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ソーシャルインクルージョン研究のいま

⾼齢者が安⼼して穏やかな気持ちで⽣活するにはどのようなことが⼤切でしょうか。
ここでは「東京都健康⻑寿医療センター研究所 福祉と⽣活ケア研究チーム」の研究から、⾼齢者について最新の話題を取り上げます。

今回は、認知症による⾏⽅不明について、菊地和則研究員の研究をご紹介します。

認知症による⾏⽅不明者は年々増えている

⾼齢化とともに認知症の⽅は増え、2025 年に700 万⼈と予想されています。これは65 歳以上の⾼齢者のおよそ5 ⼈に1 ⼈です。認知症の⽅が1 ⼈で外に出て、家に帰れなくなり、⾏⽅不明になるケースも増えています。警察庁の統計によれば、認知症による⾏⽅不明者数(認知症の疑いを含む)は年々増加し、2022年には18709⼈でした(図1)。このデータは、⾏⽅不明者届が受理されたときに届出⼈から、認知症または認知症の疑いにより⾏⽅不明になったと申出のあった⽅の数です。つまり、⾏⽅不明者届が出されていない⽅の⼈数は⼊っていません。


                   (出典:警察庁「令和4 年における行方不明者の状況」)

認知症による⾏⽅不明の実態を調査するため、菊地研究員らは2022 年10〜11 ⽉に関東圏の市町村に調査票を郵送し、分析に必要なデータがそろっていた15市町村を対象に検討しました。その結果、65歳以上の⾼齢者は59 万3733 ⼈、認知症による⾏⽅不明は1051 ⼈で、⾼齢者10 万⼈あたり177.02 ⼈であることがわかりました。

居住状況でわけたところ、1 ⼈暮らしの⾼齢者は15 万4307 ⼈、そのうち認知症による⾏⽅不明は197⼈で、1 ⼈暮らしの⾼齢者10 万⼈あたり認知症による⾏⽅不明は127.67 ⼈でした。⼀⽅、同居者がいる⾼齢者は43 万9426 ⼈、認知症による⾏⽅不明は854 ⼈で、同居者がいる⾼齢者10 万⼈あたり認知症による⾏⽅不明は194.30 ⼈となりました。1⼈暮らしの⾼齢者のほうが⾏⽅不明者は多いと考えていたため、この結果は予想外だったと菊地研究員は⾔います。

結果について2つの原因が考えられるようです。まず、1⼈暮らしの⾼齢者のほうが、同居者がいる⾼齢者よりも健康で、認知機能が⾼く、⽇常⽣活動作に困っていない⼈が多い可能性が挙げられます。次に、1⼈暮らしの⾼齢者では⾏⽅不明者数の把握が難しいことがあります。認知症の⽅が⾏⽅不明になったとき、家族や介護する⼈が警察や市町村に届け出ることが多いのですが、1⼈暮らしの場合、届出がされていない可能性があるためです。⾏⽅不明者は、警察や市町村で把握している⼈、警察や市町村は把握していませんが、家族やサービス担当者などが⾏⽅不明に気づいた⼈、そして⾏⽅不明になったことを誰にも知られていない⼈に分けられます(図2)。もしかすると、1 ⼈暮らしの⾼齢者の中には、もっと多くの⾏⽅不明者がいるのかもしれません。

早期発⾒が⾏⽅不明の⾼齢者のいのちを助ける

また全国市町村を対象に、1⼈暮らしの認知症⾼齢者(認知症の疑いを含む)の⾏⽅不明事例の調査も⾏われています(*)。150事例を分析した結果によれば、⾏⽅不明に気づいたのは家族・親族が最も多く、続いてサービス担当者でした。⾏⽅不明者は⾃宅付近、あるいは普段移動する範囲内での発⾒が半数を占めましたが、普段移動する範囲よりも遠くで発⾒される事例が4 割以上でした。移動は徒歩が7 割以上で最も多かったものの、⾃転⾞や⾃動⾞、バスや電⾞での移動もありました。発⾒時に死亡していた事例もありました。警察への⾏⽅不明者届が提出されていない事例が3 割もあったことから、警察庁の統計に含まれていない⾏⽅不明者がいる可能性があるようです。

認知機能が低下すると、家に帰れなくなってしまい、事故に遭ったり、持病が悪化してしまう危険性があります。⾏⽅不明になって翌⽇までは⽣存して発⾒されることが多いですが、3⽇⽬以降になると、⽣存している可能性が低くなることがわかっています。

早期発⾒が⾏⽅不明者のいのちを助けることになります。様⼦がおかしいなと感じた⾼齢者がいたら、積極的に声をかけるなど、地域全体で認知症の⽅を⾒守る取り組みが⼤切です。

##引⽤論⽂
A study on the incidence rate of missing persons with dementia living alone in Chiba prefecture, Japan.Kazunori Kikuchi et al. Geriatr Gerontol Int. 2023;23(11):890-891. https://doi.org/10.1111/ggi.14695

(*)「独居認知症⾼齢者の⾏⽅不明の実態-150 事例からの報告-」⽼年精神医学雑誌32 (4):469-479,2021.

⽂/⼋倉巻 尚⼦(医療ライター)

##菊地和則研究員からのひとこと
これまでの研究から、軽度の認知症の⽅でも⾏⽅不明になることが分かっています。認知症の⽅の家族や介護者はどんなときでも⾏⽅不明になる可能性があることを意識して下さい。もし⾏⽅が分からなくなったら、ためらわずに、すぐに警察など関係機関に連絡をして捜索を始めて下さい。また、1⼈暮らしの⾼齢者が増える中、⾏⽅不明の対策はより重要になります。


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