名作『スイミー』の読み方

みなさん、こんにちは。
部屋の整理中に見つけた懐かしの絵本について、今日は投稿したいと思います。

『スイミー ちいさな かしこい さかなの はなし』
作者 レオ=レオニ

多くの方が小学生の頃に読んだことがあるのではないでしょうか。

スイミーの物語は赤い魚の群れの中で、唯一黒い魚が、赤い魚の群れがマグロに飲み込まれたことをきっかけに、一人で旅にでます。海ではいろいろな魅力的なものに出会ったスイミーは、マグロを恐れ、岩陰に潜む自分がかつていたような赤い魚の群れに出会います。スイミーは、彼らを大きな魚に見立て、自分がその目となってマグロを追い出し、そして最後は彼らと自由に泳ぎまわるお話です。

最後のシーンが、大きな魚に見立てて、群れをマグロから守ることに成功したことから、ビジネスマンの視点で読むと、『強いリーダーシップによって集団はまとまる』というようなリーダーシップ論的な捉え方をされることが多いのですが、私はそれよりもそのシーンに行き着くまでの過程が大事なのではないかと考えています。

途中、スイミーは一人で旅をしますが、その旅の中で様々な海の魅力に出会います。
これまで赤い魚の群れにいては、けして観ることができなかった世界に触れることができました。

そして、スイミーは自分がかつていたような赤い魚の群れに出会います。
この赤い魚の群れは岩陰に隠れて、マグロに怯えながら過ごしていました。
もし、彼が昔の赤い魚の群れにいた頃の思考なら彼らの考えに共鳴し、彼らと共に岩陰に潜んでいたかもしれません。
しかし、彼は旅を通して、海には魅力的なものがたくさんあることを知っていました。
そして、彼はそれを伝え、赤い魚の群れが彼らの『海を自由に泳ぎ回りたい』という意思をもつきっかけを作りました。

これは自分がかつていた集団と似た存在であることから、彼らが『海には自分たちを食べるマグロがいて、自由に泳ぎ回ることは危ないこと』と考えることを理解できる(インサイダーの視点)と同時に、これまでの旅の中から『彼らは海の魅力的な部分に気がついていない』ということを理解している(アウトサイダーの視点) 状態にあります。

これは、スイミーを人に替えても同じことが言えるのではないでしょうか。

人は、自分が所属している集団の思考に影響されやすく、いつの間にか自らの思考も集団の思考をベースとしたものになってしまいます。

例えば、数値重視の営業部隊に所属していれば、お客様の満足度よりも、とにかく売ることを優先してしまいますし、保守的な組織に所属していれば、新しいことへの挑戦について否定的に捉えるようになってしまいます。

人はだれしも、集団の中に思考の枠を閉ざしがちなのです。

スイミーのように旅をしてみたり、まったく別の組織に所属してみたりすることで、集団の中の人たちの考えが理解できるインサイダーの視点に加えて、その集団の思考の枠を超え、客観的に見ることができるアウトサイダーの視点の両方を手にすることができる。それによって、集団の立ち位置、将来像が見えていくるのではないでしょうか。

スイミーの物語は最後、あれだけ岩の影に隠れていた赤い魚の群れが大きな魚に擬態することで堂々と海を泳ぐシーンで終わります。スイミーは、インサイダーとアウトサイダーの両方の視点を身につけたことで、集団に対して新しい考えを提供し、それによって、集団の思考を変化させる(=イノベーションをおこす)ということに繋がったのではないでしょうか。

最後に、
以上はあくまで私がスイミーを読んでの感想です。
そのため、作者の方の思いとは必ずしも一致しないと思います。

しかしながら、絵本というのは作者が伝えたい部分に多めのページ数を割くそうです。
スイミーの場合、スイミーが旅をしているシーンは、大きな魚に見立てるシーンよりもページ数が割かれ、そしてスイミーが見たものを細かに表現しています。そう考えると、もしかしたら作者は『旅をすること』のシーンで読者に何かを伝えたかったのかもしれません。
今一度、この機会にスイミーを読み返してみてはいかがでしょうか。


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