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【対談】Enuma Inc.創業秘話と21世紀のインクルーシブ教育

先日6月27日、弊社のCEOリ・コンホ氏がおうち英語のインフルエンサーのちむ子さんとスペースにて対談させていただきました。
下記リンクのtwitterからアーカイブで音声を聴くことも可能です。家事や育児、お仕事をしながら、気軽に聞いてみてください♬

ち:皆さんこんにちは、ちむ子です。今日はなんと!皆さんもよくご存じの「トド英語・トドさんすう」を開発したEnumaのCTOである「リ・コンホ」さんにお越しいただきました。本当にこんな機会をいただけて、お誘いをいただいた時は震える思いでした。大変ご多忙な中、お時間いただきましてありがとうございます。本日はよろしくお願い致します。

リ:よろしくおねがいします。

ち:まず最初にお名前の訂正からさせていただきます。案内の段階ではイ・ゴンホさんとご案内しましたが、日本語表記はリ・コンホさんに統一されているとのことで、今日はリさんと呼ばせていただきます。あまり日本のメディアに出られる方ではないのですが、リ・コンホさんで検索すると2019年の東京大学での講演をYouTubeで見ることができます。全部英語なのでみなさんがんばって見てください。そんなすごい方とお話しできる機会をいただけて本当に光栄です。エヌマジャパンのマーケティング担当のパクさんにもご同席いただいています。

パ:よろしくおねがいします。

ち:そもそもトド英語・トドさんすうを作っているのはどこの国の会社なのか?何故今日本語を話しているのか?実は私もその一人で、今回トドシリーズがアメリカの会社で作られていることも、その会社を韓国の方が作っていることも、そしてその方が日本語を話せるということも初めて知ってびっくりしたんですけれども、まずは簡単に自己紹介をお願いしてもよろしいでしょうか?



Enuma創業について

リ:みなさん、おはようございます。EnumaにてCTOを歴任しております、リ・コンホと申します。Enumaはアメリカに本社があって、中国・韓国・インドネシアといろんなところで展開している会社です。私は韓国でゲーム会社の開発者として働いていた時にバークレーに留学で来て、それからそこで妻と一緒に創業しました。また、80年代前半には幼稚園から小学校2年生まで大阪にも住んだことがあります。
Enumaは2012年にカリフォルニア・バークレーで「様々な障がいにより、学習が難しい子どもも利用できる最高の学習ツールを作ろう!」というモットーで始めたんです。
当時はちょうど、iPadが出たばかりの時代で、使いやすいタッチやインタフェースのおかげで小さい子どもも簡単にデバイスに触れることができ、家や学校のような学習現場で利用できるポテンシャルが高いとの理由から、多くのエデュテックの会社が立ち上げられている時代でした。
その中でも我々は結構ユニークなポジションではありましたね。
障がいがある子ども向けの商品とは言いつつも、商品自体の完成度がそれなりに高かったからです。そのおかげでシリコンバレーから初期投資を受け、最初はアメリカをメインにして、それからは東アジアを含む様々な開発途上国の子どもたちがうまく利用できる教育用のアプリを作りながら、今度はアフリカや東南アジアなど発展途上国でも利用できるアプリを作って、成長し続けています。

ち:なんと小さいころに日本に住んだことがあるということで、このように日本語でお話する機会に恵まれました。とは言え小学校2年生で韓国に帰り、さらにはアメリカで仕事をされているとなると、日本語なんてすっかり抜け落ちてもおかしくないように思いますが、日本語はここまでどのように維持されてきたんですか?

リ:コツコツと触れないと言語能力は維持することが難しいですが、僕の場合はゲームと漫画・アニメのおかげです。最近は特に、ほとんどのコンテンツがローカライズされていて、あえて外国語を分からなくても、楽しむことができますが、当時はそうでもなかったからですね。その後は小説…その時は銀河英雄伝説などが流行っていましたから、それらを読みながらコツコツと維持することができました。そのため、ListeningとReadingはまだ自信はある方ですが、Speakingは少し難しい状況ではあります。キーボードがないと、書くことは難しいですね。

ち:会社にも実は日本語を喋れる人が多いと聞いたんですが、やはりゲームを作る会社だからゲームやアニメが好きで勉強されていた人も多いんですよってことだったんですね。日本では割と理系の人は語学が苦手ってイメージありますけど、魅力的なコンテンツがあると日本語がこんなにできるんだなって感動しております。
私もアメリカに留学していた時に多くの韓国人に会って、韓国の教育熱や外向きの力、海外に出ていこうっていう感じが強いと思うんですが、リさんが子供だった頃から留学熱というか、アメリカなどへ出ていこうという雰囲気は強かったんですか?それともリさんのようにアメリカに留学して働くのは当時では珍しいことだったんでしょうか?

