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現場の現実論としての自立支援と認知症ケア

自立支援や認知症ケア。
介護の仕事で「良い」と言われるものは、多くの施設の現場職員からすると、ハードルが高く感じてしまう。
人が足りない。時間が足りない。認知症ケアなんてのんびりやってる場合じゃない。
10年以上特養の現場で働き、10人以上を同時に食介したり、30床以上を一人夜勤で見ていた経験もあるので、よくよくわかる。
当時は10分の時間をどう作り出すかがテーマだと思っていた。余裕がない現場は、本当に余裕がない。

それでも。
それでもだ。

やっぱり、自立支援も認知症ケアもしたほうがいい。きれいごとでも理想論でもなく、全ては利用者様のために!とかでもなく、自分のための現実論として、やったほうがいい。

なぜやったほうがいいのか。
それは、自立支援をしない、認知症ケアをしない介護の仕事というのが、結果的に、どうしようもないくらい「楽しくならない」からだ。

安全と健康と長生きに最適化してきた施設が多い中、そのために「立たないでください」「座っててと言いましたよね?」と行動を制限し「1日1000㏄飲まなきゃいけないんでこれは全部飲んでください」とやってきた。
やってきた介護職員が悪いわけでは全くない。だって職場でそれが求められていたんだから。転ばせればクレームがくる。自立支援しなくてもクレームはこない。良い悪いではない。職場の価値観であり、指示だからね。

でも、ちょっと離れて見てみれば、他者に対してその行動を制限したり、飲みたくもないものを飲ませたり、そんなことをして楽しい人はまあ滅多にいない。誰だってそもそもそんなことしたくはないのだ。
でも、仕事の指示だからとやってしまう。そして毎日毎日それをしているうちに、感覚はマヒしていき、それが普通になる。慣れてしまう。
でも、行動には慣れてしまうのだけど、実は、他者に嫌なことをしているというストレスは「自覚のないまま溜まり続ける」んだ。
「座っててください」と言うたびに、強烈な自己嫌悪に陥っていたら仕事にならない。慣れてすぐ平気になる。
でも、実は自分にもストレスがたまり続けていく。
だから、毎日同じことを繰り返していく中で、なんとなく嫌な気持ちになる。人を制約する仕事に楽しい事なんてほとんど起こらない。嫌なことはいくらでも起こる。

本来の仕事である「介護」が制約だらけで楽しくない。でも毎日行かなきゃいけないし時間も長い。楽しいことがないのはあまりにつらいので、そうすると仕事そのもので楽しむのは諦めて、職員同士の人間関係で楽しさをつくろうとし始める。
でも、落ち着いて考えればわかることなんだけど、人に嫌な思いをさせる仕事の職場で、職員の人間関係だけが良いまま長く続くわけがない。そのうち人間関係は破綻し、仕事も人も嫌になって退職してしまう。
何で辞めたんですか?と聞かれると「人間関係です」と答えるけども、違うと思うのね。目の前の理由はそうだとしても、人間関係が上手くいきにくい理由も、人間関係しか依存先がない理由も介護の内容そのものにあることが多い。
本来の仕事である介護に楽しみがつくれないから、楽しみを人間関係に依存するしかなくなって、そこが破綻すると退職しかなくなる。
意欲がある人から先に辞めていってしまい、新しく人がきたとしてもそんなに良い人は早々こない。「最近きつくなったよね」「前の方が良かったよね」なんていうのはよく聞く話だ。

良いケアをしたい。自立支援をしていきたい。認知症ケアだってやりたい。
そう声をあげても、余計なことはするなと上司に言われ、絶望する。
仕方なく人間関係に依存して、それもダメになって退職する。
介護の退職理由の上位2つ。法人との考え方の違いと、人間関係。そのままだ。
多くの施設が、どれだけ人を失っても、それでもこの負のスパイラルから抜けようとせず、それでも安全と健康のために介護職に「人の嫌がることをする」という仕事をさせ、仕事の楽しみを奪い、良い仕事をするための人間関係をつくらせず、結果人を失っている。
法人の偉い人たちは、もうそろそろ気づいてもいいころだ。
人は他者に嫌な思いをさせることを延々と続けて全く気にしないでいられるほど強い生き物でもないし、鈍感でもない。
立つな動くな外に行くなと何年もやっていれば、やっぱり自分が壊れてしまう。

自立支援とかをやってきてない介護職が悪いわけでは全くない。これからまだ制約だらけの介護をせざるを得ない介護職が悪いわけでも全くない。
ただ、状況を好転させるためには、1日1つでも、10分でも、良いケアをし、それを共有し、施設の強みとしていかないといけない。強みを発信し、欲しい人材を定め、人を増やさないといけない。それをするためには、自立支援と認知症ケアはマストだ。
法人は人を増やすために。失わないために。一人ひとりは自分が辞めなくてすむように。良い仕事をする楽しみを、ほんのひとつからでもつくらないといけない。
それがないところに人は来ないし、むしろ去ってしまう。

自立支援も認知症ケアも、きれいごとではない。
自分が介護職として真っ当に楽しいと感じるため、生き残るための大事な手段だ。
そして、多くの管理職の人たちは、現場の「利用者に嫌な思いをさせる無自覚のストレス」を理解してほしいし、そうならない場づくりを意識していってほしい。
良いケアも良い場づくりも、とてもとてもめんどくさい。
でも、大事なことはめんどくさいの先にある。
転んだら家族からクレームがくる社会ではなくて、本人の主体性を奪うことに全員で危惧を覚える社会になったほうがいい。
自立支援も、認知症ケアも、最後は自分に還ってくる現実論だよ。

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