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やっぱり変だよ、内閣府の新景気指数

改めて批判します

 本日(8/22)、内閣府の新景気指数が初めて発表され、日経電子版は「6月の景気動向指数の新しい参考指標(2015年=100)は前月比1.6ポイント上昇の102.5だった」と報じています。記事では新しい参考指標と現行の景気動向指数の一致指数を組み合わせたグラフも掲載していますが、参考指標をメインに記事を書いている印象です。ということで、改めて新景気指数を批判しておきたいと思います。

「宿題返し」という名の忖度?

 公表に先立つ今朝、日経電子版ではその政治的な背景を解説していました。「発端は2020年に「アベノミクス景気」に終止符をうった局面」とし、現行の景気動向指数の一致指数で2018年10月に景気の「山」を付けたことに対し、当時の西村康稔経済財政・再生相が不満を表明したことがきっかけだったと記事は解説します。何となく「そうだよな~」と私自身も思っていたことが、こうして記事の形で明らかになったことは意味があると思います。しかし、新指数の問題は「サービス業は製造業に比べ変動が小さく、新指数は景気判断にそぐわない懸念」ではないのです。

明らかにトレンドが異なり、問題含みの分配面(所得)指数

 本日、データが公表されたことで、これまで内閣府が用意したグラフではわかりにくかった新指数の問題点がくっきりしてきました。新指数は、「生産面(供給)」「分配面(所得)」「支出面(需要)」の3面の指数を平均することで算出されています。下の図は、その3面の指数と新しい指数を重ね合わせたものですが、分配面の上昇トレンドが他の生産面、支出面のトレンドとかなり違うことがわかります。

 この一因は、以前、以下のnoteで書かせていただいた分配面の指数の問題点によるものです。1つは名目値と実質値の混在です。物価変動の影響を取り除いたものが実質値で、分配面の指数を算出するために用いられている雇用者所得(私たちの給与の総額)は実質値になっています。一方、同様に分配面の指数の算出に用いられている営業利益は、なぜか物価変動の影響を取り除いていない名目値のまま使われているのです。

 もう一つの問題は営業利益は四半期データであり、「線形補間」という仕組みで月次化していることです。四半期単位では実績でも、月次単位の動きは実績ではないのです。

生産面、支出面の2つのみで作成した場合と異なる動き

 上記のnoteにも書かせていただきましたが、私はこの新景気指数について議論する会議に出席させていただき、その場で分配面を使うことの問題点について何度も発言してきました。現行のGDP統計が、生産面と支出面の統計を組み合わせて推計されていることもあり、「生産面と支出面の2面平均じゃなぜダメなのか」と問うてきました(内閣府側は、GDPではなく経済の総体量の変動を把握するためのものと言ってましたけど)。

 しかし、7月19日の新指数の発表時に内閣府のホームページに掲載された資料では、こうした意見があったことは全く書かれておらず、議論する会議があったことも明記されていませんでした。
 その理由の一つは、上述の日経新聞の記事にあるように2018年10月の景気の山を否定したいという思いだったのではないでしょうか?というのも、生産面と支出面の平均と新指数では、2018年10月以降の動きが微妙に異なるためです。
 新指数では2018年10月の105.8を同年12月には上回ります。2019年9月の上昇(10月の消費税率引き上げ前の駆け込み)もあまり大きく見えず、「2019年9月まで拡大が続いていた」とも言えそうです。しかし、生産面と支出面の平均だと2018年10月の105.0を上回るのは、2019年9月のみです。駆け込みによる上昇であることも図からはっきりわかります。これでは、「2019年9月まで拡大が続いていた」と主張するのは厳しいかもです。

三面平均にこだわった別の理由?

 内閣府は新指数公表にあわせて、ESRI Research Noteという形で、今回の新指数の解説(「景気を把握する新しい指数(一致指数)」について)を書いています(以下のリンク)。この参考文献には、数多くある景気循環の研究が全くといって触れられていません(もちろん、バーンズ&ミッチェルのような古典的な代表的な論文は出てますが)。その中で、このResearch Noteの筆頭筆者の別のResearch Noteが参考文献に含まれています。その論文を見てみると参考文献は一つも上げられていませんが、今回の新指数の考え方のバックボーンになっていると思われます。この筆者の方は、景気動向指数の算出を担当する内閣府経済社会総合研究所の前所長だそうです。これも三面平均にこだわった理由なのかしらんと思ってしまいます(下衆の勘繰りですが)。

https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/e_rnote/e_rnote070/e_rnote069.pdf

 ちなみに、上記リンクの「「景気を把握する新しい指数(一致指数)」について」には、1ページの脚注に「巻末・参考2、参考3に掲げた「景気動向指数研究会」並びに同研究会のもとに設置された「景気動向指数のあり方に関する有識者研究会」の各委員の方々からも様々な観点から専門的なご意見やご指導を多数いただいた」と書かれています。このうちの有識者研究会の方に私は参加させていただいておりましたが、やはり、この研究会での意見や指摘は全く本文には書かれていませんでした。親委員会である「景気動向指数研究会」の偉い先生方が何もおっしゃらなかったからなのか、それとも偉い先生方の意見も封じられているのか。批判に学ばない研究に未来はないと思いますけどね。。。
 最後に景気循環研究などでよくご一緒させていていただいている知人の研究者の方の、今回の新指数に関するご発言を引用して本稿を終えたいと思います。これは名言だと思います。

政府は景気判断に景気循環の研究を活用するという姿勢であるべきなのに、政府は自らの判断を正当化するために景気循環の研究を歪ませているのではないかと感じます。そもそも景気循環はGDP成長率だけでは評価できないということが、景気指数の存在意義の1つだと思います。

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