リ:僕が学生だった時代には何かを学ぶためには、留学することが当たり前でしたね。大学の教授の方々もほとんど外国、そのほとんどはアメリカで博士を取った方々でした。しかし、やはり時代によって色々変わってきたんですが、昔は外国で博士を取ってから帰国すると、企業で取締役レベルからスタートしていたのが、その後は部長から、また更にその後は課長からのスタートになる、どんどん低くなっていようでしたね。もちろん韓国の学校のレベルが上がることにつれ、外国で勉強してから帰国する人も多くなるなり、いろんな理由があるでしょうね。ちなみに、僕が留学に行く時にはとめようとする人も結構いたんです。振りかえってみると当時は韓国が「世界のテストベッド」と言われるほど、新しい技術の導入やそれに対する適応がすごく早かった時期だったようですね。ちょうどiPhoneが出る直前でもあり、本格的なモバイル時代はまだで、アメリカはインターネットの普及がとっても遅くスピードも早くない。ITはアメリカより韓国の方が発展が早いのに、どうしてアメリカに行くのか周りから疑問に思われる時代だったんですね。
しかしながら、外国に出ようとする社会的な雰囲気は結構あり、前だと勉強のため、外国に行くケースが多かったんです。でも最近は仕事のため、もしくは起業のために外国に出るケースがどんどん多くなってきているようですね。前は勉強が終わったら、その後、少しアメリカで仕事してから、韓国に帰るケースが一般的でしたが、最近はそのまま、仕事し続けるか、勉強は韓国で終わらせてから、仕事のために来るケースが多くなっているようです。

ち:Enumaは奥さまと一緒に留学して、一緒に立ち上げたとお伺いしたんですけれども、差し支えなければ奥様のこともお伺いしてよろしいでしょうか?TEC系って男の社会!ってイメージが強いのですが、韓国・アメリカで女性がアプリ開発の会社を立ち上げるというのは、かなり珍しいケースでしたか?

リ:かなりということはなかったんですが、珍しかったです。ちなみに立ち上げた当初は白人の方かインド系がメジャーで、東アジアの女の人が会社を始めるっていうのはマイナー中のマイナー。
会社も製品も作る時には、弱点というか弱みを隠すんじゃなくて逆に強みに変えていこうって考えてまして、子どもたち向けに作るんだったら子どもたちとやっていける会社を作ろう!と思っていろんな工夫をしていました。

ち:なるほど。じゃあ女性ってこともですが、夫婦でやっているということ、それに東アジアの人っていう二重三重のマイノリティの中にいらっしゃたんですね。苦労されたことはありましたか?

リ:いろいろありました。例えば、初めの頃に投資をしてくれた人たちの中の一人が、「いいものを作るのは分かってるんだけど、会社が成長した後は白人の男の人にCEOを譲るのを覚悟してね」というふうなことを言われました。うちの場合は障がいのある子たちのために作るっていうことで、「マイナーすぎてそんなんじゃできないよ」って言われるんですけど、逆にいうと好かれる人にはすごく好かれるんじゃないかと。打率は良くないかもしれないけど、響く人は必ずいる。いつも弱みを強みに変えるっていうことを意識しています。

ち:ではその珍しさを逆手にとっていくということなんですね。
プログラマーやデザインというとかなり職人気質のイメージで、自分でコツコツいいものを作っていくのは得意だけど、あんまりチームビルディングとかマーケティングとかするイメージがなくて…。でもお二人とも、会社を立ち上げ投資家とも話をしてネゴシエーションしていかないといけないっていうのは大変だったんじゃないかなと思うんですけれども。

