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怪異を訪ねる【遠野 早池峯神社】その四

 神社の聖域は想像以上に広かった。前回の投稿で紹介した以外にも、駒形社、金勢社、稲荷社、黒門などがあり、散策スペースは確保されており、神社仏閣に惹かれる方は楽しめるだろう。

金勢大神

 途中、用を足そうと思い、境内を探していると、それらしき場所から参拝者や神社関係者が出てきたので、一人の男性に声を掛けてみる。

「あのう、すいません。御手洗いはあちらですか」

「おーう、そうだよ」

 私が声を掛けたのは、濃いめの緑色の法被を着た如何にも祭りに携わって長年経験を積んでいそうな七十代ぐらいの男性だ。序でに、お祭りについて尋ねてみた。

「こちらのお祭りは初めて来たんですけど、いつから参加されてるんですか」

「そうだねえ。私は東京からこっちに越してきたんだけど、来てすぐにもう祭りには参加してたからねえ。もう随分と前だねえ」

 祈願祭そのものの歴史はまだ浅いとのことだが、神社としての神事や宴は決して新しいわけではなく、それなりに長い歴史があるのかもしれない。この男性のように移住してこられた方を含めて、地域の人々が大切に紡いでいる祭りであることは容易に想像できた。

 一通り境内を散策したところで、一旦、お隣の「遠野早池峰ふるさと学校」へ向かう。旧大出小学校でもあるこちらは、週末だけ開放されており、入場無料で見学できるとのこと。校舎に入ると、女性の係員が案内してくださり、出席簿に名前を書いてくださいと仰った。なるほど、面白い設定だ。しばし小学生に戻った気分で見学させて頂いた。

下駄箱が懐かしい

 東西に伸びた平屋の校舎は、当時の生徒たちの燥ぎ声や教員が教鞭を執る授業風景、生活感を想像させる。真っ直ぐに伸びた廊下を見ると、生徒たちは腰を九の字に曲げて、雑巾掛けでもしてたのかなあと微笑ましい。生きた時代によって各々が思い起こす学校の風景は異なるが、共通して頭に浮かぶ景色は必ずある。そんなことをふと思った。さて、図書館や校長室を見学した後、私はザシキワラシが潜むかもしれないと噂のある音楽室と体育館に向かってみた。

畳の上に楽器が置かれている

 静けさに満ちた部屋。嘗ては音を響かせたであろうそこには音色など聞こえない。だからこそ、今となっては、却ってザシキワラシの住処になっているのだろうか。目の前に木琴がある。緑風荘や菅原別館でも玩具の音を鳴らして様子を窺う検証を行ったが、同じように木琴を軽く叩いて検証してみた。

「トン、ティン、ティン・・・」

 うむ。何も起こるはずはない。私にはやはり何も感じない空間であった。次に、奥にある体育館へ行ってみる。

それほど広くはない講堂

 講堂としてはやや小振りな空間に入ると、左手には舞台があった。生まれ育った場所は違えど、壇上を見つめるこの景色も懐かしい。ほぼ全ての面積を覆う中央に敷かれた畳は、当時からのものなのか、再利用されるようになってから敷かれたものなのかはわからない。しかし、腰を下ろすには良さそうだった。しばらく隅々まで見学してみる。
 だが、ここも特に何もなさそうだ。今日は隣の神社で祈願祭が行われているので、ザシキワラシは留守なのか。そんなことを考えながら廊下を引き返した。
 時刻は午前十一時。午後三時には遠野駅から花巻空港へ向かう電車に乗らなければフライトに間に合わない。気が早いが、とりあえず帰りのタクシーを手配しようと、往路でお世話になったタクシー会社へ配車の予約を入れる為に、ポケットからスマートフォンを取り出す。しかし、画面を起動してすぐに、画面右上に違和感を覚えた。

(圏外・・・。アンテナが立っていない・・・)

 つまり、電波が届かないのか!?と焦った私は、タクシー会社に連絡してみる。

(プー、プー、プー・・・)

 やはり、電話が繋がらない・・・。思えば立地が高所である。日頃は標高の高い所で生活する機会がない私は、このような事態は想定外であった。どちらかと言えば、何事にも準備は入念に行う性格だと自覚しているが、こんなところに盲点があった。

 さて、この後、どうなる!?東郷!(続く)

(たまにはこんな終わり方もありかと・・・というか、初めてのパターン)

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