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4月の息が細くなり、生ぬるい空気が漂う日々が続いている。頭がおかしくなりそうな低気圧がぼろぼろと雨粒をこぼして、初夏の植物はのびのびと育っている。わたしは割れるような頭痛に悶えながら「ツツジが咲くならそれで…」とバファリンを飲むのでした。
朝、7時には家を出てなかなかに密度の高い電車に揺られ7、8駅目で降りる。駅前のロータリーを過ぎると南国みたいなピンクをしたツツジが咲いている。心底、「救われる…」と思った。4月は厳しい分、こういう感じで救いをくれる。でもやはり救いがある分厳しさがとても痛い。春の厳しさが嫌い。
冬の好きなところは、毎日同じなところです。別に寒いのが好きというわけではない。飴も鞭もなく平坦で無関心でやさしい。あなたは東京の駅みたいな顔をしているね。

羊文学のStepという曲を何度も聴いている。息をするように聴いていたため「壁に空けた穴くらいにしか君の人生を変えていない」という詩があったことに最近まで気がつかなかった。
わたしは毎日変えられてばかりだ。花に、季節に、言葉に、気圧に。愛しくて苦しい穴だらけ。こうやって文章を書いていても、さっき保存し忘れたままブラウザを閉じ、振り出しに戻ったことで人生に樹海の洞窟くらいの大きさの穴があいたような気になっている。

カラオケ館の一室でStepを歌っていたとき、わたしはあなたの人生を変えられたかな、とふと思った。安っぽいカラオケムービーの知らない女性が走っている。カラオケムービーの主人公は皆いつも急いでいる。
あなたにわたしが空けた穴があったら嬉しいから教えてほしいがそんなことは言うタイミングも勇気もない。冬はやはりやさしく、どこまでも冷たいのでした。
サビも終わる頃4月も終わるのだなと思った。どこからか5月の声が聞こえてくる。隣の部屋のドア、よく閉まってなかったんでしょうね。

ツツジが満開。


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