7/16 耳が肉厚

 ネットで、アクセサリーに一目惚れした。

 真鍮でできた、幾何学模様が立体的に組み合わされたイヤーカフ。素材と形のおかげで、甘さはなくて、かっこよくて。イヤーカフをつけたモデルさんの耳元が、さりげないのに存在感があって、素敵で。目が吸い寄せられて。

 「なれるものなら、この耳元!」と、受注生産のそのイヤーカフを注文したのが2か月前。先週、やっと手元に届いた。のを、少し寝かせて、今日、開封した。

 うきうきで箱を開けて、薄紙をめくって、夢に見ていたイヤーカフを指先でつまんで取りだし、手のひらにのせて上から眺め、つまんで目の高さまで持ち上げて眺めして、試しに着けてみよう、と鏡の前に移動して。ひっかけるタイプのイヤーカフの開口部を、耳の横側の薄い部分に近づけていった。のだけれど。

 入らない。開口部の幅より、自分の耳の薄い部分の厚みが、どう見ても厚い。

 他に入るところはないか、と耳の外周をひとまわりなぞったけれど、イヤーカフはどこからも入っていく気配がなかった。わくわくしていた気持ちがしぼんで、ショックを受ける手前の静かな気持ちになりながら、イヤーカフをもとの箱の中に戻し、薄紙でくるんで、箱を閉じた。

 そうだ。最近、耳の上からかけるタイプのイヤーフックばっかり使っていたからすっかり忘れていたけれど、わたし、耳たぶ厚いんだった。イヤリングの類は、ねじを一番ゆるめても入らなかったり入っても耳たぶが圧迫されてすぐに痛くなるので長時間着けていられないんだった。そもそもそういう経緯があって、「イヤリングは無理だ。ピアスも厚い耳たぶ貫通させるのは多分大変だ(その前に穴開けるの怖い)。けれど耳の出るショートカットだし、耳元飾りたい!」と、イヤーフックを求めたのだった。

 厚いのは、耳たぶだけじゃなく。多分、耳全体の肉付きがいいんだ。と、そんな自分の体の特徴を初めて知った。自分の耳なんて、そんなにまじまじと見ないし、人と比較したこともなかったから、知らなかった。そもそも、人の耳をまじまじと観察したことがあるのなんて、旦那さんの耳くらいだ。

 イヤーカフ、箱に戻す前に、開口部の両側をつまんで軽くひっぱってみたら、少しは力業で開きそうだった。今度、もしだめでも凹まないメンタルなときに、もう一度取り出して試し着けしてみようと思う。それでもだめだったら、……加工する、か、あきらめて似合いそうな人に譲る、か。……できれば、再チャレンジで着けられますように。

 警察や探偵は、人探しや尾行のときに耳を見る、と聞いたことがある。耳はなかなか整形しないし、形も特徴的だし、変装もできなくて無防備だとかなんとか。そもそも人の顔もなかなか覚えないわたしは、人の耳なんて、全然憶えてないし見てないなぁ……。

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