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当たり前じゃない鎌倉の歩き方

旅の音楽家から、久しぶりに仕事以外の連絡が入った。


「材木座海岸から、小坪マリーナというところまで、海の中を歩いて渡る道を見つけたの!明日行ってみない?」


私はアクセサリー作家としての出店が連日続いて、正直とても疲れていた。

だから出店が終わったら、たっぷりガッツリ寝てやる!と思っていたのに、

心が動いてしまう。

楽しそうなことへの欲求には、すこぶる弱いのだ。

少しだけ逡巡したものの、結局「いいね、行こう!」と返信した。



寝不足のまま電車に揺られ、爆睡しながら旅の音楽家の部屋のドアを開くと、彼女は電話で仕事の連絡をしていた。

電話を切ると、今度は私との打ち合わせ。

出発前にTokyo Benzaitenの金額設定や制作状況の確認をする。

彼女は本当によく働くなぁ、としみじみと関心してしまう。

いつだって、旅先でさえ、仕事から完全に離れることはないのだ。

旅先くらい仕事のことを忘れたら良いのに、という人もいるけれど、彼女の場合は全ての行動が仕事につながっている

逆を返せばどこででも収入につながるのは大きな強みだと思うし、私も今徐々にそうなっていくのだろうな、と思う。



さて出発という段になると、彼女はおもむろに商品をまとめだした。

「今日、いい場所があったら商品写真も撮ろうと思って!」

そう、またも仕事をしに行くのだ。

運転をしてくれるのは、studio iota label 所属の鍵盤ハーモニカプレーヤー

「途中、ガレットが美味しいカフェがあるけど、寄りますか?」

彼の素敵な提案に胸踊らせながら、鎌倉へ向かう。

カフェ周辺でも、車を降りると最適なスポットを見つけては、素早く写真を撮る旅の音楽家

カメラを構える彼女のハットには、私が作ったバラのハットピン。

クレープリー・アルモリックの席について注文したのは、鍵ハモ師匠おすすめのガレットではなく、クレープ。

クレープリー・アルモリック
鎌倉市大町2-2-34-1
TEL:0467-22-7186
9:00~17:00(LO)
金曜日と土曜日 20:00(LO)
定休 木曜日、第3水曜日

さっきまで、ガレット!わーい!って言ってたのに・・・

旅の音楽家は、砂糖とバターのクレープに生クリームをトッピング。

私はオレンジとチョコレートの鉄板の組み合わせ!自由な二人だ。

昼食もしっかり食べたばかりだったのに、ぺろりと平らげてしまった。

お腹を満たして向かった材木座海岸は、平日だったこともあってか、犬の散歩をしている人とパドルサーフィンをしている人がポツポツいるくらいの、穏やかな海岸だった。

海岸に着くと、鍵ハモ師匠は釣りを、私たちは商品の撮影を始める。

旅の音楽家が私に商品を持たせると、テンポよく写真を撮っていく。

愛情を持って商品を見つめてみて!という指示に、笑いをこらえて精一杯の愛情を絞り出す。


撮影が終わったころ、夕日が沈み始めた。

それぞれ好きな場所で写真を撮ったり、釣りをしたり、本当に自由に過ごしている。

私はと言うと、膝くらいまでの海の中の道を歩きながら、小魚やヤドカリを見つけたり、夕日を眺めたりしていた。

ワンピースの裾をまくって海にザブザブ入っていくのをみて、旅の音楽家が言った。

「思い切りいいね!」

だって、楽しそうなことへの欲求にはあがらえないんです。

前回の記事でも、電撃直球派と称されていますから。

そういう自分だって、旅先で知らない人にパラグライダーさせてもらったくせに。

十分思い切り良いじゃないか。

そんなことを思いながら海の中を散歩するのは、予想よりずっと楽しかった。

海の道を渡って岩場に座ると、山の向こうに夕日が沈むまで眺めていた。

遠くには霞む富士山が見えたり、空にかかる雲が大きなXを描いたりしている。

夕日はどこでみても綺麗だけど、海は格別。

強い海風に吹かれるままになっていると、少し寒くなってきたので、ロンハーマンカフェに入った。

「昼間のテラスでヨットを見ながらランチするのも良さそうね」

旅の音楽家「ここwifi飛んでる!仕事できるね」

ワーカホリックめ。

Ron Herman Cafe 逗子マリーナ店
0467-23-2153
神奈川県逗子市小坪5-23-10 リビエラ逗子マリーナ本館1F
営業時間 11:00~19:30



