憑いて来る 憑かれた男の独り言

何かが俺の後ろをついて来る

立ち止まれば足音も止む

振り向くのは少し怖い

俺に恨みのある人間か

それとも

妖怪、悪霊の類か

俺はまた歩きはじめる

するとまた足音がついて来る

もしかしたら妻が・・・

いや、そんなはずはない

まさか、愛人のK子が・・・

それも違う

ひょっとすると

昔、恋人だったA美が・・・

あり得ない

フフフッ

俺は馬鹿な事を考えている

あまりの馬鹿馬鹿しさに

思わず笑ってしまう

妻も愛人も昔の恋人も

きちんとお別れを言って

それぞれ深い穴の中に埋めたのだから

こんな所に

来れるはずがない

今日は

最近知り合った女を

山奥に埋めた帰り道

車が溝にはまり動けなくなった

誰か通る者はいないかと

少しだけ待ってみたが

1台の車も通らない

それもそのはず

誰にも見られない様にと

この場所を選んだのだから

仕方なく俺は人気のない山道を

とぼとぼと歩いた

後ろからついて来る足音は

少しずつ、そして確実に

近づいてくる

俺は足を早める

どれほど歩いただろうか

足音はもう

俺のすぐ後ろに迫っていた

人里はまだ遠い

山の向こうに夕日が沈んだ

夕闇があたりを包む

もう立ち止まる事は出来ない

もし、立ち止まれば・・・

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