リ:下手でしたね(笑)。最初シリコンバレーで投資をしてくれる人がいたんですが、投資の契約が終わった後に「次に他の人と投資の話をするなら自分を連れて行け。お前じゃだめだ」って言われて(笑)。いろんな人たちから手伝ってもらったわけで、素晴らしい人がたくさんサポートしてくれたからこそできたんだと思います。

ち:やっぱりTEC業界って、いいものを作ってもマーケティングとか運営が上手じゃないと乗っ取られたりするじゃないですか。これだけ会社が成長してもご夫婦で会社を維持できているってすごいことだなって思いました。いいスタッフをたくさん配置されているんですね。韓国と日本では教育熱に差があって、一緒にしないでって思われるかもしれないですが、東アジアの人間の一人としてはとても勇気づけられる話ですが、母国の韓国でのメディアでも取り上げられましたか?

リ:結構あった方だと思います。アメリカで東アジアの女の人が障がいのある子のためのものを作っているってことで韓国で取り上げられたことはあります。少し前に妻がフランスに行って、パリで大統領とスピーチする機会があったりして。そんなことが増えていますね。真面目な会社なんだなっていうのが周囲に伝わってくれてるんだと思います。

ち:そうですね。入れ替わりの激しい業界で、10年成果を出し続けているっていうのはすごいことですよね。
うちも子どもが使ってるんですが、そもそもトド英語は日本の会社が作ったと思っていたんです。というのもすごく上手にローカライズされていて、動画を見ていると英語圏の教材や動画を見ていても出てこないような日本で一般的な食材とか、風景とか、単語が出てきて。結構各国向けにローカライズされているんですか?

リ:トド英語は現在、日本・韓国・中国でそれぞれ違うバージョンで展開しておりまして、基本的なコンテンツは共有しますが、国ごとに少しずつ異なる内容が含まれております。トド英語は「外国語として」英語を学ぶアプリでして、言語は文化と外して考えるのは難しいからと言って、結構悩ましいところではあります。自分もセサミストリートなんか見て、アメリカってこんなところなんだ~って思っていたものの、遠すぎて自分とは違う世界のような、英語もどう使えばいいの?って感じで。
「外国」の文化を外国語を通して学習するのもありますが、自分の文化を「外国語」で表現することもありますので、その辺のバランスも考えざるを得ないところもあるので、国ごとに少しずつ違うコンテンツを提供しております。ここでいう「外国」がどこなのかというのも少し考える必要がある部分ですが、東アジアの場合、英語というと「アメリカンイングリッシュ」を優先的に考える傾向がありますが、東アジアから少し離れても、そんな傾向は弱まったりもしますので、KitKit SchoolやEnuma Schoolのように他の地域をターゲットとするアプリの場合は、違った形で開発したりもしますね。

ち:なるほど。じゃあ韓国版だとキムチが出てくるとかあるんですか?

リ:まぁそういった感じですね。例えばお正月などはみんなお祝いするけど、お祝いの仕方って国によって違うじゃないですか。その違いにどう取り組もうかな?と考えています。

ち:先ほどアフリカの子たち向けにも作っていると聞きましたが、国によって必ずしも同じものがメジャーというわけじゃないってことですよね。

リ:そうですね。アフリカの場合で言うと、Aというと普通appleなんですが、アフリカでは滅多に見れない果物で、マンゴーとかの方が身近で。他にも例えばライオンとか。私たちがライオンっていうとテレビや漫画、本などメディアで見ることが多いんですが、メディアにあまり触れないアフリカの子たちにとってはライオンってわからない動物なんです。アフリカなら当然見たことあるんじゃないの?って思われるかもですが、実際にライオンを見た子はもう食べられてしまっているので、見たことある子は少ないんです。

ち:確かに。ライオンの話はインパクトありますね。ローカライズされて色々工夫がされているってことですね。
トドさんすうはかなり多言語に対応していますが、現在の海外展開状況はどんな感じなのでしょうか?

