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30か国で組織づくりに携わってきた実践者が語るファンドレイジング型の組織になるためのエッセンス:F&Pファンドレイジング・フォーラム2023レポート⑤

2023年8月末、オーストラリアの非営利団体Fundraising & Philanthropy(F&P)がシドニーで開催したファンドレイジング・フォーラムに参加してきました。

本記事では、同フォーラムのマスタークラスセッション「Creating a culture of fundraising – how to get your organisation on board」とオープニングセッション「How to accelerate a fundraising organisation」、最後のセッション「How to build a high-performing fundraising team」からの個人的な学びや気づきをまとめています。

ちなみに、マスタークラスセッションとは、ワークショップ等を含むファンドレイザー向けの実践的な内容のセッションのことです。

このセッションのスピーカーは、非営利セクターだけでなく、パブリックセクターやビジネスセクターに対しても組織づくりのサポートを行っているRevolutioniseのCEOのAlan Clayton氏。
スコットランド出身の方なので、イギリスやスコットランドの事例をもとに話していらっしゃいました。


ファンドレイジング型の組織になるために乗り越えるべき「衝突」

Clayton氏は、重要な前提として、ファンドレイジングに成功している組織は、自分達(非営利組織)には2種類の全く異なるカスタマーがいることに気付いていると言います。
それを表しているのが、下記の図です。一つが寄付者(Donors)であり、もう一方がサービス利用者(Service users)です。活動分野で呼び方は若干違うものの、サービス利用者は「受益者」や「被支援者」のことを指しています。

ファンドレイジング型の組織が認識すべき2種類の異なるカスタマー(スライド資料より)

しかしながら、ファンドレイジングがうまくいかない組織は、寄付を募ってはいるが、サービス利用者(Service users)にのみ意識が向いてしまっていると指摘します。

ファンドレイジングがうまくいかない組織の注意の向く先(スライド資料より)

そして、ファンドレイジング型の組織に変化していくプロセスにおいて、ファンドレイジングがうまく進まず、ファンドレイザーがその組織を離れる一番の要因となっているのは、「『ファンドレイジング』について沢山の意見を述べてくるアマチュア達(Amateurs with a lot of opinions on fundraising)」であると言います。
(私も今まで関わってきた中で、そういった類の人達と何度も遭遇したことがあるので、分かりみが深かったです)

ファンドレイジングがうまく進まず、ファンドレイザーが組織を離れる一番の要因(スライド資料より)

こうした組織内のメンバーのファンドレイジングへの理解度が異なっている中で起きてしまう文化的な衝突(Cultural conflict)やコミュニケーション上の衝突(Communication conflict)は、組織として乗り越えるべきものであると述べられていました。

文化的な衝突の諸要素(スライド資料より)
コミュニケーション上の衝突の諸要素(スライド資料より)

この衝突を乗り越えるために、ファンドレイジング型の組織になっていくよう組織文化を発展させる(Cultural development)アプローチを取る必要があると言います。セッション中では、寄付者のストーリーを組織全体で共有をするチームビルディング的なワークショップが、方法として紹介されていました。

日本のソーシャルセクターでは、システムコーチングをはじめ組織づくりに活かせる対話型のワークショップを取り入れる非営利組織も少しずつ出てきているので、ファンドレイジング型の組織になるように組織づくりをしていこうと考えている方々は、ぜひ検討されると良いでしょう。

知識やノウハウだけでない、ファンドレイジングのプロフェッショナルにとって大切なもの

各セッションにおいて、ファンドレイザーにとって大事なエッセンスが散りばめながら、Clayton氏は語っていました。

その中でも、個人的に納得したのがこちら。

医者や士業などのプロフェッショナルの多くは「感情」を排するようにしているが、ファンドレイジングのプロフェッショナルにとって「感情」は重要な要素だ。
他のプロフェッショナルとは異なるこの点が理解されてないと、組織的にファンドレイジングを進める際にうまくいかなかったり、組織内から変化を止めようとする人さえ出てくる。
だから、ファンドレイジングにおいては「感情的なつながり」を大切にしなければいけないよ。

マスタークラスセッションでのAlan Clayton氏のコメントを意訳

これは、組織内コミュニケーションだけでなく、寄付者とのコミュニケーションにおいても当てはまると私は思っています。

日本では、ファンドレイジングが「資金調達」と基本的に訳されますが、その言葉から想起するのか、会計士や税理士、投資信託などのファンドを運用する専門家のようなイメージを持ちながら、ファンドレイザーに相談してくる日本の非営利団体の方々が、自分の実体験だけでなく他のファンドレイザーから聞いた話を含めて結構いらっしゃいます。

そうした団体は、組織内や対寄付者における「感情的なつながり」よりも、寄付をはじめ収入を増やすことにばかり意識が向いてしまっているように思います。組織としてファンドレイジングを行っていきたい場合は、「感情的なつながり」を大切にすることを心掛けたいですね。

ファンドレイザーの存在意義

Clayton氏のセッションを聞いて疑問に感じたのが、イギリスやオーストラリア等の英語圏の国では、日本よりも寄付が根付いているのに、なぜファンドレイジングがうまくいかない非営利団体があるのかということです。

これについて、Clayton氏に直接聴くことはできなかったのですが、Revolutioniseの社員であるMaree Daniels氏とフォーラム会場で何度か話すタイミングがあったので、彼女に質問してみました。

(学校などで)ほとんどの人達が寄付集めを経験しているからといって、戦略的なファンドレイジングや組織的なファンドレイジングができるわけではないのよ。だからこそ、私達のような組織づくりをサポートする役割の人達が必要なの。

Maree Daniels氏のコメントを意訳

単なる資金調達を専門にする人にとどまらない、ファンドレイジングのプロフェッショナルとしての「ファンドレイザー」の存在意義を、日本よりも寄付やファンドレイジングが当たり前にある社会(国)のファンドレイザー達から教えていただきました。

フォーラム最終日にAlan Clayton氏と(筆者撮影)

最後に

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