死神ヒーラー*  第35話「ワルノリ」

第2章『英雄の帰還』

第35話「ワルノリ」


―――武闘大会初日

 闘技場周辺は、朝早くから人でごった返している。内外には出店が並び、完全にお祭りムードだ。
 会場となる闘技場の正式名称は、ガルディガルド記念武闘場。収容人数は6万人と、東京ドームを凌ぐキャパを誇る。ローマのコロッセオのような円形のスタジアムで、屋根はない。大会は雨天でも決行される。
 自分は、念のためにと、ラド君が用意してくれた、白マント、白タイツ、白マスクにサングラスを着用して試合に臨む。拘束される可能性はなくても、“死神”として騒ぎになることを避けるためだ。やはり、出没情報がゴリン王国に届くのは好ましくない。

(でもこれって、ほぼほぼ、月光仮面のおじさんじゃん……。)

 着替えも終わり、控室で出番を待っていると……、

「おい、正義のヒーロー気取りぃ。てめぇが、俺様の対戦相手かぁ、ヴぁ??」

 突然、一人のチンピラに絡まれ、胸ぐらをつかまれる。

 他の出場者からの視線が集まる中、塩対応するのも可哀想なので、仕方なく、相手のテンションに合わせてイキってみる。

「ヴぁ??ワレ、誰じゃボケぇ!!」

「ヴぁ??天下無双、ピッピ村のギャノス様とは俺様のことじゃあ!!」

「ヴぁ??顔に似合わず、随分と可愛らしい村の出じゃのう??」

「ヴぁ??不良たちのバイブル、“マレッタ荒くれ物語”の舞台の一つ、ピッピ村じゃぞぉ!?」

「ヴぁ??知るかいな、そんなちんけな村ぁ!ワシだって、地元じゃ負け知らずじゃ!!」

 ……なんだか、ガチ〇コ・ファイトクラブみたいなノリになってきたが、一向に、竹〇さんが止めに来てくれる気配はない。

「ギャノス選手、チャンセバ選手、待機場までお越し下さい。」

 ちなみに、得意の偽名……、ではなく、リングネームでエントリーしている。待機場へと移動してきたが、ギャノス様の絡みはウザさを増していく。

「ヴぁ??俺様は知ってるぜ、お前の母ちゃんでべそなんだってなぁ!!父ちゃんは、万年係長かぁ!?ギャハハハハっ!!」

 的外れとはいえ、自分の家族に悪意が向けられると、流石に腹が立ってくる。

(こうなったら、どこまでも“悪ノリ”に付き合ってやろうじゃないか。)

 ……魔法の使用は、一切禁止されている。闘技場で、ヒールを使ったら流石に失格になってしまうだろう。でも、事前に相手に補助魔法を掛けるのはどうだ?これだとアウト寄りのセーフで、バレないのではないか?

(よしっ、民衆の面前で醜態を晒させて、恥をかかせてやる!)

「お時間5分前です。」

「ヴぁ??お前の命もあと5分だなぁ。」

「ヴぁ??軽口叩いていられるのも、今のうちだけじゃぞ。」

 前の試合の勝者がステージから降りてきて、注意が外に向いたタイミングで……、

「クイック。……ついでに、リヴァイブもだ。」

ヒュ~~~~ッ
ジュ~~~~ッ

 こっそりとギャノス様に、反転クイックと反転リヴァイブをお見舞いする。

「それでは、お時間です。」

「ヴぁ??何だか急に身体がダルくなってきたなぁ……。」

「ヴぁ??ここにきて、泣き言かぁ?わんぱく空手の極致、見せてやるけぇ。」

 千鳥足で向かってくるギャノス様に足を掛けて、無様にズッコケさせ、最後は、お尻を蹴り上げて、顔面から場外に落下させるとしよう。

(よし、勝利への道筋、ヴィクトリー・ロードは見えたっ!)

 登場ゲートを潜って、ステージへと上る。

「コタローさん、ファイトですっ!!」

「陛下、頑張って下さ~い!!」

「コタローさまぁ、ガンバ~!!」

 スタンドから3人の声援が届いたが、誰一人として、リングネームでは呼んでくれない。

「魔法や武器の使用は一切禁止、その他、目つき以外はあらゆる攻撃が可……」

 レフリーから、最後のルール説明を受ける。

「それでは、両者、向かい合って。試合開……」

ビーッ、ビーッ、ビーッ、ビーッ!