海外での展開状況や使用状況

リ:先ほど申し上げたように「様々な障がいにより、学習が難しくなった子どもも利用できる最高の学習ツールを作ろう!」というモットーで商品を開発したわけなのですが、実はこのような発想で、いざ作ってみると、普通の子どもにとっても良いものが出来上がるのです。
それは私たちが考えたことではなく、「ユニバーサルデザイン」という、建築や都市設計で始まった概念であり、ご存知な方もいらっしゃると思いますが、代表的にはカーブカット効果のように、障がいをもつ子どもには必須であるものが、普通の子どもにも、あればさらに良い、または少なくともあっても不便ではない方向でデザインをすることを目指しました
例えば筋力が弱くてドラッグができない子のためにタップだけで進めるようにしたり、耳が聞こえない子のために聞かなくても理解できるよう考えたり。このような発想でトドさんすうを開発し、最初はアメリカにある学校や東アジアの家庭を中心に展開したんですが、今振り返ってみると、学習が難しいという背景には障がいだけではなく、社会経済的な理由など、様々あるんだなということに気づいたんですよね。ペンが家に1本もないとか。そんな時に偶然知ったのがグローバルラーニングエックスプライズという大会でした。
その大会は、学校や先生がいないところにいる子どもに、タブレットで動いているソフトウェアだけで自習的に学習ができることを検証すると100万ドルの賞金をもらえる大会でして、Teslaのイーロン・マスク氏が後押しして作られた大会であったんです。当時、PCやノートパソコンのようなIT機器を利用して、子どもが学習できるようにすることは数十年前から試したものの、まだそれが検証できていなく、いまだに当時6億人の子どもが基礎教育レベルを超えることができない状態が信じられないと言って後押ししたらしいんですね。
それが2019年だったんですが、我々もちょうど障がいを持つ子どものための商品ではあったものの、一般の子どもにも通用されていたため、参加することになり、嬉しいことに共同優勝を果たすことができました。
ここで我々の子どもに対するアプローチ方法は世間的に間違いないとの自信を持つことができ、それから本格的に開発途上国や難民キャンプの様に教育へのアクセスが難しいところで実験をしながら、多様な展開を図るところで、ちょうどコロナのパンデミックが始まったんです。それで学校が閉鎖され、また人の移動が難しくなるにつれ、ご存知の通り、リモート教育の需要がいきなり高くなり、活性化されたんですね。ただ、リモートだと既にインターネットやデバイスがある先進国ではすぐに適用できたのですが、開発途上国ではデバイスもなく、またそれを送るとしても、使用方法を教える人を確保することも難しい。現地のKenyaやRwandaなどの国にアプリがインストールされたデバイスを配達し、教師を育つなど寄与ができることをするため様々な努力を尽くしました。

ち:なるほど。タブレットを持っている家庭が、学習ツールとして小さい子が使うってイメージだったんですが、Enumaとしては途上国とかで先生がいなくても一人で勉強ができる環境を作るっていうのが意外でした。タブレットを使って学習するのは、日本で考えると最先端な感じがしてましたが違うんですね。確かに物や教育を受けた先生を現地に送るって大変なことで、タブレット機器を送った方が結果的にローコストになるという。同じ教育をみんな平等に受けられるっていうのはなるほどと思いました。そういう途上国向けの商品は、個人じゃなくて政府や教育委員会とか学校を対象にやってるってことですか?BtoCつまり、Business to Customer、企業から個人の消費者に提供される商品ということですね。

リ:そうです。つまり個人がアップストア内でダウンロードして、家庭内で利用されることを主なシナリオとして想定しております。もちろん学校で利用される場合も多く、そのような状況のサポートはしているんですが、ほとんどのケースですと個人が買っている状況です。そのため、家庭教育の需要と関心が高い東アジアを中心に事業を展開しております。特にトドさんすうは初めはアメリカで売れてから、韓国や中国、そして日本でも需要がだんだん伸びて、今は今申し上げたこの3つの国が主な市場です。それからトド英語が出てからはトドのブランドがより知られる様になり、ニーズも高まっている状況ではあります。最近は特に日本でも需要が高くなっているようで、これからももっと力を入れていきたいと考えております。
もう一つの「Enuma School」といって、主に開発途上国内の学校や機関を対象として開発している商品です。先ほど申し上げたグローバルラーニングエクスプライズ大会に出品していた「Kit Kit School」を元に発展させた商品として現在インドネシアとマレーシアを中心に現地学校や自治体を対象に活発に展開しております。

ち:それぞれの国で反応やウケの違い、使用される状況や場所の違いを感じることはありますか?

