いや、楽しみでもあるし、別れの寂しさもあった。

受験結果がわかった時の明広の落ち込みはひどかった。

やっと最近元気が出てきたかなというところで卒業式だ。

寮の荷物を片付けたりするために、明広は寮に今日帰ってくる。

私はまた会えることが楽しみで、そのあとのことなんて考えてもいなかった。

学校が終わり、寮へ行く。

今日はバイトもなく、思う存分明広を独占できる、それが楽しみで仕方なかった。

明広が寮を出てくる。

今日は街ブラでもしようという話だ。

寮を出てくる明広の顔が暗い。

まだ受験を引きずっているのかなと思い、出来るだけ気にしないようにする。

自転車に久しぶりに二人でまたがって、街へ行く。

いつものゲーセンに行き、プリクラを撮る。

それでも明広の表情は暗い。

カフェに立ち寄る。

このカフェは、明広がいない間、愛と私で発見したところだ。

カフェに行っても浮かない顔をしている明広に、とうとう私は聞いた。

『ねぇ、浮かない顔をしてるけど、どうしたの?』

『実は…。』

と明広は言いかけてやめる。

『なんでもない』

『何よ、そこまで言ったら話してよ。私はそのための彼女なんだから。』

この時、明広が彼女と言う言葉に反応したことを見逃さなかった。

『実は、別れてほしい』

え?

私は一瞬何を言われたのかがわからなかった。

『え…?なに…?』

『りさ、俺と別れてほしい』

『なになに、急にー。好きな人でもできちゃった?』

答えない明広。

『なんで?なんで?』

答えない。

『なんで?どうして?昨日までは普通に愛してるよってメールくれてたじゃない?』

だんだん泣きそうになる私。

『実は、美大のレッスンを受けるために、隣の県へ行くことにした』

と明広は言う。

『なんで、そんなことくらい、別れないよ』

涙がポロポロと溢れ出る。

『いや、こうやってお前を泣かせることがあるかもしれない。』

『私は泣かないよ…!』

と泣きながら答える私。

『現にこうして、泣いてるだろ?』

『だって、こんな話、ひどいよ!』

『俺は画家を目指したい。それには、まず大学に入るだけでも何浪するかわからない。何年お前を待たせるかわからないんだよ。だから、ごめん』

明広が何を言っているのか最後の方はよくわからなかった。

明広がコーヒー代を置いて立ち去る。

私は泣いていて、立ち去る明広を追うことができなかった。

一通り泣いたら、なんだか気分がすっきりした。

私はカフェをあとにして、帰るために駅へ向かった。

今日明広と話をしても、話にならないだろうと思ったからだ。

家に帰ってじっくり考えてみた。

何年経ってもいいじゃないか、私が待てるだけ待とう。

それが明広の重荷になるようだったら、別れよう。

『もしもし?明広?』

『何?』

『私、待つよ。何年でも!でも、それが明広の重荷になるようなら、別れる。それならいいでしょう?』

『待つよって、本気で言っているのか?』

『うん』

『お前はバカだな…。』

『バカじゃないよ、きちんと考えたもん。』

それから二人は笑いあった。

卒業式。

全校生徒揃った晴れの舞台。

明広の名前を呼ばれる。

『はい』

凜とした声が響き渡る。

壇上に上がる明広。

しっかりと目に焼き付けておこう。

式が終わり、それぞれが先輩たちと写真を撮る。

私たちも撮ってもらう。

そして、制服の第二ボタンと、自転車の鍵をもらった。

『今度からお前が使ってやってくれ。』

私はしかと鍵を受け取った。

――――それから十年が過ぎた。

今、明広は私の隣で絵を描いている。

私は明広に美味しいコーヒーをいれる。

首に下げたネックレスが音を立てる。

私たちが積み上げてきた時間の証拠だ。

私の左手の薬指にはきれいに光る指輪があった。

あの時、間違えて告白したの、あれは間違いじゃなかったんだね。

一緒にいられてよかった。

幸せだよ。




2013/07/10 02:16 完結。
完結のさせかたもまだわからず、手探りで書いているのがよくわかりますね。

読んでくださってありがとうございました。

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