2024.02 本のはなし(上)
2月前半に読んだ本
2月に入って毎日胃痛と格闘、痛みのない世界を渇望している。最終手段である薬に頼る蛮行に走るのもやむを得ない痛み、パンシロンという胃薬を3食食前に流し込むと、すーっと痛みが引くのだから薬とは恐ろしい。本を読んでる間も幾分痛みを忘れられるので、本も大概恐ろしい存在である。
冥土めぐり/鹿島田真希
奈津子の言う「あんな生活」が少しでも人生のうちに存在すれば、人の人生は簡単に引っ張られ続ける。しかし、呪縛のような観念から開放される時も案外呆気なかったりするものだと思った。
この人なら開放してくれると、奈津子の本能が太一を選んだのかもしれない。太一が不治の病にかかったのは転機だった。考えようである。
終始不思議な雰囲気を纏っており、ノスタルジックな小説だった。
苦役列車/西村賢太
西村賢太の命日である夜、再読。
「やっぱり好きだなあ」と私以外に何人の人がこの方の作品を読んで思っただろうか。いつどのタイミングで読んでも好きを再認識させる作家である。
希望などない生活をただひたすらにきかされているはずなのに、何やら気力のようなものをもらえる。貫太の生活は息詰まっているはずなのに、謎の風通しの良さを感じるのは私だけだろうか。
送り火/高橋弘希
じめっと陰湿ないじめが題材なのにこんなにもカラッとしているのは何故だろう。加害者被害者とが入り混じり、みなが同じ人間、不謹慎ながらも愛おしく思えてしまう。
擁護する意図はないが、完全な被害者、完全な加害者は存在しない。だからいじめの問題というのは難しいし、終わりが来ないのだろうと思った。
当人たちの感情をそこまで直接語っているわけではないのに、高橋弘希の文章はどう感じて行動してるのかが伝わってくる。感情そのものを語るより、空気感を語り伝えるというのは間違いなく小説でしか成し得ないことだと思う。大変印象に残った。
グランド・フィナーレ/阿部和重
今消したい過去は逃げるほどに追い詰められる。沢見が望むグランドフィナーレを迎えられたかは不明だが、少なくともまだこの時点においてのグランドフィナーレは無数の可能性を孕んでおり、また次のフェーズに向かって時が進んでいくのだろう。
文庫版も持っているのだが、その解説も良かった。登場人物殆どが人間らしいのに、主人公だけ人間の形をしていない、たしかに。でもそもそも人間らしさというのは後天的なもので、人間の形をしていない主人公というのは逆に人間そのものだったりもするのだろうか。人間っぽくなさにこそ、その人らしさがあったりする気もする。
阿部和重氏の小説はとても好きらしく、ニッポニアニッポン然り、グランド・フィナーレ然り、読了後日を跨いでも得体のしれない緊張がある。
一体なにを読まされたんだ感、一種お薬的な副作用のような感もあり、とにかく消費できない魅力があった。主人公を好きにも嫌いにもなれなかったのもまた良かった。
この人の閾/保坂和志
日常は、なにか起こりそうな予感と、何も起こらない平坦さを常に併せ持っている。人との会話、何気ない行動、全部当人は当たり前のように過ごすのだが、当たり前こそが割と奇妙であって、面白い。機から見たら素朴で微笑ましい感じもするし、日常にしか存在しない緊張感なるものもたしかに存在する気がする。
生きることにどうしても意味を求めたくなる時がある。私は特に意味や目的主義の人間なので、そういうものを追い求めがちになってしまう。だが保坂和志の小説を読んでいるとそんなものはやはり不要だなと思わされる。
生きること自体の不思議を、不思議のままにする余地は大事だなと思った。
個人的にはプレーンソングの方が好みだったが、この人の閾もやっぱり好きだった。他の作品も読もう、保坂和志、いずれは全て制覇したい。
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