リ:アプリの使用量のグラフを見ると、アメリカや東アジアが完全に違うのがすぐにわかります。例えばアメリカでは平日の昼間に使用量が上がる反面、週末な連休だとほとんど使われないです。しかし東アジアは休日の方が使用量が圧倒的に多いんですね。連休はずっと使用量が上がっている。
使用する子どもの年齢も違ったりします。東アジア、その中でも特に中国、はターゲットの年齢より小さい子どもが使用するケースが多かったりとか。
開発側としては複雑な気持ちでして、障がいのある子どもたち向けに作っていたら、幼い子どもたちのお勉強のために使われるようになっていて。結果的に差を広げてしまっているんではと思ってしまっています。

ち:確かにうちの子は3歳なんですが、説明もなくできてますね。
平日の昼間ということは、アメリカだと学校で使われるってとこですか?

リ:主にそうですね。アメリカでは、税金払ってるんだから教育は学校でやってよねという感覚。家ではスポーツや他のアクティビティをするのがメインなんです。
一方、韓国などで小さな子どもたちと一日中対峙するのは大変なことで、ついYoutubeを見せざるを得なくなるんですが、そうすると罪悪感が生まれる。だから、トドを30分やったら他の見ていいよなんて使い方されていることも。自分もそうだったんですけどね。ずっと動画見せているよりは、教育だし、楽しいし、手軽に教育ができていいかなってことですよね。

ち:トドシリーズはご自身のお子さんに障がいがあることが分かって、そうした子ども達向けのアプリを作ろうと決意されたとお聞きしました。日本ではまだ学習障がいや発達障がいのある子達をICTでサポートしていくという風潮は少ないように感じますが、アプリはどういった点で役立つのでしょうか?

「学習が難しい子供達」に対してアプリはどう有効なのか?

リ:特に子どもの場合は同じ内容を繰り返して学習しながら概念やパターンを学ぶことが一般的ではあります。しかしながら、学習が難しい子ども…と言ってもいろんなケースがありますが、通常ですと特定の機能、例えばよく聞こえないだったり、筋肉の発達が遅くて操作が難しいだったりして、学習の効率が低く、より長く、また多く学習する必要があるケースがあります。そういう時って、子ども自身も大変ですが、指導する側の大人としても大変なことになります。ここで、テクノロジー、またはアプリならでは、解決できるペインポイントがあると思うんです。似たような内容であっても、可能な限り様々な学習方法で提供できて、また、ゲーム感覚のインタラクションを通じて、より楽しく、より長く興味を保たせることができるところです。

ち:障がいがある子につきっきりにならないといけないとなると、人的リソースが足りないので、任せられる部分はICTに任せようっていう考えは日本にはあまりまだ浸透してないかもしれないですね。
そもそも開発時はそのような商品があんまりなかったと思いますが、どういった状況でしたか?もしくはエピソードがあれば教えてください。

リ: 障がいのある子向けの商品、あるにはあったんです。当時、障がいがある子どものためのソフトウェアってあるのかなと検索していた時に見つけました。そしたらショックでしたね。色とかもカラフルじゃない。クオリティが最悪。機械も古いんです。聞いてみたら、障がいがある子どもは、カラフルだと集中力が落ちるなど、ありえない答え。ただの言い訳ですよね。
普通の大型ゲームだったりとかだと、何十億円希望で、当時でもすごいクオリティのソフトウェアが出ているにも関わらず、障がいがある人向けのソフトウェアはほとんど開発がされていない状況が耐えられなかったのです。
そこで、彼らのためにダウングレードをあえてするよりは、より良いソフトウェアを作り、彼らにもアクセスしてもらった方が、一般の子どもにも障がいのある子どもにも良いと思ったので、一般のソフトウェアよりもきれいなグラフィックとより美しい音でできるだけ最高のクオリティで開発すると決めました。そうしましたら、元々のターゲットの障がいがある子どもにも、また一般の子どもにも好かれる商品になったのです。

ち:面白いですね!ただ、どれだけ良い商品でもターゲットがマイノリティーというか、比較的弱者であることによって、苦労したことはありませんでしたか?

