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地方に行く訪日客が増えているの?

 21日の日経夕刊1面で、観光白書に基づく記事が出ていました。訪日外国人客の統計にはかねて興味を持っている私も元データに当たってみました。結論を先に申し上げれば、このデータには疑問を持たざるを得ません。

 この記事は、観光白書の41頁の図表Ⅱ-6 訪問地別訪日外国人旅行者数の推移がネタ元になっています。グラフの脚注をみると、「観光庁「訪日外国人消費動向調査」、日本政府観光局「訪日外客数」に基づき観光庁作成」とあります。「訪日外客数」には、公表データを見る限り、都道府県別の人数はありません。一方、「訪日外国人消費動向調査」にも該当するデータはありません。

 近いものとして、「訪日外国人消費動向調査」には「都道府県別の訪日観光客の訪問率」があります。アンケート調査に基づき、訪日外国人の何%がどの都道府県に訪問しているかを調査したものです。2018年の実績値は以下の通りです。

第1位 東京都 45.6%
第2位 大阪府 36.6%
第3位 千葉県 35.6%
(以下略)

 以上の訪問には、空港を利用する際に通っただけというものもあるでしょう。観光白書の図はその部分を調整し、大都市圏のみ訪問している人数を確定したのだと思われますが、資料編などをみてもその算出過程が明らかになっていません。

 また、そもそも旅行客の一部を調査した比率を使って、地域別の人数を推計することによる精度に問題はないのでしょうか?私はかねて訪日外国人消費動向調査の精度に疑問を持っていて、下記のリンクの論考を書いたこともあります。

 別の統計から見てみましょう。宿泊業者を対象とした調査である「宿泊統計調査」(観光庁)では、訪日外国人の延べ宿泊数が調査されています。これは、例えば2人が3泊すると6人泊とカウントされます。2018年の訪日外国人の延べ宿泊数は、7903万8520人泊でした。観光白書と同様に、東京、神奈川、千葉、埼玉、愛知、大阪、京都、兵庫の8都府県を三大都市圏としてシェアを示したのが下記のグラフです。宿泊シェアの6割は三大都市圏となっています。

 ちなみに2017年のシェアは60.5%で、じわりと地方部のシェアは上がっていますが、観光白書の図表Ⅱ-6のようなドラスティックな変化は確認できません。地方創生を強調したい気持ちはわかりますし、公表データではわからない根拠があるのかもしれませんが、せめて計算過程はしっかり示してもらいたいものですね。

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