『ヴぁ……??』


 ブザーが闘技場中に響き、実況席からのアナウンスが聞こえてくる。

「お~っと、何だぁ??トラブルを知らせるブザーが鳴りました。……え~、只今入った情報によりますと、登場ゲートが魔力反応を検知したとのことです。……え~、どうやら、ギャノス選手に向けて、ディレイが掛けられていた模様です。」

(おいおい、登場ゲートがそんな仕様だなんて、聞いてないぞ!?)

「ということで、チャンセバ選手の反則行為により、ギャノス選手の勝利です!!」

「…………。」


『ブ~~~~~~~~~~ッ!!』


 地鳴りのように鳴り響くブーイング。そして……、


『かーえーれっ!、かーえーれっ!、かーえーれっ!、かーえーれっ!』


 呆然と立ち尽くす自分に、この世界に来てから二度目の“帰れコール”が浴びせられる。



―――闘技場のホール

 その後3人には、事の顛末を説明して謝罪する。

「ほんと申し訳ない……。」

「ご両親を侮辱されたのなら、陛下が怒るのも無理はないと思います。」

 ラド君のフォローが胸に刺さる。

「まぁ、でも、悪ふざけが過ぎたよ……。」

「大丈夫です。まだ、アビーがおりますので。」

「そ~だよ。アビーが必ず優勝するからぁ!」

「そっか、アビー、後は頼んだ!!」

「はいさ!」



―――闘技場前の広場

「やぁ、凄かったなぁアビー。一蹴りで、巨漢選手を場外だなんて。」

「よくやりました、アビー。完勝でした。」

 結局、アビーの初戦は、ものの10秒で決した。

「えっへん!!コタローさまぁ、アビー、エラい!?」

「うん、うん。エラぞ、アビー!」

「じゃあさぁ……、頭ナデナデしてっ?」

 アビーは当然のように頭ナデナデを要求してくる。

「……えっ、また頭ナデナデ!?」

「そーだよぉ。早くぅ!」

 自分がやらかしてしまった手前、アビーには気分よく勝ち進んでもらわないと困る。ここで、頭ナデナデをお預けにして、ヘソでも曲げられたら最悪だ……。

「……んじゃ、わかったよ、ほらっ。」

 エレナが出店を見ている隙を見計らって、アビーの頭を撫でる。

ナデナデナデナデ……

 例の如く、アビーはヒコーキ耳になり、しっぽをフリフリさせて喜ぶ。
 そこへ、人数分の肉まんを買ったエレナが戻ってくる。当然、自分には若干の緊張感が走る……。

「皆さん、どうぞ!」

「ありがとう、エレナ。」

「后様、ありがとうございます。」

「えへへへっ♪」

 エレナが、ニタニタッとしているアビーの顔を見た次の瞬間……、


ツ~~~~~~ン


 熱々だった肉まんが急速に冷却され、猫舌の自分にとっては、ちょうど食べ頃となる。

「あら、コタローさん?ワタシに何か云わなきゃいけないことありますよね?」

「肉まん美味しそうだなぁ……。やっぱ、グリーズの肉って最高だよね?」

 しかし、エレナさんにはそんな誤魔化しは通用しない。

「……で、またアビーの頭をナデナデしたんですか?」

「いや、それはぁ……、どうして、わかったの?」

「女性の嗅覚を見くびらないでくれますかぁ??」

「え~っとぉ……、本当、さーせんっしたっ!」

「わかってますぅ?正式に婚姻したとして、浮気なんてしたら、すぐにバレますからね??」

「あ、はい……。肝に銘じておきます。」

(結婚なんてしたら、完全なる、かかあ天下ですやん……。)

 ……その後、武闘大会は二日目、三日目、四日目と進み、アビーは、順調に勝ち上がっていく。一日に複数試合をこなすため、アビーもやや疲労の色を見せるが、試合後は、エレナがヒールでバックアップする。試合終了後、単に、体力の回復目的で治癒魔法を受けることは、ルールブック上というか、暗黙のルールで認められている。まぁ、MLBでいうところの、“Unwritten Rules”だ。
 ちなみに、無事、初戦突破を果たしたギャノス様は、二回戦で女性武闘家にワンパンKOされ、姿を消した。

 ……そして、大会は五日目を迎える。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

流石は、コタロー君、初戦でやらかしちゃいましたね。
悪ノリに付き合わず、普通に戦っても、瞬殺間違いなしだったのに……。
これで、賢者の杖と優勝賞金は、アビーの活躍に委ねられました。
次話は、武闘大会の準決勝です。

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