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むしょうに「普通の味」が恋しい日がある #路上文藝 011

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「ヨボヨボのおっさんが心を込めてつくった普通の味のラーメン店」

とあるラーメン店が、ロードサイドに設置した看板です。

ポジな表現ではない。
なのに、めちゃめちゃ食べたくなる。
しみじみ、いいコピー。
未知の味にチャレンジできるほどテンションがあがらず、「普通の味」が恋しくなる日、ありますよね。

なにより僕自身が、もうヨボヨボ。
シンパシーを抱かずにはいられません。
できれば麺は柔らかめがいいな。
もう歯が、あんまりないので。

「ヨボヨボ」から推しはかるに、おそらくご店主さんは、お年を召しておられるのでしょう。

ライターという仕事柄、お年寄りを取材する機会が少なくありません。
その際に皆さん「自分の人生なんて普通だから」と謙遜されます。

けれども、訊けば皆さん波瀾万丈。

あるたこ焼き屋の店主さんは、かつて店が全焼し、九死に一生を得ていました。
ある銭湯のご主人は若かりし頃に学生運動に参加し、逮捕歴がありました。

どの方の生き方もダシが効いていて、奥深い味わい。
そうして「普通とは、なんなのか」と改めて考え込んでしまいます。

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さて、というわけで、実食してまいりました。
はるばる徒歩10秒かけて、のれんをくぐってみたんです。
「ヨボヨボのおっさんが、どんな枯れた味のラーメンを出してくれるのだろう」と期待して。

すると……スープは濃い目のとんこつ醤油。
さらにしっかり背脂が浮いた、想像以上にブレイブな味。
湯気とともに立ちのぼる香りもパンチが効いています。
血気盛んな若者に充分対応するマッチョなひと品。
ご店主さんも、ヨボヨボどころか、かくしゃくとしていたし。

「そうだよな。いま『普通の味のラーメン』といえば、こっちだもんな。むしろ懐かしのシンプルなラーメンのほうが普通の味じゃないわ」

頭に描いていたものとはずいぶん違った現在進行形のラーメンでしたが、これはこれで好きなタイプ。大満足。

いやあてっきり、老練寡黙な店主さんがつくる昭和レトロふうな中華そばをいただけるのだとばかり。
固定観念に縛られていました。

「あんた、ヨボヨボのおっさんより価値観をアップデートできていないよ」と、今日も街の言葉からピリッピリに辛いコショウをふりかけられたわけです。

#路上文藝 」とは「街のいい文章を見つけ、味わい、名も知らぬ文学者たちをリスペクトする運動」を意味します。

#路上文藝 010 「大げさ」な人には近寄りません

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*画像は「縦」「引き」「アップ」でも撮影しています。

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