今年のホタルはすごいらしい。

「この後はホタル見て、鉄板餃子を食べに行きたい!」

ワーカホリックの旅の音楽家が言った。

ホタル!!ホタルなんて、椿山荘で放たれてるのくらいしか見たことない!

車で20分程移動して、少し歩くと小さな川にかかる橋があった。

そこにはすでに4,5人の人がいて、三脚で撮影しているカップルもいた。

その人達が見ている暗闇に目を向けると。。


黄色とも白とも言えない、幻想的なホタルの光がふわりふわり舞っている。

すぐ横に住宅がある環境で、天然のホタルがこんなに沢山見られるなんて。

「今年はホタルが多いんですよ。今しか見られないから、絶対見たほうが良いと思って。地方まで行かなくてもこんなにいるんですよ」

鍵ハモ師匠が若干興奮気味に教えてくれる。

鎌倉のこと、本当に好きなんだなぁ。


でも、言われたとおり。

こんなに沢山のホタルが自生しているなんて、ちょっと感動だ。

ふと、日常の事を思い出して現実に引き戻されたり、また光に魅入られて夢のような気持ちになったりする時間を味わった。

この数週間、不安が溢れてどうしようもないときがあった。

どんなに心をさらけ出して向かい合おうとしても、分かり合えないこともあるし、そもそも相手は向かい合う気もないのかも知れない。

さらけ出したものを手土産にされて、自分が伝えて欲しくない相手に伝わってしまうこともあるかも知れない。

人との距離感は、その時の自分のコンディションや周りの状況によって流動的なものなのに、こうあるべき、という自分の姿からずれると怖くなる。

そんな、〜かも知れない、なんていうごちゃごちゃを抱えて、どうにも処理できなくなっていた。

ありがたいことに、仕事の方はこういうときに限って順調だったりするので、昼間は悩む暇もないくらい忙しかった。

その忙しさが一段落して、さあ、またあのモヤモヤがやってくるぞ、という時。

そんなタイミングで、今回のお誘いがきたのだ。

心が洗われるなんて普段は中々感じないけど、こういうことを言うんだろう。

美しい景色は、気持ちをリセットするとまではいかなくとも、一旦棚上げしてくれる。忘れなくても、ふと力が抜けて許せたりとか。


なんていいタイミングなのかしら・・・

ホタル!!そして旅の音楽家鍵ハモ師匠


帰りに寄った中華屋さんで、こんな量食べきれるかしら!?

という凄い量の料理が出てきたけれど、お腹いっぱい!!

と言いながら、お皿は全部綺麗になった。

媽媽厨房 (マーマチュウボウ)
0463-72-0099
11:30~15:00~(L.O.14:30)、17:30~翌0:00(L.O.23:30)
ランチ営業、日曜営業


勝手な行動が多い、自由過ぎる三人の意見が、すっとまとまった。

「自分で頼んだご飯を残すのは、絶対だめよね」「絶対ダメ」「だめだね」



当たり前で単純なことしか同意出来なくても。

全部分かり合えなくても。

同じご飯を食べて笑えたらまあ、いっか。


海の中を歩いて渡って夕日を眺めて、ホタルを見る、なんて。

ちょっといつもと違う鎌倉を味わうことができたんだから。


Aromariage 鷲尾直美

お花、旅、音楽、の日々つれづれコラムです。
アクセサリーデザイナーと旅の音楽家という女性2人によるインテリアブランド「TOKYO BENZAITEN by studio iota label」と申します。
流木やドライフラワーなどボタニカル素材を使用したインテリアを企画・販売し、アウトドアライフを送ってます。

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