リ:それはありました。イメージがよくないとのことで、投資家だったり、大会の審査委員などに批判をされつつありましたね。やっぱり理由としては、商品として、障がいのある子向けの商品なんか買いたくないという。学習能力が高い優等生向けではないとのことで、魅力的なプレゼンテーションにならないとのことでさんざん言われてましたね。
ただ、それでも諦めずに続けて、みんなに好かれるようになってからはみんな気にしなくなってしまった。いいものを作っていけばまわりも変わっていくんだなっていうのがわかりました。

ち:なるほど!あと、これもまた開発時でのお話ですが、元々教育業界ではなく、CEOもCTOもゲーム業界の人というのも興味深いのですが、何か教育業界からの目線と、エンタテインメント業界からの目線で一番大きい違いはどこだったんですか?

リ:色々ありましたが、一番はデータのとり方ですね。ゲームの場合は、人がゲームをやめるタイミングを分析して、やめてしまうタイミングのところを簡単に直して、どうしたら人の興味が失せないか工夫するのがメインですが、教育業界だと、子どもがやめるタイミングに注目するよりは、そのやめた子どもに対して、どう変えれば良いかと思うところが大きく違いますね。どこでつまずいているのか考えて、うまくいくように助けてあげる。結局、ゲームの目線からするとユーザーは変わらないという前提と、教育の目線だとユーザーというか子どもは変えられるとの前提が多少ありますかね。もちろんどちらも違う訳ではなく、両方とも重要だとは思います。ただし、子どもを変える役割はどちらかというと先生もしくは親であり、我々は子どもを変える役割ではなく、どうしたら今のままで興味を失くさなくなるかという点に集中して商品を開発しました。

ち:そうですよね。普通はゲームを買ってくれているお客さんと直接会うことはないわけで、途中でやめちゃったら今度は飽きられないようにどんどん刺激を変化していくところが、教育だとその子がどこでつまずいてしまっているのか、どうしたら進めるのかを考える。サポートするためのデータにするってことなんですね。
日本ではようやく数年前からタブレットを一人一台持つようになってきましたが、それを学びの個別最適化に使うことはまだまだ少なくて、紙とペンの代わりに使って一斉授業をする風潮が強いように感じます。アメリカで特別支援級を教えている先生に聞いたら、アメリカではトドさんすうを始め、Osmoなど学校単位でアプリを取り入れて、それを各自が進めている時間に個別にフォローをしていくという話を聞いてかなり驚きました。リさんは各国にトドシリーズを展開する中で使用状況などもお詳しいと思いますが、日本・韓国・アメリカの教育の違いをどのように感じていらっしゃいますか?

リ・コンホ氏から見た日本・韓国・アメリカの教育の違いやメリット

リ:もちろん国によって教育環境や文化がかなり違いますが、私の場合、日本で基礎教育を受けたため、少しの経験はありますが、結構昔の話にはなるので、今とは相当違いそうですね。私の経験ですと小1年生の時に毎日漢字を10個ずつ習って、毎日学校が終わる時にテストを受けたのですが、満点になるまで家に帰れず、繰り返してテストを受けていた覚えはあります。また、何か持ち物を忘れていたら、取りに家に行かなければならなかったなど、完璧さを求める印象が当時あったんですが、今はゆとりができて、その様なことはもうないとは聞きましたね。以上、私の経験談からの日本のお話しはこれだけしかできず申し訳ございません。
韓国の場合は、一番いいものを提供したいという風潮があります。今流行っているのは、中学・高校生の場合はインターネットを通じて一番うまくレクチャーできる先生が、全国の学生に向けてレッスンをする。もっと小さい幼児さんもそうなってきていますね。紙よりもタブレット機器のほうがいいんじゃないかなと考えている方が多くなっていると思います。
アメリカだとご存知の通り、多様性が特徴ではあります。何をどう教えるかも各々の学校、または先生個人の裁量に任されていることがとっても多いですね。前は週に1回ずつ上の子の学校にiPadを持っていて、トドさんすうで授業を2年くらい進めたことがあったのですが、このようなことでさえも各々の先生の裁量に任されています。そのためでもありますが、アメリカではトドさんすうを学校で利用するケースがとっても多いのですが、先生個人に割り当てられた予算で購入して活用する場合もあれば学校などで購入することもあります。また、障がいがある子供に対してもIEP - Individual Education Plan -と行って、個別の学生に合わせた教育目標や教育課程をご用意させる様にすることもあり、また子どもの個別的な能力、潜在力、各々の学校な学群により、多様な教育が行われます。逆に平均的な家庭での教育への関心や投資は比較的に低い方です。「税金払ったから、教育は学校でやれ」という認識の元ですね。また、大きく違うのはテストにパソコンが使われていて、子どもたちがコンピュータなどデバイスを使わざるを得ない環境になっているなど、積極的に慣れさせるという考えのようです。

ち:あとやはり教育×テクで最先端で教育に携わっている方として、今後教育の未来について。最近CHATGPTの登場によって、ある学校では禁止になったりしていますが、教育の未来についてどう思いますか?

