2024.01 本のはなし(下)
前半はこちら。
1月後半に読んだ本
長かった1月が終わって嬉しい。輪郭はぼやけているが確かに生まれた日々の諸々の靄々を、読書でフラットに馴らすという日が続いた。なんとか人間の形を保てているのは、読書ありきのことであると、毎度痛感する。
N/A/年森瑛
カテゴライズできないマイノリティ、カテゴライズされてしまうマイノリティ。どちらにも明るい暗い要素が同じだけあるように思う。
長らく暗黙の空気に圧されてきたマイノリティに纏わる想いが徐々に明るみになったりする流れは昨今感じるものの、まだ内に秘めたまま騙し騙し生きる人が多数いる。
個人的な葛藤に、他人が関与する難しさを放棄しないで考え続けていきたいと思った。
暗渠の宿/西村賢太
けがれなき酒のへど
結局私は西村賢太が好きだ。どんなに純朴素朴な動機を持ってしても、この人ときたらまあ一貫して思いの通りにゆくわけもなく、転げ喚き、虚しさ寂しさに帰す。
そしてまた純朴素朴、振り出しに戻る。
たったこれだけのことなのに、ずっと面白いのは凄すぎる。もうすぐ2月5日、彼の命日である。
暗渠の宿
女性との交際を熱望するけがれなき酒のへどとはうって変わり、今度は一人の女性との交際にフォーカスをあてた暗渠の宿。女性がいようがいまいが、彼のブレがなさ過ぎる根本的性質が炸裂し、また面白い。
根が臆病で破滅型故に、女を持ったら持ったであらぬ不安に苛まれたり、小さなことで燃え上がったりと、大変に忙しい。
そして西村賢太のタイトル、いつも秀逸である。
パーク・ライフ/吉田修一
パーク・ライフ
流れるような日常が、絶妙な濃淡をもって描かれている。
小説は少なからず作者の作為を感じてしまう瞬間があったりするが、この小説は作為無作為の概念から切り離されたようなものだったように思う。
全く繋がりのない出来事を無意識に結びつけたり、人や状況に応じて意識的に距離感をはかって接したり、普段の平凡な「生きる」が詰まってた。好みだった。
flowers
「嫌いな奴のことが、そんなに嫌いじゃないんだな」っていう元旦という人物のことが最後まで嫌いになれなかった。
最終的に職場のみんなに嫌われていることがわかるのだが、その後も何事もなかったかのように数ヶ月働き続け、突然すっと退職してしまったこの流れはなんとも言えない気持ちになったと同時に、元旦ならまた別のところでうまくやるんだろうとも思った。
一方で本当に現実にいたら、しっかり私も嫌っていたのだろう。人間は適度な距離を取って自分の好き嫌いをコントロールしているのだ。
ニッポニアニッポン/阿部和重
今で言うところの無敵の人のお話。
長年自分の中だけで練りまくった内面世界は、社会とのギャップ、歪みが埋められない程に空いてしまう。
だが充電期間は十分、行動力だけは爆発的にある。そして主人公の春生もご多分に漏れず行動してしまうのであった。
いつもぐさっと刺さるのは、共感と距離が置かれてるか全く共感とは一切の縁を絶ってある小説であることが多い。
ちなみに、刺さりすぎてちょっと身体を動かしたはずみで、表紙が破れたのでもう一冊買おうかと思っているところである。
わたくし率イン歯ー、または世界/川上未映子
これは。すごい小説だった。結構言葉を失うくらい打撃力の高さ。じぶんを奥歯だと語り、どんどん内面が浮き彫りになっていくさまは、本当に奥歯を見ているかのような、口をけてもらって奥の方にぽつんとあるような、奥歯そのものな気がした。
川上未映子さんは前述の阿部和重さんの奥様であることをwikipediaで何回か見て知ったはずなのに何度も忘れてしまう。川上さん、阿部さんともに、一人の作家として認識しすぎてしまっているからかもしれない。どちらもとても好きな作家。
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