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太陽のモデルニスモ −バルセロナの建築たち−

バルセロナはずっと憧れの街だった。太陽と地中海と、なんといってもガウディ建築がある。

マドリッドからバスで7時間くらいだったろうか。毎日が晴天、6月の降り注ぐ日差しは一向に陰ることがない。日本のように湿度が無くてずっと快適だった。

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バルセロナは首都マドリッドとは打って変わって清潔な街だった。家の軒先やベランダまで洒落ている、身だしなみというかね。こういう都市間の変化は旅を通じてしか味わえないし、バスや鉄道といった線の移動でこそ深く実感できるもの。同じ国でも、文化も風情も人のくらしもみんな違うんだ。

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早朝のサグラダ・ファミリア

朝一番で見たかった、この街にたどり着いたからには。前日の夜遅くにバルセロナのバスターミナルに着いて、市街地にあるホステルに泊まった。ヨーロッパの夜は長い、夏の間はみんな遅くまで外で飲んで楽しんでいた。だから朝はとても静かだった。

マップを頼りに目当ての場所へ近づいていくと、ビルや木々の間に少しずつ頭を覗かせる、この街でひと際高い教会、サグラダ・ファミリアが見えてきた。ああついにここに来れたんだなぁ。この日もよく晴れていた。

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受難のファサード

この教会には2つの正面(ファサード)がある。古くから作られていた生誕のファサードと新しく作られた受難のファサードだ。わたしのホステルから歩くと受難のファサードが先に見えた。こちら側はとても新しそうで、100年以上前から建設中だなんて信じられない。

太陽の陰になっていてひんやりと涼しかった、季節は夏なのに。受難という言葉の通り、苦悩が表れたデザインだ。柱はむき出しになった骨と、こわばった筋肉のようにみえる。

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生誕のファサード

こちら側の方がおなじみのサグラダ・ファミリアの姿だろう。入場する際は事前予約制になっていて、どちらのファサードから入場するか選ぶことができる。わたしは生誕のファサードを選んだ。実際にこちらから入る人の方が多いように感じた。

朝一の時間指定で列の前の方に並ぶと周りにいたのはみんな日本人だった。なんとも、さすがというべきか。街ではそんなに見かけなかったはずの日本人がどこから湧いてきた?と言わんばかりに集まっていた。入場の際、チケット替わりにネットの予約画面をキャプチャしたプリントが必要になるのだが、欧米人はモノクロプリントして適当に折ってポケットにしまっていたのに対し、律儀にカラーコピーして折らずにクリアファイルに入れて手で持っている日本人観光客たち、この圧倒的差よ。これがお国柄というやつ。旅はどんなところに発見や刺激が待っているかわからないから面白い。

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いよいよ中へ。ステンドグラスから差し込む朝日、長い時間をかけてここまで来て良かった、そう思わせてくれる。ほんとうにきれいだ。

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こちらは先ほどと反対側の窓、朝日の逆だから西向きだ。ここから差し込む西日もさぞノスタルジックな光景だろう。方位でステンドグラスの色を変えているのはそうした工夫からだろうか、日の傾きで無数の鮮やかさが生まれる教会、贅沢な時間だった。

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天井を見上げる。木のような姿をした柱の数々。天に向かって幹が枝分かれしている。こうしていると深い森の中に来たみたいだ。サグラダ・ファミリアにはこのほかにも自然をモチーフにした装飾が多い。動物や植物のデザインを建物のいたるところで見ることができる、歩きながら発見する楽しみもあるだろう、ちょっとした自然散策のように。

こうした自然由来のデザインは産業革命後のヨーロッパで流行してアール・ヌーヴォーという名前で呼ばれた。タイトルで使ったモデルニスモというのは、バルセロナがあるカタルーニャ地方での呼び名のこと。英語のモダニズムが語源になっている。

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塔の上にのぼる事もできる。窓からは教会の外観が間近で見られるし、バルセロナの街並みを一望できて、忘れられないロケーションになるだろう。街の向こうに広がるのは地中海だろうか。尖った塔のてっぺんにあるのはオレンジのような装飾、あふれる日差しを浴びて豊かに実っているフルーツみたいだ。

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現場の作業者だろうか。そうか、ここはまさに建設現場なんだ。わたしたちの入場料がそのまま工費になって完成に近づいていく、そんなリアルタイムな建築の姿を垣間見た瞬間。

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地下にはサグラダ・ファミリアと建築家ガウディの歴史が分かる資料室があった。この絵は展示されていた完成予想図。自分で撮った写真と見比べるとまだまだ時間がかかりそうだ。一番高いイエスの塔には灯台がついている。いつかこの光が遥か遠くの海まで届くのだろうか、完成が待ち遠しい。


こうして冷めやらぬ感動と共に教会を出た。生誕のファサードの写真はこの後に撮ったもので、昼頃になると空の青さがずいぶん変わっていることに気が付く。近くの公園でしばらく余韻に浸った。犬を散歩させる地元の人たちと大勢の観光客、この辺りは1年中人だかりが絶えないのだろう。

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余談、この近くにある日本人が経営するラーメン屋HIROはぜひおすすめしたい。ヨーロッパまできて日本食かと思うかもしれないけど、うまいものはうまい。食べた方が良い。

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餃子とバルセロナの地元ビール、エストレージャ。なかなか良い組み合わせだった気がする。店内にはドラゴンボールのイラストがあったな。カウンターで隣に座っていた女性と少し会話をしたんだけど、サグラダファミリアの中でカイロプラクティックの仕事をしてると言っていた。え、さっき行ったばかりのあの世界遺産で??たくさんの人が働いている現場だし、そういう仕事もあるのか、なんだかすごく唐突でびっくり。

サグラダ・ファミリアはまさに今生きている建築そのものだった。


#旅 #建築 #アート #歴史 #ヨーロッパ #スペイン #バルセロナ


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