リ:突然最近CHATGPTが出てきて、教育業界は驚いてますね。ご存知かと思いますが、教育業界にはAIによるISSUEが3つあり、1つ目はAIをどう教えるか、AIの使い方を教えるか、AIで教えるか?になると思いますが、私の上の子が生まれた時にはタッチ操作が当然だったんですが、下の子が生まれた時にはSiriのようなスピーキングが当然。それからテクがこれからも発展するにつれても、子どもとしてはそれが当然だと受け入れられ、活用するようになると思います。だから、どうしたらよりよく活用させるかが重要なポイントになると思います。AIが出した結論を、自分の結論として採用するか。これを考えるのが人間として重要になってくると思うんです。そういった意味では、伝統的な勉強が重要になるのではないかと思います。なんでこれをしないといけないのか、など考える。大昔からあるような、技術的ではない哲学的な意味での勉強が必要になってくると思います。

ち:確かに、私たちの時代はタイピングが主流でしたけど、今は何千字というレポートもフリック入力で打っている学生さんも多くて、さらにはもはや打つ必要もなく音声入力している人もいて。こういった変えられない流れの中で、どう使っていくかが大事になってきますね。新しいものが出たから禁止じゃなくて、うまく付き合っていくべきですね
実は私のフォロワーさんの中には、未就学段階でトドさんすうをかなりやり込んで、トドさんすうのおかげで小学校の低学年は乗り切れました!でもその先がなくて辛い…!トドさんすう難民だ!と嘆いている方も多いのですが、高学年向けのアプリ開発は視野にありますか?

リ:ありがたいお話、ありがとうございます!ただ、結論から話しますと、高学年向けのコンテンツはどうやったら上手く開発できるか悩んでいるところではあります。しかし、まだ具体的な計画は建てられてはいない状況ではありますね。学年が上がるにつれ、概念をただ学ぶだけではなく「説明」するところが多くなるため、我々の強みが発揮できるところに集中しましょうという考えから意図的に排除しておりましたが、お客様のニーズもどんどん強まり、またトド英語を開発しながら、高学年の子ども向けだとどのようにすれば良いか、少し分かるようになった部分も正直あるので、今後はより積極的に開発に向け、拍車をかけてみようとするところではございます。トド英語で言うとアメリカでは小学2年生レベルなんですが、日本で外国語して学ぶと小学6年生までカバーできるんですね。そうやって広げていく中で、さらに高学年向けにするにはどうしたらいいのか、考えているところです。

ち:未就学児や小学校で英語が始まったものの家庭でのフォローに困っている、というご家庭にとって救世主になっているトドシリーズですが、トドシリーズと共に育った子どもたちのその先のアプリも待ち望まれているかと思います。依存してしまうからということでタブレット学習などは遠ざけてしまうご家庭もあると思うんですが、逆に何回も何回も学習することは紙よりもタブレットの方が向いているのではないかという話は目から鱗でした。
また、発展途上国のみならず日本でも教員の人材不足は深刻ですので、トドシリーズに限らず学校現場でももっともっとアプリを有効活用して教員はあくまでファシリテーター、マネージャーという役割を担っていく日も近いのかなと感じています。今後もEnumaのますますの発展を期待しております。今日は本当に貴重なお話ありがとうございました。

トド英語、トドさんすうを使っているご家庭とても多いと思うんですが、メッセージなどありますか?

リ:日本でトド英語、トドさんすうが受け入れられたことがすごく嬉しいです。ユーザーさんから改善点などを言っていただけて、そこを改善してさらにいいものとして出来上がっていくといういい循環になっていると思うんです。今後も一生懸命やっていく予定ですので、よろしくお願いします。

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