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[暮らしっ句]白木蓮[俳句鑑賞]

「死」や「過去(あの世)」が暗示された句を集めましたが、
どんな暮らしにも影があるわけで、
日常の中の「影」と思っていただければ……

 詩の舟の ひそかに着きぬ 白木蓮  小澤克己

「詩」という漢字には「寺」があります。単純な発想ですが、詩には「この世」と「過去(あの世)」を結ぶ役割りがありそう。
「詩の舟」が海を渡って白木蓮に漕ぎ寄せた。これイメージできますか? 心象風景のようですが、実景でもあるんです。白木蓮はよく撮影していたのですが、昼間でも暗がりに咲いてると感じられることがありました。
 不思議ですが、今回、句集を拝見していて「死」や「あの世」と結び付けた句がとても多く、自分だけじゃなかったんだと。

 さて、舟人は白木蓮にたどり着いて、何をしようというのでしょう?
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 白木蓮の黙を解かむと 幹に触る  安達実生子

 どうやら白木蓮は出迎えてはくれなかったようです。そこで詩人はまず「黙を解こうとした」。そうしないと話が出来ませんから。

「あなたは、どうして白木蓮になったの?」
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 空つぽに なりたくて咲く 白木蓮  大倉郁子

「空っぽになりたかったから……」

 玉葱を剥いても剥いても何も出てこないと云いますが、玉葱は「空っぽ」ではありません。「空っぽ」というのは、あるべき場所に何も無い状態。
 うーん、トンデモ心が刺激されます~ 連想されたのは「魂」。

「死ぬとすべてが消えるのか?」「魂は存在し続けるのか?」という問答がありますが、この句が暗示するのは「魂=器」。魂が不滅だというのは「器」が不滅ということかもしれませんね。中の命は死ねば消える。でも「器」は不変。ちなみに「器」は私有物ではなく「公器」で、死は「器」の中の「我」の消滅…… とかなんとか

 作品に戻ります。
 白木蓮にかけて「空つぽになりたい」と云ってるわけですから、「死」の影があるわけです。しかし、思いつめた感じはなく軽いくらい。たぶんそこがポイント。どうして思い詰めないのか?
 少し理屈を云うと、認識を変えれば現実が変わるということがあります。「認識」というと難しそうですが、若い頃なら、恋人が出来ただけで世界が輝くわけで…… そういうことです。
 ただ、つらい状況から一気にハッピーになるのは難しい。現実的な目標はゼロに戻すこと。つまり「空っぽ」。
 話がまたまた逸れたようですが、「死」とか「あの世」と結びつけられがちな白木蓮を、この作者は「生」への手がかりとしたのだと思います。

この作者の「小舟」は「白木蓮」に漕ぎ着けて、
「黙」を解いて、白木蓮からこんな言葉を聴き出した。

「わたしは、空っぽになりたくてこの姿になったの」

あなたも一度、空っぽになったら?
 自分が空っぽになれることを見つければいいのよ。
 そしたら、ラクよ……

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出典 俳誌のサロン 歳時記 白木蓮 
白木蓮
ttp://www.haisi.com/saijiki/hakumokuren1.htm



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