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2024.01 本のはなし(下)

前半はこちら。

1月後半に読んだ本

1/16〜1/31 13冊
(1月合計22冊)

・すなまわり/鶴川健吉
・N/A/年森瑛
・わたくし率イン歯ー、または世界/川上未映子
・八月の路上に捨てる/伊藤たかみ
・穴/小山田浩子
・共喰い/田中慎弥
・わるもん/須賀ケイ
・ハリガネムシ/吉村萬壱
・異類婚姻譚/本谷有希子
・パーク・ライフ/吉田修一
・暗渠の宿/西村賢太
・ニッポニアニッポン/阿部和重
・犬婿入り/多和田葉子

長かった1月が終わって嬉しい。輪郭はぼやけているが確かに生まれた日々の諸々の靄々を、読書でフラットに馴らすという日が続いた。なんとか人間の形を保てているのは、読書ありきのことであると、毎度痛感する。


N/A/年森瑛

松井まどか、高校2年生。うみちゃんと付き合って3か月。体重計の目盛りはしばらく、40を超えていない。――「かけがえのない他人」はまだ、見つからない。優しさと気遣いの定型句に苛立ち、肉体から言葉を絞り出そうともがく魂を描く、圧巻のデビュー作。

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カテゴライズできないマイノリティ、カテゴライズされてしまうマイノリティ。どちらにも明るい暗い要素が同じだけあるように思う。

長らく暗黙の空気に圧されてきたマイノリティに纏わる想いが徐々に明るみになったりする流れは昨今感じるものの、まだ内に秘めたまま騙し騙し生きる人が多数いる。

個人的な葛藤に、他人が関与する難しさを放棄しないで考え続けていきたいと思った。

暗渠の宿/西村賢太

貧困に喘ぎ、暴言をまき散らし、女性のぬくもりを求め街を彷徨えば手酷く裏切られる。屈辱にまみれた小心を、酒の力で奮い立たせても、またやり場ない怒りに身を焼かれるばかり。路上に果てた大正期の小説家・藤澤清造に熱烈に傾倒し、破滅のふちで喘ぐ男の内面を、異様な迫力で描く劇薬のような私小説二篇。デビュー作「けがれなき酒のへど」を併録した野間文芸新人賞受賞作。

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けがれなき酒のへど
結局私は西村賢太が好きだ。どんなに純朴素朴な動機を持ってしても、この人ときたらまあ一貫して思いの通りにゆくわけもなく、転げ喚き、虚しさ寂しさに帰す。
そしてまた純朴素朴、振り出しに戻る。
たったこれだけのことなのに、ずっと面白いのは凄すぎる。もうすぐ2月5日、彼の命日である。

暗渠の宿
女性との交際を熱望するけがれなき酒のへどとはうって変わり、今度は一人の女性との交際にフォーカスをあてた暗渠の宿。女性がいようがいまいが、彼のブレがなさ過ぎる根本的性質が炸裂し、また面白い。

根が臆病で破滅型故に、女を持ったら持ったであらぬ不安に苛まれたり、小さなことで燃え上がったりと、大変に忙しい。

そして西村賢太のタイトル、いつも秀逸である。

パーク・ライフ/吉田修一

公園にひとりで座っていると、あなたには何が見えますか?スターバックスのコーヒーを片手に、春風に乱れる髪を押さえていたのは、地下鉄でぼくが話しかけてしまった美女だった。噴水広場でカラフルな弁当を広げるOL、片足立ちの体操をする男、小さな気球を上げる老人・・・。ベンチの隣に座って彼女と言葉を交わし合ううち、それまでなんとなく見えていた景色が、にわかに切ないほどリアルに動きはじめる。日比谷公園を舞台に、男と女の微妙な距離感を描いて、芥川賞を受賞した傑作小説。
ほかに東京で新生活をはじめた夫婦が、職場の先輩に振り回されてしまう「flowers」を収録。

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パーク・ライフ
流れるような日常が、絶妙な濃淡をもって描かれている。
小説は少なからず作者の作為を感じてしまう瞬間があったりするが、この小説は作為無作為の概念から切り離されたようなものだったように思う。

全く繋がりのない出来事を無意識に結びつけたり、人や状況に応じて意識的に距離感をはかって接したり、普段の平凡な「生きる」が詰まってた。好みだった。

flowers
「嫌いな奴のことが、そんなに嫌いじゃないんだな」っていう元旦という人物のことが最後まで嫌いになれなかった。
最終的に職場のみんなに嫌われていることがわかるのだが、その後も何事もなかったかのように数ヶ月働き続け、突然すっと退職してしまったこの流れはなんとも言えない気持ちになったと同時に、元旦ならまた別のところでうまくやるんだろうとも思った。

一方で本当に現実にいたら、しっかり私も嫌っていたのだろう。人間は適度な距離を取って自分の好き嫌いをコントロールしているのだ。

ニッポニアニッポン/阿部和重

17歳の鴇谷春生は、自らの名に「鴇」の文字があることからトキへのシンパシーを感じている。俺の人生に大逆転劇を起こす!―ネットで武装し、暗い部屋を飛び出して、国の特別天然記念物トキをめぐる革命計画のシナリオを手に、春生は佐渡トキ保護センターを目指した。日本という「国家」の抱える矛盾をあぶりだし、研ぎ澄まされた知的企みと白熱する物語のスリルに充ちた画期的長篇。

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今で言うところの無敵の人のお話。
長年自分の中だけで練りまくった内面世界は、社会とのギャップ、歪みが埋められない程に空いてしまう。
だが充電期間は十分、行動力だけは爆発的にある。そして主人公の春生もご多分に漏れず行動してしまうのであった。

いつもぐさっと刺さるのは、共感と距離が置かれてるか全く共感とは一切の縁を絶ってある小説であることが多い。

ちなみに、刺さりすぎてちょっと身体を動かしたはずみで、表紙が破れたのでもう一冊買おうかと思っているところである。

わたくし率イン歯ー、または世界/川上未映子

人はいったい体のどこで考えているのか。それは脳、ではなく歯――人並みはずれて健康な奥歯、であると決めた<わたし>は、歯科助手に転職し、恋人の青木を想い、まだ見ぬ我が子にむけ日記を綴る。哲学的テーマをリズミカルな独創的文体で描き、芥川賞候補となった表題作ほか1編を収録。著者初の小説集。

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これは。すごい小説だった。結構言葉を失うくらい打撃力の高さ。じぶんを奥歯だと語り、どんどん内面が浮き彫りになっていくさまは、本当に奥歯を見ているかのような、口をけてもらって奥の方にぽつんとあるような、奥歯そのものな気がした。

川上未映子さんは前述の阿部和重さんの奥様であることをwikipediaで何回か見て知ったはずなのに何度も忘れてしまう。川上さん、阿部さんともに、一人の作家として認識しすぎてしまっているからかもしれない。どちらもとても好きな作家。


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