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ハムストリングス肉離れ:早期復帰へのリハビリプロトコル part 1

今回はハムストリングス肉離れに関する文献を読んでいきたいと思います!
とても興味ある分野なので今回はpart1として2013年に発表されたハムストリングス肉離れのプロトコルに関する論文を読んでいきます。

今回読んだ文献はざっくり説明するとこんな感じ。
「ハムストリングスの肉離れをした選手に対して、2つの異なるリハビリプロトコルを実施して復帰までの日数にどの程度違いが見られるかを研究しました」

75人の選手が研究に参加したようでL-protocolに37人、C-protocolに38人が振り分けられました。

それぞれのプロトコルに振り分けられた人の特徴
Table1 

MRI で確認されたハムストリング損傷を細かく分類するとこんな感じでした。

【損傷型での分類】
75 件のうち…
54 件 (72%) がスプリント型
21 件 (28%) がストレッチ型の損傷でした。

【損傷部位】
75 人の選手のうち
52 人 (69%) では、一次損傷は大腿二頭筋長頭 (BFlh) にあり、それらの 52 人のうち 25 人 (48%) は、半腱様筋に二次損傷があった
16 人 (21%) では、一次損傷は半膜様筋 (SM) にあり、その 16 人のうち 7 人 (44%) には二次損傷がありました。
スプリント型の一次損傷の大部分 (94%) は BFlh (大腿二頭筋長頭)に位置していましたが、ストレッチ型損傷では SM(半膜様筋) の損傷が多かった (76%) 

実施された2つのプロトコルの違い

Askling C Protocol
股関節の伸展や膝関節の屈曲に重点を置いた従来のプロトコル

Askling L Protocol
ハムストリングスに早期から伸張性の負荷(エキセントリック)をかけながら進めていくプロトコル

どちらのリハビリテーションプロトコルも3つの異なるエクササイズで構成されていた。
Ex.1:柔軟性を高めることを目的に実施
Ex.2:筋力と体幹/骨盤の安定化を目的とした複合エクササイズ
Ex.3:より特定の筋にフォーカスした筋力トレーニング

では実際にC ProtocolとL Protocolでどのようなエクササイズが処方されたのか見ていきましょう👀

Askling C Protocol  3種目

Figure4 C-protocol ストレッチ
患側の踵をベッドに乗せ膝を約10°屈曲させる
踵を10秒ベッドに押し付ける→10秒間リラックス→20秒間上体を前方へ倒す
4回 3セット(1日の中で2回を毎日実施)


Figure5 C-protocol  Cable-pendulum
健側を立脚として膝を20-30°屈曲させる
その状態で股関節を前後に動かす
6回 3セット(1日おきに実施)


Figure6 C-protocol Pelvic lift
仰向けの状態で両踵に体重を乗せ骨盤を上下させる
膝90°屈曲位から開始→徐々に膝の角度を浅くしていく
8回 3セット(3日おきに実施)


Askling L Protocol 3種目

Figure1 L-protocol The Extender
股関節を約90°曲げた状態で大腿部を保持する
痛みを感じる直前の点まで膝をゆっくり伸ばす
12回 3セット(1日の中で2回を毎日実施)


Figure2 L-protocol The Diver
直立の姿勢から腕を伸ばすと同時に患側の股関節を屈曲させる
(膝の角度は患側:10-20° 健側:90°)
6回 3セット(1日おきに実施)


Figure3 L-protocol The Glider
体幹を直立させ片手でサポートにつかまり軽く脚を開いた状態からスタート
膝を約10-20°屈曲させて全体重を患側にかける(写真では左脚)
健側を後方に滑らせていき痛みが出る前に停止
開始位置に戻る際は負傷した脚を使うのではなく両腕の力で戻る
プログレッションとしては後方の脚をより遠くに伸ばす+より速く実行する
4回 3セット(3日おきに実施)

復帰までの期間はどうだった?

L-protocol(伸張性の負荷をかけるプロトコル)
平均 28 日 (1SD±15、範囲 8 ~ 58 日)
C-protocol(従来のプロトコル)
平均51 日:(1SD±21、範囲 12 ~ 94 日)

L-protocolを使ってリハビリテーションを進めた選手はC-protocolでリハビリをした選手に対して平均復帰までの時間が23日(45%)短縮された。
ハムストリングス損傷のアスリハプロトコルにおいてハムストリングスを伸張させる動きを多く取り入れることの重要性を示唆している

まとめ

ちなみに今回の研究では受傷後5日からプロトコルを開始したそうです。
・プロトコルを開始するまでの5日間で介入が何もなかったのか?
・復帰間近のグラウンドレベルでのリハビリはなかったのか?
などなど気になる部分は色々ありますがL-protocolの方が早期復帰できたという結論でした!

早期からハムストリングスに伸張性の負荷を与えた際の瘢痕組織の形成や筋線維の配列にどのような影響が出るのかも気になる所です。
この辺りの文献も読んでいきたいです。

個人的には💭

ハムストリングスの肉離れに対して早期からエキセントリックな負荷をかけていくというリハビリテーションプロトコルには賛成で、現場でも実践しています。

アイソメトリック→コンセントリック→エキセントリックに進めていくのがリハビリテーションの基本という考え方は大切だと思います。
安全でリスクも少ないプログレッションだと思います。
しかし色々な文献を読んでいると肉離れに関してはこれ通りではない気がします。

スポーツ現場で肉離れのリハビリをする上で大切なのは、肉離れをした際の負荷に耐えられるキャパシティを構築した上で復帰するということです。
load(負荷)vs  capacity(負荷耐用能)という考え方があります。
肉離れのリハビリに限らずですが負荷に耐えられる状態(capacity)を広げるために適切な負荷(load)をかけることが大切です。
安全でリスクの少ないプログレッションをしていると負荷をかけていると思っていたのに負荷がかかっておらずcapacityが低下しているなんてことも…
このload(負荷)vs  capacity(負荷耐用能)の話は奥深くてめちゃくちゃ面白いので、またいつか記事にします!

そして早期からエキセントリックな負荷を患部にかけてる際に直面するのが”痛み”です。
リハビリ中に選手から「この種目やるとちょっと痛いんですけど…」という訴えに対してどのように返答していますか?
リグレッションして別のエクササイズに変更するのか、痛みを許容しながら実践するのか。許容するなら『どれくらいの痛みまでを許容するのか』
例えば…
NRSで4くらいの痛みは許容する
なのか(NRS10の定義は?)、我慢できるくらいの痛みは許容するなのか。

痛みの表現は選手の性格が出るので、ここをどのようにマネジメントするのかはトレーナーの腕の見せ所だと思います。

ハムストリングス肉離れは興味ある分野でまだまだ話したいことがあるのでpart2以降もいずれ書いていきます✍️

📚文献
Askling CM, Tengvar M, Thorstensson A. Acute hamstring injuries in Swedish elite football: a prospective randomised controlled clinical trial comparing two rehabilitation protocols. Br J Sports Med. 2013 Oct;47(15):953-9.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23536466/


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